3 【事業の内容】
当社グループ(当社及び連結子会社であるXpiber株式会社、Spiber (Thailand) Ltd.、Spiber Holdings America Inc.、Spiber America LLC、株式会社YUIMA NAKAZATOにより構成されています。以下同じ。)は、より豊かで持続可能な社会を実現するため、人類が直面している様々な世界規模の課題を解決することを使命としており、「構造タンパク質」を持続可能な新世代の基幹素材として普及させるための研究開発に取り組んでおります。当社グループの主要な事業セグメントは構造タンパク質事業であります。
(1) 研究開発の概要
約38億年前の生命誕生以来、地球上のあらゆる生物はその体を造る基幹素材としてタンパク質を利用してまいりました。クモが命綱に使う糸の重さあたりの強靱性は鉄の約340倍であり、その優れた衝撃吸収性は他を圧倒しております。アリの歯はチタン合金並みの硬度を有し、ある種の昆虫に見られる驚異的な跳躍力は彼らに搭載されたエネルギーロスの少ないゴム組織により実現されております。ウールやカシミヤも生物由来の材料ですが、保温性や吸湿速乾性など、衣料材料として優れた特性を有することは広く知られております。これらの主成分はみなタンパク質であります。タンパク質は20種類のアミノ酸からなる生体高分子であり、結合させるアミノ酸の種類や個数を変えることで多様な機能を生み出すことができます。地球上には、何十億年もの間、突然変異と自然淘汰の中で洗練されてきた膨大な種類のタンパク質が存在しております。
石油をはじめとする化石資源に頼らず、地上資源の循環によって成り立つ持続可能な社会を実現する上で、タンパク質素材の果たしうる役割は大きい一方、その普及には多くの障壁が存在します。生き物が作り出す素材は、魅力的な性能を持つ一方で、工業利用に必要なその他の基本性能や均質性の担保に課題があり工業利用は困難を極めます。また、クモを始めとし、そもそも家畜化に適さない生物も多く存在します。タンパク質を素材として普及させるには、それぞれの産業・用途で求められる性能要件を満たすタンパク質素材を、低コストかつ安定した品質で生産する技術の確立が必要不可欠であります。こうした背景の中、以下の素材開発/生産プロセスを基盤に当社の開発する構造タンパク質素材(以下、「本素材」といいます。)を普及させるための研究開発に取り組んでおります。
① プロセスの概要
当社グループでは、独自の分子構造・性能・生産性をもつタンパク質を分子レベルで設計する技術、設計したタンパク質を人工的に大量生産する技術、大量生産したタンパク質を繊維・樹脂・フィルムなど用途に応じた形態の素材に加工する技術を独自に開発しております。
(A) 分子設計:目的の特性をもつタンパク質素材を得るためのアミノ酸配列をコンピューター上で設計します。
(B) 遺伝子合成:設計したタンパク質に対応する遺伝子 (DNA)を化学的に人工合成します。
(C) 発酵:合成した遺伝子を導入した微生物に糖類等の栄養源を与えて培養し、設計したタンパク質を生産させます。
(D) 精製:発酵後の培養液から設計したタンパク質を取り出し、微生物の残渣等から分離します。
(E) 加工:設計したタンパク質を加工し、繊維・樹脂・フィルムなど後工程での用途に応じた形態に成型します。
※画像省略しています。
② プロセスの特徴・革新性
(A) テーラーメード分子設計:当社グループではこれまで既に大量のタンパク質分子を設計し、素材としての機能性・生産性などの評価をしてデータベース化しております。こうした膨大なデータから、アミノ酸配列の違いが強度、伸縮性、親水・疎水性、紫外線耐性、生体適合性などの素材特性にどのような影響を与えるかについての知見を蓄積しております。分子設計が可能であることは本素材の極めて画期的な特徴であり、すなわち最終用途に応じて求められる性能の素材をテーラーメードで設計できるようになることを意味します。これは「素材ありきのものづくり」から、「用途ありきのものづくり」へのパラダイムシフトであります。
(B) 環境性:本素材は、微生物を用いた発酵プロセスによって生産しており、その原材料、すなわち微生物の栄養源は、糖類などの農業作物由来の資源(バイオマス)であります。石油等の枯渇資源に頼らず、バイオマスを原材料として生産が可能であり、高い生分解性も期待できることから、持続可能な循環型素材といえます。
(C) 単一プロセス複数プロダクト:微生物を利用したタンパク質の発酵生産においては、タンパク質の設計図となる遺伝子さえ変えれば、ひとつの生産プロセスで膨大な種類のタンパク質の生産が可能です。すなわち、同一工場、同一原料で無数のバリエーションの素材が生産できます。
(2) 事業の概要
当社グループは、現在は構造タンパク質素材の普及に向けた研究開発段階にありますが、中期的には当社グループで構造タンパク質素材の商業生産を行い、顧客に対して構造タンパク質素材、又は素材を用いた製品を販売することで収益基盤を構築する予定でおります。2019年にはTHE NORTH FACEブランドにてTシャツ(PLANETARY EQUILIBRIUM TEE)、アウトドアジャケット(MOON PARKA)を発売し、当社が独自に開発したBrewed Protein™ (ブリュードプロテイン™)の生産・販売を開始しました。
なお、2018年11月21日に設立したSpiber (Thailand) Ltd.が、タイ国において2022年以降にBrewed Proteinの商業生産を開始する予定です。更に、米国においても、商業生産の拡大を目的にArcher-Daniels-Midland Companyと協業提携をしております。なお、2020年9月8日にSpiber Holdings America Inc.、2020年9月9日にSpiber America LLC.を設立しました。また、2014年9月に小島プレス工業株式会社との合弁により設立したXpiber株式会社は、その原料を用いた素材の製造・販売に関する一部機能を担う予定であります。 そして、当社グループが目指す長期的なビジネスモデルは、知的財産の独占的基盤に基づく「ライセンスビジネス」であります。当社グループによる素材の商業生産により普及の礎を築いた後は、第三者への技術ライセンスを行うことで素材製造規模を加速度的に拡大し、世界規模での普及を実現する予定であります。
3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況及び分析・検討内容は次のとおりであります。
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。なお、当社グループは構造タンパク質事業の単一セグメントであるため、セグメント毎の記載はしておりません。
① 財政状態の状況及び分析・検討内容
第14期連結会計年度(自 2020年1月1日 至 2020年12月31日)
(単位:千円)
|
前連結会計年度
|
当連結会計年度
|
増減金額
|
主な増減理由
|
(資産)
|
17,442,047
|
30,492,899
|
13,050,851
|
現金及び預金の増加、Archer Daniels Midland CompanyとManufacturing Collaboration Agreement等を締結したことに伴う長期前払費用の増加によるものであります。
|
(負債)
|
3,177,813
|
16,375,916
|
13,198,102
|
長期借入金の増加によるものであります。
|
(純資産)
|
14,264,233
|
14,116,982
|
△147,251
|
株式発行に伴う資本金及び資本準備金の増加の他、親会社株主に帰属する当期純損失に伴う繰越利益剰余金の減少によるものであります。
|
第15期連結会計年度(自 2021年1月1日 至 2021年12月31日)
(単位:千円)
|
前連結会計年度
|
当連結会計年度
|
増減金額
|
主な増減理由
|
(資産)
|
30,492,899
|
66,263,905
|
35,771,005
|
現金及び預金の増加、Archer Daniels Midland Companyとの契約に伴う長期前払費用の増加によるものであります。
|
(負債)
|
16,375,916
|
41,806,153
|
25,430,236
|
長期借入金の増加によるものであります。
|
(純資産)
|
14,116,982
|
24,457,751
|
10,340,768
|
新株予約権の発行に伴う増加の他、親会社株主に帰属する当期純損失に伴う繰越利益剰余金の減少によるものであります。
|
② 経営成績の状況及び分析・検討内容
第14期連結会計年度(自 2020年1月1日 至 2020年12月31日)
(単位:千円)
|
前連結会計年度
|
当連結会計年度
|
増減金額
|
主な増減理由
|
(営業収益)
|
200,000
|
200,000
|
-
|
-
|
(営業損益)
|
△5,140,922
|
△4,812,005
|
328,916
|
新型コロナウイルス感染症の拡大による事業環境の不透明さに対応すべく、支出の見直しを行ったことにより営業損失が減少しております。
|
(経常損益)
|
△5,137,359
|
△6,194,996
|
△1,057,636
|
営業外費用の増加(主に資金調達に関する支払手数料の増加)によるものであります。
|
(親会社株主に帰属する当期純損益)
|
△5,271,308
|
△6,559,021
|
△1,287,713
|
経常損失の増加の他、投資有価証券売却益の減少、減損損失の増加、及びリース解約損の増加によるものであります。
|
第15期連結会計年度(自 2021年1月1日 至 2021年12月31日)
(単位:千円)
|
前連結会計年度
|
当連結会計年度
|
増減金額
|
主な増減理由
|
(営業収益)
|
200,000
|
500,000
|
300,000
|
契約金収入に伴う増加によるものであります。
|
(営業損益)
|
△4,812,005
|
△3,596,554
|
1,215,451
|
営業費用の減少(主に支払報酬、減資による事業税の減少)によるものであります。
|
(経常損益)
|
△6,194,996
|
△4,785,772
|
1,409,223
|
営業外収益の増加(主に為替差益)によるものであります。
|
(親会社株主に帰属する当期純損益)
|
△6,559,021
|
△4,857,594
|
1,701,426
|
投資有価証券評価損の増加の一方で、経常損失の減少の他、減損損失の減少、及び関係会社株式売却益の増加によるものであります。
|
③ キャッシュ・フローの状況及び分析・検討内容
第14期連結会計年度(自 2020年1月1日 至 2020年12月31日)
(単位:千円)
|
前連結会計年度
|
当連結会計年度
|
増減金額
|
主な増減理由
|
(現金及び現金同等物)
|
4,274,042
|
8,883,949
|
4,609,906
|
-
|
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
|
△2,371,613
|
△2,338,876
|
32,737
|
税金等調整前当期純損失の増加の一方で、支払手数料(営業外費用)が増加したことによるものであります。
|
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
|
△3,780,176
|
△5,428,826
|
△1,648,650
|
設備利用権等の取得による支出の増加によるものであります。
|
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
|
3,039,965
|
12,395,579
|
9,355,614
|
長期借入による収入の増加の一方で、長期借入の返済による支出の増加、アレンジメントフィーの支払額の増加、リース契約解約金の精算による支出の増加、及び株式の発行による収入の減少によるものであります。
|
第15期連結会計年度(自 2021年1月1日 至 2021年12月31日)
(単位:千円)
|
前連結会計年度
|
当連結会計年度
|
増減金額
|
主な増減理由
|
(現金及び現金同等物)
|
8,883,949
|
33,210,905
|
24,326,956
|
-
|
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
|
△2,338,876
|
△3,253,995
|
△915,119
|
支払利息の増加、及び税金等調整前当期純損失の減少によるものであります。
|
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
|
△5,428,826
|
△10,806,488
|
△5,377,661
|
長期前払費用の取得による支出の増加、及び投資有価証券の取得による支出の減少によるものであります。
|
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
|
12,395,579
|
38,228,044
|
25,832,464
|
長期借入による収入の増加、及び株式の発行による収入の増加によるものであります。
|
④ 生産、受注及び販売の状況
a.生産実績
アパレルブランド向けのテキスタイル素材販売、および化粧品ブランド向けの原料販売を目的として、当社が独自に開発したBrewed Protein ™ 素材の生産を行った。
b.受注状況
上記プロジェクトに関連して、テキスタイル素材および化粧品原料を受注した。
c.販売実績
上記プロジェクトに関連して、テキスタイル素材および化粧品原料を販売した。
⑤ 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この連結財務諸表において、損益又は資産の状況に影響を与える見積りの判断は、一定の会計基準の範囲内において、過去の実績や判断時点で入手可能な情報に基づき合理的に行っておりますが、実際の結果は見積りによる不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載しております。
⑥ 経営成績に重要な影響を与える要因について
「2 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
⑦ 資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針とし、運転資金や設備投資に必要な資金は、自己資金のほか必要に応じて銀行借入により調達しております。