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最終更新:

E33044 IFRS

売上高

6.17億 円

前期

10.9億 円

前期比

56.5%

時価総額

49.3億 円

株価

27 (05/02)

発行済株式数

182,494,010

EPS(実績)

-6.09 円

PER(実績)

--- 倍

平均給与

1,270.0万 円

前期

1,310.0万 円

前期比

96.9%

平均年齢(勤続年数)

54.7歳(6.3年)

従業員数

19人(連結:24人)

株価

by 株価チャート「ストチャ」

3【事業の内容】

当社は日本及びアジア諸国の医療に貢献するため、海外又は国内の製薬企業又はバイオベンチャー企業から有望な新薬候補品を導入し、日本及びアジア諸国における臨床試験を中心とした開発活動を通じ、製品を医薬品市場に供給することを目的として、2006年に創業した企業です。創業に際しては、事業準備拠点としてJapanBridge Inc.をまず米国に設立し、2008年4月にJapanBridge Inc.がバジャカラ株式会社(現当社)の発行済株式をすべて取得して、これを日本での事業活動の主体とすることとしました。同時にJapanBridge Inc.での事業準備成果が当社に承継され、商号をジャパンブリッジ株式会社に変更し、事業活動を本格的に開始しました。

当社グループは、当社と連結子会社であるSolasia Medical Information Consulting (Shanghai) Co. Ltd.及び持分法適用関連会社の1社で構成されており、医薬品及び医療機器の製品開発パイプラインを有しています。

 

当社グループの事業系統図は下記のとおりです。なお、医薬候補品等の導入、導出契約における経済条件(支払条件)は、主に以下の形態の取引によって構成されます。

 

・契約一時金   :導入導出契約を契機として導入側が支払う一時金

・開発マイルストン:開発の一定の進捗を契機として導入側が支払う一時金

・販売マイルストン:導入側乃至そのサブライセンス先等の、一定の製品販売金額への到達を契機として、導入側が支払う一時金

・ロイヤリティ  :導入側乃至そのサブライセンス先等の製品販売金額等に応じて導入側が支払う使用料

※画像省略しています。

 

 

(1) 当社グループの事業領域

現在、日本及び中国では悪性腫瘍(一般に悪性新生物又はがんという。以下同じ)が死因の第一位を占めており、その他のアジア諸国でも死因の上位を占める傾向にあります。当社グループは、悪性腫瘍治療を目的とする医薬品の開発及び販売を主たる事業領域としています。また、悪性腫瘍治療薬の投与や放射線治療によって生じる有害事象(副作用等)を軽減し、悪性腫瘍に対する治療及び患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上が期待できる医薬品及び医療機器の開発及び販売も事業領域としています。

 

(2) 製薬バリュー・チェーン(初期研究活動から事業化までの機能連鎖)での位置づけ

※画像省略しています。

 

標準的な製薬バリュー・チェーンは、上流の基礎研究、製剤研究、非臨床開発の各機能、中流の臨床開発機能、下流の販売、マーケティング、製造販売後調査、製造の各機能により構成されます。当社グループは開発候補品の導入から薬事承認を取得するまでの臨床開発機能及び承認申請を含む当局対応機能等を中心とした事業を推進しています。

 

※ 製造販売後調査:医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令において、医薬品の製造販売業者又は外国製造医薬品等特例承認取得者が、医薬品の品質、有効性及び安全性に関する情報の収集、検出、確認又は検証のために行う使用成績調査又は製造販売後臨床試験をいう。

 

(3) 事業内容

① 医薬品又は医療機器候補物質(以下、医薬品等候補という。)の権利導入

近年、多くの疾患原因の特定が遺伝子レベルの解析によって行われつつあることに伴い、基礎研究及び製剤研究は、より複雑化又は多様化する傾向にあります。大学や病院等の研究機関による成果、この研究を土台とするベンチャー企業の創薬技術や製剤化技術、あるいは国際的な大手製薬企業による研究を通じて、多くの医薬品等候補が産み出されています。当社グループは、一定の開発段階に至った医薬品等候補の権利を導入し、日本や中国等で臨床開発等を通じて当該医薬品等候補を販売可能な状況に導き、これの販売又は導出を通じて収益を得る事業を行っています。基礎研究や製剤技術の他社への提供による収益化を行うものではありません。

当社グループでは、臨床試験開始前から第Ⅰ相臨床試験終了までの早期開発ステージ、又は有効性のproof of conceptが確認される第Ⅱ相臨床試験から承認までの臨床後期ステージにある医薬品等候補を導入検討の対象としています。また、基礎研究、製剤研究、非臨床開発等の進捗状況の観点からは、少なくとも当社グループの主たる事業エリアである日本及びアジア諸国において科学面及び薬事行政面でも臨床開発が実施可能なレベルで基礎情報が整備されていることを導入の要件としています。

当社グループは、上記要件を満たす医薬品等候補について、当該医薬品等候補が対象とする適応症、非臨床・臨床データ、市場規模、競合品の開発及び販売状況等を検討し、経済条件及び特許権等の知的財産の扱い等について契約相手方と合意を得られた後、導入を決定しています。

 

※ 第Ⅰ相臨床試験:実施する国において初めて対象となる医薬品候補品(治験薬)を使用する臨床試験で、健康成人がボランティアとして参加することが多い。第Ⅰ相臨床試験の主たる目的は、治験薬の安全性並びに忍容性(薬剤投与によって発現する副作用について、患者が治療を継続できる許容程度)の評価・確認及び薬物動態(生体に投与した薬物の体内動態)の検討である。

 

※ proof of concept:医療の領域においては、期待あるいは想定される作用(一般には有効性)を初期臨床試験において確認すること。

※ 第Ⅱ相臨床試験:対象となる疾病に罹患している少数の患者群に対し、医薬品候補品を投与して、その有効性及び安全性(副作用の発現等)の予備的評価、将来の実際の臨床現場で使用する投与量や用法の評価を主たる目的とした臨床試験。

 

② 医薬品等候補の開発

当社グループは、医薬品等候補の導入後、自社の臨床開発機能を中心として、日本を含むアジア各地域の外部委託機関(Contract Research Organization:CRO)と開発チームを構成し、アジア各地域における臨床試験(当該国の製造販売承認に必要な一部の追加非臨床試験を含む)又はアジア各地域を中心とした国際共同治験を計画し、実施します。

医薬品等候補開発の最終的な目標は、質の高い医薬品等を、早期に医療現場に提供することにあります。そのためには、有望な医薬品等候補の将来性及び可能性を活かして厳格な臨床試験を効率的に計画・実施し、不要な失敗を回避して成功確率を高めることが重要であると考えています。これらを実現するための当社グループにおける医薬品等の開発体制は以下のとおりです。

 

※ Contract Research Organization, CRO:医薬品等開発の一部の工程を依頼者との契約を以て受託し、実施する企業又はグループの総称。

※ 国際共同治験:共通の実施計画書に基づき、複数の国が参加して実施される臨床試験。

 

a 当社グループの開発機能

医薬品等開発、臨床試験は、対象となる治療領域における問題点や改善点の評価、具体的な対象疾患及び患者の選択、最適投与量や用法の設計、有効性の評価項目の設定等の試験計画に始まり、実施に当たっては、対象疾患の専門医の選択と当該医師との臨床試験内容の協議、臨床試験実施地域や実施医療施設の評価と選択の過程を経て、実際の投薬及び試験モニタリング、さらに有効性と安全性のデータの収集、解析、評価等の複雑かつ多くのプロセスと諸活動により構成されます。

これらの医薬品等開発のプロセスは、薬事行政規制等に基づいて進められるとともに、常にデータや理論に基づく科学的判断が求められることから、最適な判断のためには、医薬品等や臨床開発全般に対する科学的見識と経験の裏付けが必要不可欠です。当社グループの開発部門は、採用に際してこれらの要素を最重要視して選考を行っており、悪性腫瘍治療薬の臨床開発について、国際的製薬企業等における経験を有する人材、日本国内や中国をはじめとするアジア諸国、さらには国際共同治験の経験を有する人材、あるいは薬事面では各規制当局と密な情報交換が可能な人材等を中心として構成し、少人数であっても医薬品等開発諸活動を円滑に支障なく運営し得る開発体制を構築することに努めています。

 

b 開発における外部機関の活用

近年、製薬企業における臨床試験実施は、その一部を外部委託機関に外注する傾向にあります。当社グループの開発部門は、臨床開発計画、試験設計、運営、評価及び医薬品等開発に関わる薬事行政対応を基本機能としており、試験実施に際しては、業務効率の向上並びに固定費削減を図るため、この外部委託機関(開発業務委託機関等)等を活用しています。これら外部委託機関の活用においては、当社グループが指示する臨床試験の方針や計画・設計を、正確に理解し実現し得る外部機関を選定することが重要です。そして外部委託機関が計画どおりの成果を果たすために、双方向で詳細な最新情報を共有するとともに、当社グループが随時指示の徹底を図り、管理監督の厳格な実施に努めています。

 

③ 医薬品等候補の収益化

※画像省略しています。

当社グループが医薬品等候補の開発に成功して製造販売承認を取得し、上市できることになった場合には、他社への販売権導出を通じて、製品販売収益、マイルストン収入及びロイヤリティ収入による収益確保を図ります。また上市に先立ち契約一時金、マイルストン収入を得る場合もあります。

 

(4) 当社グループの開発パイプライン(2024年2月末現在)

①  Sancuso®(中国販売名:善可舒®)(経皮吸収型グラニセトロン製剤:開発コードSP-01(医薬品))

a がん化学療法剤投与に伴う悪心・嘔吐

悪心・嘔吐は、がん化学療法剤の投与を受ける多くの患者が苦痛を感じる副作用の1つであり、急性(投与後24時間まで)と遅延性(投与後24時間以降)に分類されます。悪心・嘔吐が十分にコントロールされない場合、脱水、電解質異常、栄養障害、誤嚥性肺炎等の生命を脅かしかねない多くの合併症を来す可能性があります。このような合併症が起こることによる入院期間の延長、看護に要する時間の延長、薬剤投与を含む全般的な医療コストの増大等、悪心・嘔吐は、患者のみならず、様々な影響を及ぼすことが想定されます。催吐作用(吐き気を催す作用)の強い一部のがん化学療法剤では9割以上の患者に悪心・嘔吐が生じることがあります。悪心・嘔吐による苦痛は時間とともに増大することが多く、悪心・嘔吐をコントロールすることができない場合には、がん化学療法のコンプライアンス(推奨される悪性腫瘍治療薬の用法用量、その他投薬ルールの順守状況)の低下が懸念されます。

がん化学療法剤投与に伴う悪心・嘔吐の発現メカニズムの1つは、化学受容器引金帯(Chemoreceptor Trigger Zone:CTZ)の活性化によるとされ、CTZの活性化は、ドパミン、オピオイド、ヒスタミン、アセチルコリン、ニューロキニン-1(Neurokinin-1:NK-1)又は5-ヒドロキシトリプタミン3型(5-hydroxytryptamine3:5-HT3)受容体等に対する刺激によって直接的又は間接的に引き起こされると考えられています。また、がん化学療法剤による消化管粘膜の損傷や消化管の神経伝達細胞受容体の刺激、及び皮質や前庭のメカニズムも関与していると考えられています。

 

※ 電解質異常:体内のナトリウムやカリウム、マグネシウム等の電解質が異常な状態となり、浸透圧調整や筋肉収縮の機能に異常をきたすこと。

※ 化学受容器引金帯:第4脳室に接する脳幹領域に存在する受容器。血中のある種の薬物や毒物に反応して嘔吐中枢に刺激を送り、嘔吐を誘発する。

※ 5-ヒドロキシトリプタミン3型(5-hydroxytryptamine3:5-HT3)受容体:イオン共役型のセロトニン受容体で、中枢神経系、末梢神経系に作用して、神経興奮、不安、嘔吐を誘発する。

※ 前庭:内耳にあり重力と直線加速度を司る感覚器官。

 

b 5-HT3受容体拮抗薬

各種悪性腫瘍の臨床ガイドラインにおいて、がん化学療法剤投与に伴う悪心・嘔吐に対して5-HT3受容体拮抗薬の使用が推奨されています。グラニセトロンは5-HT3受容体拮抗薬の1つで、5-HT3受容体への結合によるセロトニン刺激の遮断によってがん化学療法剤投与に伴う悪心・嘔吐を予防する作用があります。グラニセトロンの経口剤及び注射剤は、これまでに得られた臨床試験の結果から、がん化学療法剤投与に伴う悪心・嘔吐の予防に極めて有効であることが確認されており、既に世界各国で承認されています。

 

※ 受容体拮抗薬:生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモン等の働きを阻害する薬のこと。

 

c SP-01開発の経緯

SP-01は、粘着基剤中にグラニセトロンを含有する経皮吸収型製剤です。貼付後から持続的にグラニセトロンを放出するよう設計されており、5日間にわたって安定的に血中グラニセトロン濃度を維持することが可能な医薬品です。SP-01を一旦貼付すれば、5日間は新たな制吐剤投与のために来院する必要がなく、外来治療の負担の軽減が期待できます。また、がん化学療法剤を投与中の患者が、悪心・嘔吐や口内炎が原因で薬剤の服用が困難な状態にある場合、経口剤や注射剤と比較し、経皮吸収型製剤は有用と考えられ、医療現場における投薬業務を簡便化することが可能と考えています。経皮吸収型グラニセトロン製剤は、米国を代表するがんセンターで結成されたガイドライン策定組織(National Comprehensive Cancer Network:NCCN)が作成したNCCN診療ガイドラインにおいても処方が推奨されています。また、中国においては、2014年にがん治療ガイドライン策定グループが作成した治療ガイドラインにおいても同様に処方が推奨されています。更に、2019年には中国臨床腫瘍学会(CSCO)が発行した診療ガイドラインにも収載されました。

 

※画像省略しています。

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(左図:SP-01 中国販売名:善可舒®の販売のパッケージ) (右図:SP-01の貼付)

 

SP-01は、米国において「高度又は中等度催吐性がん化学療法剤の最長5日間投与に伴う悪心・嘔吐の予防」を適応として2008年9月に米国食品医薬品局から承認されています(販売名:Sancuso®)。また、米国以外では、欧州、アジア等約20ヵ国以上で販売又は承認(承認勧告含む)されています。

当社グループは、2008年5月の本剤導入後から臨床開発を推進してまいりました。2008年に日本人での薬物動態試験、2012年に韓国人での薬物動態試験をそれぞれ実施した他、2013年から2014年に亘り中国人での薬物動態試験及び中国人がん患者での無作為化二重盲検比較試験を実施し、2014年6月に中国において新薬承認申請を完了し、2018年7月に当局承認を取得しました。

 

※ 粘着基剤:皮膚に接着する粘着剤で、SP-01は粘着基剤がフィルム状シートに塗布されている。

※ 経皮吸収型製剤:医薬品の有効成分が皮膚を通して体内に吸収されるよう設計された剤型。

※ 高度催吐性:90%を超える患者に催吐が生じること。

※ 中等度催吐性:30~90%の患者に催吐が生じること。

※ 薬物動態試験:医薬品の体内における動き、蓄積などを評価する臨床試験。

※ 無作為化二重盲検比較試験:評価の対象となる医薬品候補と標準的薬剤を無作為に割り付け、医師及び患者のいずれもがどちらの薬剤を使用しているかわからない状態で治療及び評価を行う試験手法で、結果に対するバイアスを排除した客観的な評価を行うことができる。

 

d SP-01の主要な臨床試験概要

試験相: 第Ⅲ相臨床試験(欧米での承認取得のための最終試験)

被験者: 637名、中等度又は高度催吐性のがん化学療法剤で複数日治療を受けた欧米のがん患者

目的:  悪心・嘔吐の予防に対するSP-01の有効性の検証及び安全性の確認

成績:  有効性については、グラニセトロン経口剤に対するSP-01の非劣性を確認。

安全性については、SP-01投与群とグラニセトロン経口剤投与群で被験薬との関連性が否定できない有害事象の発現率に大きな差は認められないことを確認。

試験実施:ProStrakan Group plc(現Kyowa Kirin、権利導入元)  試験完了:2006年

 

試験相: 第Ⅲ相臨床試験(中国での承認取得のための最終試験)

被験者: 313名、中等度又は高度催吐性のがん化学療法剤で複数日治療を受けた中国人がん患者

目的:  悪心・嘔吐の予防に対するSP-01の有効性の検証及び安全性の確認

成績:  有効性については、グラニセトロン経口剤に対するSP-01の非劣性を確認。

安全性については、SP-01投与群とグラニセトロン経口剤投与群で被験薬との関連性が否定できない有害事象の発現率に大きな差は認められないことを確認。

試験実施:当社  試験完了:2014年

 

※ 非劣性:第Ⅲ相臨床試験における有効性検証の手法の1つで、試験薬が対照薬に対して劣らないことを指す。

※ 有害事象:臨床試験の実施期間中に起こる治験薬又は製造販売後臨床試験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくない又は意図しない疾病又はその徴候をいう。当該治験薬又は当該製造販売後臨床試験薬との因果関係の有無は問わない。

 

e SP-01の収益化戦略

2019年3月より製品販売を開始しています。中国市場ではLee's Pharmaceutical (HK) Limitedへの販売権導出契約のもと、同社によるマーケティングや販売活動を通じて、収益を得ています。

 

② ダリナパルシン(国内販売名:ダルビアス®点滴静注用135mg)(有機ヒ素製剤:開発コードSP-02(医薬品))

a 末梢性T細胞リンパ腫

当社は、海外で実施された臨床試験結果から、再発又は難治性末梢性T細胞リンパ腫(Peripheral T-Cell Lymphoma:PTCL)をSP-02の最初の適応症と選択し、当該適応症に対する開発を行っています。末梢性T細胞リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫の一病型です。一般的に末梢性T細胞リンパ腫という場合、胸腺での細胞分化と成熟を経て末梢臓器に移動したT細胞に起源を発するリンパ腫の総称で、主に以下の病型に分類されます。

・末梢性T細胞リンパ腫-非特異群:PTCL-NOS

・血管免疫芽球型T細胞リンパ腫:AITL

・ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫:ALCL ALK+

・ALK陰性未分化大細胞型リンパ腫:ALCL ALK-

末梢性T細胞リンパ腫を含むT細胞リンパ腫は、B細胞リンパ腫に比べて予後不良で、International T-Cell Lymphoma Projectで行った研究によると、PTCL-NOS及びAITLの5年全生存率はともに32%であり、ALK陽性ALCLは70%、ALK陰性ALCLは49%と報告されています。

 

※ リンパ腫:血液がんの一種で、白血球の中のリンパ球ががん化したものをいう。

※ 末梢性T細胞リンパ腫:白血球の中のTリンパ球ががん化した悪性腫瘍で、リンパ腫の約10%を占める非ホジキンT細胞性リンパ腫。病因は不明で標準的治療法は確立されていない。

※ 適応症:薬剤の治療の対象となる疾病をいう。

※ 非ホジキンリンパ腫:ホジキンリンパ腫以外のすべての多様な悪性リンパ腫を含む一群。ホジキンリンパ腫とは腫瘍細胞の性状や形態の違いなど、いわゆる病理組織学的所見をもとに組織分類される。

※ 胸腺:胸骨の裏側、心臓の上前部(前縦隔:ぜんじゅうかく)にあり、Tリンパ球と呼ばれる白血球をつくっている臓器。

※ 細胞分化:細胞が特定の機能を有する細胞に変化するプロセス。

※ 末梢臓器:末梢は中枢に対する対義語で、神経系における「脳・脊髄」に対する末梢神経や効果器・感覚器等を指す。

※ T細胞:リンパ球の一種で、骨髄で産生された前駆細胞が胸腺での選択を経て分化し成熟したもの。細胞表面に特徴的なT細胞受容体を有している。末梢血中のリンパ球の70〜80%を占める。

※ 末梢性T細胞リンパ腫-非特異群:悪性リンパ腫のWHO分類(2017)において成熟T細胞及びNK細胞腫瘍に分類されるリンパ腫の一型。

※ 血管免疫芽球型T細胞リンパ腫:悪性リンパ腫のWHO分類(2017)において成熟T細胞及びNK細胞腫瘍に分類されるリンパ腫の一型。

※ ALK(anaplastic lymphoma kinase):未分化リンパ腫リン酸化酵素と呼ばれる受容体型チロシンキナーゼ。ALK陽性とはALKを含むことをいい、ALK陰性とはALKを含まないことをいう。

※ 未分化大細胞型リンパ腫:悪性リンパ腫のWHO分類(2017)において成熟T細胞及びNK細胞腫瘍に分類されるリンパ腫の一型。

※ B細胞リンパ腫:非ホジキンリンパ腫の一種であり、リンパ球の一種であるB細胞ががん化した悪性腫瘍。

※ International T-Cell Lymphoma Project:国際的なT細胞リンパ腫の調査プロジェクト。

※ 5年全生存率:診断あるいは治療開始から5年間経過後に生存している人の割合のこと。

 

b 治療法及び予後

現在まで、日本国内において、病型(病理組織学的分類)を問わず「悪性リンパ腫」の効能を有する医薬品(抗悪性腫瘍薬及び副腎皮質ステロイド薬)は多数存在しますが、再発又は難治性のPTCLの効能を有し、販売している医薬品は3剤のみであり、その効果は未だ十分とは言えません。また、PTCLに対する治療に医薬品が単剤で使用されることは稀で、通常は複数の医薬品を組み合わせた多剤併用療法が行われています。

悪性リンパ腫に対する診療ガイドラインは、米国のNCCN、欧州臨床腫瘍学会(European Society for Medical Oncology:ESMO)、英国血液学会(British Committee for Standards in Hematology:BCSH)及び国内の日本血液学会等により各々公表されていますが、いずれのガイドラインにおいても、PTCLの初回治療は、「臨床試験への参加」又はCHOP療法やその類似療法であるCHOEP療法及びHyper CVAD/MA療法等のアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬を含む多剤併用療法が挙げられています。

PTCLは患者数が少ないため、これまでびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse Large B-Cell Lymphoma:DLBCL)等を含むアグレッシブ・リンパ腫の臨床試験に含めて解析されており、PTCLに限定した大規模な臨床試験は行われていません。そのため、アグレッシブ・リンパ腫に対する初回治療として、CHOP療法が標準治療に位置付けられたことを受け、DLBCLと同様、PTCLに対してもCHOP療法が選択されています。

一方、再発・難治例に対する救援療法については、上述の診療ガイドラインのいずれにおいても「臨床試験への参加」が推奨されています。「臨床試験への参加」以外の治療選択肢としては、DHAP療法、ESHAP療法、GDP療法、GemOx療法、ICE療法、MINE療法等に加え、日本ではCHASE療法、EPOCH療法、DeVIC療法等の多剤併用療法が行われる場合もあります。また、NCCNガイドラインでは単剤療法として数種の薬剤が推奨されています。しかしながら、いずれの療法も医学的知見(臨床データの蓄積等)は未だ乏しい状況と考えられています。

以上のとおり、PTCLの初回治療に明確な医学的知見は存在しておらず、CHOP療法に代表されるアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬を含む多剤併用療法が日常診療で広く行われているものの、治療成績は十分ではないのが現状です。再発・難治例においては、確立された救援療法がなく、予後は不良であり、悪性リンパ腫の治療では、多剤併用療法が有効であると考えられていることから、これまでに多くの組み合わせが検討され、その一部が日常診療で使用されています。

これらの治療現状から、新しい作用機序を持つ治療薬や、忍容性が良好で併用療法の組み合わせに加えられるような、新たな治療薬が望まれています。

 

※ 副腎皮質ステロイド薬:抗炎症作用や免疫抑制作用が期待される薬剤の一種。造血器腫瘍への適用が認められている薬剤が存在する。

※ 初回治療:ある患者が最初に施される化学療法をいう。

※ CHOP療法:シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ステロイドで構成される併用療法の1つ。

※ CHOEP療法:シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、エトポシド、プレドニゾロンで構成される併用療法の1つ。

※ Hyper CVAD/MA療法:シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、デキサメタゾン、メトトレキセート、シタラビンで構成される併用療法の1つ。

※ アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬:がん治療に使用される抗生物質の薬剤。

※ びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:悪性リンパ腫の種類の1つで、Bリンパ球細胞から発生する非ホジキンリンパ腫で中悪性度に分類される。日本の非ホジキンリンパ腫の30~40%を占めており、最も発生頻度の高い病型。

※ アグレッシブ・リンパ腫:Working Formulation分類では、病型分類の他に非ホジキンリンパ腫の進行速度に基づき、無治療での予後が年単位で進行する低悪性度,月単位で進行する中悪性度、週単位で進行する高悪性度というように悪性度による分類がなされ、アメリカのNational Cancer Instituteより、悪性度による分類に加えて疾患の悪性度、活動性や侵攻性といったaggressivenessの程度を考慮した、低悪性度=インドレントリンパ腫(indolent lymphoma)、中悪性度=アグレッシブ・リンパ腫(aggressive lymphoma)、高悪性度=高度アグレッシブ・リンパ腫(highly aggressive lymphoma)という臨床分類が提唱されている。

※ 救援療法:主に造血器腫瘍において、治療効果が得られない場合(治療抵抗性)、あるいは再発・再燃した場合に用いる治療を、救援療法あるいは救援化学療法と呼ぶ。がんの種類によって治療内容は異なり、複数の薬(抗がん剤など)を組み合わせた治療が主流で、救済療法又はサルベージ療法と呼ばれることもある。

※ DHAP療法:デキサメタゾン、シスプラチン、シタラビンで構成される併用療法の1つ。

※ ESHAP療法:エトポシド、メチルプレドニゾロン、シタラビン、シスプラチンで構成される併用療法の1つ。

※ GDP療法:ゲムシタビン、デキサメタゾン、シスプラチンで構成される併用療法の1つ。

※ GemOx療法:ゲムシタビン、オキサリプラチンで構成される併用療法の1つ。

※ ICE療法:イホスファミド、カルボプラチン、エトポシドで構成される併用療法の1つ。

※ MINE療法:メスナ、イホスファミド、ミトキサントロン、エトポシドで構成される併用療法の1つ。

※ CHASE療法:シクロホスファミド、エトポシド、シタラビン、デキサメタゾンで構成される併用療法の1つ。

※ EPOCH療法:エトポシド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、プレドニゾロンで構成される併用療法の1つ。

※ DeVIC療法:カルボプラチン、イホスファミド、エトポシド、デキサメタゾンで構成される併用療法の1つ。

※ 作用機序:薬剤がその効果を発揮するための特異的な生化学的相互作用をいう。

 

c SP-02開発の経緯

SP-02は、有機ヒ素化合物を製剤化した医薬品候補で、PTCLに対する以下の新しい作用機序により、最終的な殺細胞効果を発現すると考えられています。

・腫瘍細胞内ミトコンドリアへの直接的な障害

・腫瘍細胞内のROS(Reactive Oxygen Substance)を増加させることによる細胞障害の誘発

・カスペース9、カスペース3を介してのアポトーシス誘導

これまでに実施された薬効薬理試験結果から、無機ヒ素化合物である三酸化ヒ素(Arsenic trioxide:ATO)に比してSP-02は細胞内取り込み濃度が高く、白血病、骨髄腫、悪性リンパ腫、固形腫瘍の各細胞株に対するin vitro活性が示され、また造血器腫瘍に対する抗腫瘍効果、及び固形腫瘍細胞株に対する殺細胞作用が認められています。さらに、SP-02の細胞毒性はATOと異なり、PML/RARα融合蛋白と無関係に発現し、ATO耐性細胞株に対しても殺細胞作用が確認されています。

SP-02は、生体内でのヒ素を解毒する経路で生じる中間代謝体と同じ構造を持ち、グルタチオン抱合体構造を有することから、無機ヒ素化合物より毒性が低く、治療域がより広くなることが期待されます。

多剤併用療法で使用頻度の高いアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の心毒性は広く認識されていますが、SP-02は、第Ⅰ相臨床試験で実施された詳細な心電図評価において、ATOで報告されている不整脈や心電図異常(QT延長)等の心毒性は認められず、将来アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬を含む多剤併用療法と安全に組み合わせられる可能性があります。

また、上記のとおり、SP-02は分子標的薬ではなく、その適用範囲や作用機序は多岐に渡ることが想定されていることから、今後PTCL以外の血液がん又は固形がんに対する適応の拡大が期待されています。

なお、SP-02は米国及び欧州において、PTCL治療薬として、希少疾病用医薬品(オーファン・ドラッグ)に指定されています。

本剤は、導入元であるZIOPHARM Oncology, Inc.(現Alaunos Therapeutics, Inc.)により開発が進められてきており、同社により、米国及びインドでの前期第Ⅱ相臨床試験が2012年に完了されています。当社グループは、2011年3月の本剤導入後から臨床開発を推進してまいりました。2015年に、日本及び韓国での第Ⅰ相臨床試験を完了。2016年に、承認申請への最終試験としての設計のもと、日本、韓国、台湾及び香港での国際共同第Ⅱ相臨床試験を開始し、2020年6月に当該試験において良好な結果が確認できたことから、2021年6月末に当局への製造販売承認申請を行い、2022年6月20日に当該申請にかかる承認を取得し、2022年8月22日に販売を開始しております。また、現在、再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫に引き続く、他のがん種への適応拡大検討を行っております。

 

※ 有機ヒ素:炭素を含むヒ素化合物。

※ ミトコンドリア:ほとんどの真核生物に存在する細胞小器官で、独自のDNAを持ち、分裂・増殖する。好気呼吸によりエネルギーを生み出す器官。

※ Reactive Oxygen Substance, ROS:活性酸素種ともいう。活性酸素種は好気性生物が酸素を消費する過程で発生する反応性の高い副産物であり、細胞内のDNAを損傷するとされている。

※ 細胞障害:細胞に対して死、若しくは機能障害や増殖阻害の影響を与える、物質や物理作用等の性質。

※ カスペース:細胞にプログラム細胞死を起こさせるシグナル伝達経路を構成するシステインプロテアーゼ。カスペース3やカスペース9はその一種。

※ アポトーシス:細胞に組み込まれたプログラムによる細胞死。

※ 薬効薬理試験:医薬品等の作用(効果)評価を目的とした細胞、組織あるいは動物などを用いた試験。

※ 三酸化ヒ素:無機ヒ素化合物の1つで、日本では再発又は難治性の急性前骨髄球性白血病を適応症として承認されている(トリセノックス®)。

※ 細胞株:長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至った細胞をいう。

※ in vitro:試験管や培養器内等の人工的に構成管理された試験条件及び環境。

※ 細胞毒性:細胞障害性のこと。

※ PML/RARα融合蛋白:急性前骨髄球性白血病では、第15番染色体の一部と第17番染色体の一部が切れて互いに入れ代わる相互転座が起こり、その際に第17番染色体にあるレチノイン酸受容体α遺伝子(RARα)が第15番染色体にあるPML遺伝子のもとに移動し、PML/RARα融合遺伝子が作られる。この融合遺伝子が作るPML/RARα蛋白は、RARα遺伝子とPML遺伝子から作られる蛋白がもともと持っている白血球の分化・成熟作用を阻止し、その結果、急性前骨髄球性白血病では、前骨髄球の段階で細胞の分化・成熟が停止し、前骨髄球が異常に増える白血病が発症する。

※ ATO耐性細胞株:三酸化ヒ素(無機ヒ素化合物)に耐性を有する細胞株。

※ 中間代謝体:体内の代謝での物質変化は、多くの中間段階を経て行われるのが常であり、終産物に行きつく手前のこれらの中間段階の物質をいう。

※ グルタチオン抱合体:生体内に取り込まれた生体外物質を無毒化し体外へ排出する代謝過程において活性化された生体外物質の代謝物は、グルタチオン等の電荷を持つ化学種に抱合される(グルタチオン抱合体)。

※ 心毒性:心臓に機能低下・異常あるいは病変等の悪影響を及ぼすこと。

※ QT延長:心電図上のQT時間の延長で、心筋細胞の電気的な回復が延長することにより起こる。

※ 希少疾病用医薬品:「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、医薬品医療機器等法という。)第77条の2に基づき、厚生労働大臣によって指定されるもので、対象患者数は日本で5万人未満、医療上特にその必要性が高いもの、実質的な開発計画があるもの等が対象となる。優先審査や開発に際しての補助金等のメリットがある。

 

d SP-02の主要な臨床試験概要

試験相: 前期第Ⅱ相臨床試験

被験者: 50症例、各種造血器腫瘍(悪性リンパ腫、白血病等)患者(米国及びインド)

目的:  SP-02の有効性、安全性、薬物動態の評価

成績:  悪性リンパ腫、特にPTCLについて抗腫瘍効果が示唆された。

試験実施:ZIOPHARM Oncology, Inc.(現Alaunos Therapeutics, Inc.)(権利導入元) 試験完了:2012年

 

試験相: 第Ⅱ相臨床試験

被験者: 65 症例、再発・難治性PTCL患者(日本、韓国、台湾および香港)

目的:  再発・難治性PTCL患者に対するSP-02の有効性の評価

成績:  再発・難治性のPTCLに対する有効性評価につき、事前に設定した閾値奏効率を有意に上回ることが示され、本剤の効果が検証された。また有害事象はいずれも臨床的に許容なもの且つコントロール可能なものであった。

試験実施:当社  試験完了:2021年

 

SP-02第Ⅱ相臨床試験の有効性解析(ウォーターフォール図)

※画像省略しています。

※ 上図は、末梢性T細胞リンパ腫患者に対するSP-02投与開始前と最良有効性評価時点(評価期間中での、薬剤の治療効果が最も高まったタイミング)、コンピューター断層撮影(CT)検査による腫瘍効果判定の結果を示す。棒グラフの各棒の長さが各被験者の腫瘍サイズの増減率を示し、何れも投与開始前を0%とし、例えば+80%を示す場合は腫瘍サイズが最良有効性評価時点で投与開始時点から80%増大したことを示し、-80%を示す場合は当該サイズが80%縮小したことを示す。なお、腫瘍サイズは各標的病変(測定の対象となる腫瘍病変)の二方向の直径の積の総和の変化によって測定される。

 

※ 各棒に付してある略語は、フルオロデオキシグルコースを用いたポジトロン断層撮影(Fluorodeoxyglucose-Positron Emission Tomography:FDG-PET)検査を加味した効果判定規準(改訂版悪性リンパ腫の効果判定規準、出典:造血器腫瘍取扱い規約第1版)における腫瘍縮小効果判定(下表)に基づく。

総合

効果

標的病変の二方向積和

非標的病変

骨髄浸潤

PET

新病変

節性

節外性

節性

節外性

CR

二方向積和の変化は問わない(未検は不可)

陰性

陰性

なし

PR

二方向積和の変化は問わない(未検は不可)

陰性

陰性

なし

50%以上縮小

正常又は非増大

消失又は非増大

問わない(未検可)

陽性

なし

SD

50%未満の縮小かつ

50%未満の増大

正常又は非増大

消失又は非増大

問わない(未検可)

陽性

なし

PD

50%以上増大

増大

増大

陽性化

陽性

あり

RD

再腫大

再出現

再腫大

再出現

CR:完全奏効(Complete Response) PR:部分奏効(Partial Response)

奏功とは、薬の投与による効果をいう。

SD:安定(Stable Disease) PD:進行(Progressive Disease)RD:再発(Relapsed Disease)

 

※ 非標的病変:測定の対象以外の腫瘍病変をいう。

※ 骨髄浸潤:腫瘍が骨髄に浸潤する(入り込む)こと。

※ 節性、節外性:節性とは標的病変がリンパ節にある場合をいう。節外性とは標的病変がリンパ節以外の臓器にある場合をいう。

※ 未検可、未検不可:臨床試験に際して当該項目の検査が実施されなくとも、当該効果判定評価が可能な場合を「未検可」という。当該項目の検査が実施されない場合、当該効果判定評価が不可能な場合を「未検不可」という。

※ 再腫大:再発により、腫瘍の大きさが再び増大すること。

※ 再出現:再発により、腫瘍が再び出現すること。

 

e SP-02の収益化戦略

SP-02は販売権導出及びNPP(Named Patient Program)制度活用による収益化を図ります。なお、当社はSP-02の全世界権利を有しており、日本をはじめ各国の規制当局の承認を受けた上で、導出先が販売を開始することとなります。NPP制度においては、各国の医師からの特定の患者に対する使用要請に基づき、所定の手続きを経て提供することとなります。

日本市場に対しては、2021年10月に日本化薬株式会社と締結した「ライセンス契約書」(開発販売権導出契約)のもと、同社による販売活動を通じて、収益化を図ります。なお、当該導出契約による契約金収入及び製品販売収入は、収益計上されております。

また、南米市場に対しては、2018年8月にHB Human BioScience SASと締結した「ライセンス契約書」(販売権導出契約)のもと、同社による販売活動を通じて、収益化を図ります。

その他、米国、欧州、中国、韓国等の諸市場に対しては、今後、諸地域毎に製薬企業等への導出契約を締結し、当該企業の販売活動を通じて収益化を図ることを計画しており、これらの地域における導出候補先の選定を進めています。

 

③ episil®(国内販売名:エピシル® 口腔用液、中国販売名:益普舒®、韓国販売名:episil® ORAL LIQUID)(口腔内創傷被覆保護材:開発コードSP-03(医療機器))

a がん等の化学療法や放射線療法に伴う口内炎で生じる口腔内疼痛の管理及び緩和

がん等の化学療法及び放射線療法に伴う口内炎は、化学療法薬剤による作用として、また化学療法や放射線療法による抵抗力の低下による細菌等の感染により発生します。発生頻度は30〜40%程度であり、重症化するとがん治療の継続が困難になることもあります。症状としては、接触痛、出血、冷温水痛、口腔乾燥、口腔粘膜の発赤・腫脹、開口障害、構音障害、嚥下障害、味覚障害などが報告されています。また、がん治療を受ける患者にとって、栄養を十分摂取することが全身状態の改善や口内炎の改善に寄与するため、経口摂取に支障を来さない適切な口腔内管理を行うことが重要と考えられています。

 

※ 参照:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎」

※ 冷温水痛:冷水や温水に対して痛みを感じる状態。

※ 発赤:皮膚や粘膜の一部に炎症がおこり、充血して赤くなる状態。

※ 腫脹:炎症などが原因で、局所の血流量が増加し体の組織や器官の一部が腫れ上がる状態。

※ 開口障害:なんらかの原因で下顎の開口が制限される状態。

※ 構音障害:音を作る器官やその動きに問題があって発音がうまくできない状態。

※ 嚥下障害:食物等を飲み込むことがうまくできない状態。

 

b SP-03発売以前の主な治療及び対処方法

がん等の化学療法及び放射線療法に伴う口内炎には、確立した標準治療及び対処方法はなく、各々の医療機関での症状にあわせた対症療法が主となっておりました。二次感染の予防や重症化を防ぐために、含嗽(うがい)による口腔内の保清・保湿による口腔ケアを継続し、軽度から中等度の痛みには局所麻酔薬による含嗽に加え、解熱消炎鎮痛薬を使用する場合があります。また、口腔乾燥からの粘膜保護には、保湿剤や唾液の分泌を促す経口薬投与や人工唾液などを補助的に使用します。最近では、コラーゲンの新生促進や血流改善、血管新生を促進する低出力レーザの照射により、疼痛緩和効果をはじめ抗炎症効果、鎮痛効果、創傷治癒促進効果が認められており、口内炎治療に応用されています。

 

c SP-03開発の経緯

SP-03は、種々のがんに対する化学療法剤治療又は放射線治療によって誘発される口腔内粘膜障害(口内炎)への外部刺激による疼痛の緩和及び管理を主たる目的として開発されており、感染症予防や疼痛緩和によって食事摂取が可能になることによるクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上も期待されています。SP-03は、レシチン及びグリセリン脂肪酸エステルからなる非吸収性の液体であり、口腔内にごく少量の内容液を滴下塗布(ポンプ容器を用いた塗布)することにより、口腔内で唾液と混合されてごく薄い脂質被膜を構成し、口内炎表面を物理的に覆うことによって、食物等の外部刺激による疼痛を一定時間緩和することが期待されます。薬効成分は含まれないため、医薬品医療機器等法上は医薬品ではなく、医療機器に分類されます。

 

※画像省略しています。※画像省略しています。

※画像省略しています。

※画像省略しています。

図:エピシル®口腔用液  図:口腔内へのSP-03の適用状況 図:口腔粘膜に接着したSP-03の模式図

日本販売品       可視化のため着色剤添加物を使用 (左図のSP-03適用の拡大図)

 

本剤は、米国及び欧州の一部の国で製品名episil®として既に承認・販売されており、当社グループは、2015年3月に本剤の日本及び中国の権利を導入した後、中国では2016年5月、日本においては2016年10月に、それぞれの規制当局に対して承認申請を完了し、中国においては2019年2月、日本においては2017年7月に承認を取得しています。また、2018年8月には、韓国の権利も導入し、2019年10月に承認を取得しています。

 

※ レシチン:グリセロリン脂質の一種。自然界の動植物においてすべての細胞中に存在しており、生体膜の主要構成成分である。

※ グリセリン脂肪酸エステル:グリセリンの持つ3つのヒドロキシ基のうち1つ乃至2つに脂肪酸がエステル結合したもので、代表的な食品用乳化剤である。

※ 薬効成分:有効成分ともいう。医薬品、医薬部外品などに含有される物質のうち、生理活性を示すものの総称。

 

d SP-03の収益化戦略

日本、中国、韓国市場に対して、販売権導出を通じて収益化を図ります。日本においてはMeiji Seika ファルマ株式会社、中国においてはLee's Pharmaceutical (HK) Limited社、韓国においてはSynex社、それぞれの地域での販売権導出契約を締結しており、これら提携先のマーケティングや販売活動を通じて収益化を図ります。

本書提出日現在、SP-03は日本及び中国、韓国において既に上市済であり、上記戦略に基づく収益化を開始しております。なお、導出モデル上の製品販売収入、契約金収入及びマイルストン収入の一部は、すでに収益計上されております。

その他、米国、欧州等の諸市場に対しては、今後、諸地域毎に製薬企業等への導出契約を締結のうえ収益化を図ることを計画しており、これらの地域における導出候補先の選定を進めています。

 

④ PledOx®(細胞内スーパーオキシド除去剤:開発コードSP-04(医薬品))

a がん化学療法に伴う末梢神経障害(Chemotherapy Induced Peripheral Neuropathy : CIPN)

がん化学療法は、悪心・嘔吐や口内炎発症等の副作用が生じますが、末梢神経障害も重篤な副作用の一つにあげられます。末梢神経障害は、植物アルカロイド製剤、プラチナ製剤等のがん化学療法の主要薬剤において、顕著に発現することが知られています。大腸がんの治療法として、手術による治癒が難しい進行・再発がんに対する化学療法及び術後補助化学療法の代表的な抗がん剤の組み合わせに、プラチナ製剤のオキサリプラチンを含むFOLFOX療法があります。オキサリプラチンの処方は、患者のほとんど全例(85%-95%)で末梢神経障害が生じ、当該障害は以下の様な症状をもたらします。

 

急性症状: 手、足や口唇周囲部等の異常感覚、呼吸困難や嚥下障害を伴う咽頭喉頭の絞扼感

慢性症状: 四肢末梢のしびれ感、感覚低下、腱反射の低下、感覚性運動失調

 

このような副作用が発現した場合には、薬剤中止により、80%の症例では一部症状の改善がみられ、40%の症例で6~8ヶ月後には完全に回復するものと考えられておりますが、当該薬剤中止は、がん化学療法の中止や方針変更を意味するものであり、当該障害を治療することは医療上の重要な課題です。

これまでのところ、がん化学療法に伴う末梢神経障害を効能・効果とする薬剤は存在しておりません。

※ 植物アルカロイド製剤:強い毒性のある植物成分を応用した抗がん剤。

※ プラチナ製剤:薬剤の構造中に白金を含む抗がん剤。

※ 術後補助化学療法:再発を防ぐために、手術後に抗がん剤を使用する治療法。

※ FOLFOX(フォルフォックス)療法:フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチンの3剤を併用するがん化学療法をいう。StageⅢ大腸癌の術後補助化学療法、StageⅣ再発大腸癌に対しての全身化学療法において、標準療法として採用されている。

※ 参照:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 末梢神経障害」

 

b SP-04開発の経緯

当社は2017年11月にSP-04の日本、中国(香港、マカオ含)、韓国、台湾における独占的開発販売権をPledPharma AB(現Egetis Therapeutics AB、以下Egetis社という)より獲得しました。

SP-04は、がん化学療法に伴う末梢神経障害を適応とする開発品です。生体に悪影響を及ぼす細胞内活性酸素の一種スーパーオキシドを分解する酵素スーパーオキシド・ジスムターゼ様の作用を持つ、新規に化学合成された金属複合剤(金属キレート剤)です。Egetis社は、これまで当該末梢神経障害を適応としてPledOx®の研究開発を欧米にて行ってきております。Egetis社の実施した第Ⅱ相までの臨床試験等の結果、FOLFOX療法を受ける進行性大腸がん患者において、治療中及び治療後の末梢神経障害を改善する効果が示唆されており、またFOLFOX療法によるがん治療そのものへの影響を生じさせないことも示唆されております。

2018年より2020年にかけて、日本、韓国、台湾及び香港において、mFOLFOX6治療を受ける大腸がん患者を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験を行いました。当該第Ⅲ相臨床試験は2つの試験で構成されており、権利導入元との共同にて、欧米アジアで展開いたしました。2020年12月にオキサリプラチン投与に起因する末梢神経障害を対象とした当該第Ⅲ相試験結果について、主要評価項目の未達を確認しました。本書提出日現在、上記試験結果に鑑み、白金製剤であるオキサリプラチン誘発末梢神経障害での開発を留保し 、タキサン製剤誘発末梢神経障害を対象とした開発の可能性を探索するため、現在、追加の動物試験を実施しております。

※ 金属キレート剤:分子中に複数の配位子(孤立電子対を持つ有機化合物や陰イオン)を有する化合物が金属陽イオンに配位結合した化合物。

 

c SP-04の主要な臨床試験概要

試験相: 第Ⅱ相臨床試験

被験者: 173症例、FOLFOX療法を実施する遠隔転移を有する大腸がん患者(米国、欧州)

目的:  SP-04の有効性及び安全性の検討

成績:  FOLFOX療法による末梢神経障害へのSP-04の有効性が示唆された。またSP-04投与がFOLFOX療法自体の効果へ影響を生じさせないことが示唆された。

試験実施:Egetis社(権利導入元) 試験完了:2016年

 

試験相: 第Ⅰ相臨床試験

被験者: 48症例、日本人及び白人健康男性

目的:  SP-04の安全性及び薬物動態の検討

成績:  SP-04は10 µmol/kgまでの用量で安全であり,忍容性も良好であった。

SP-04の曝露量(AUC0-last及びCmax[RT1])は日本人と白人で同様であった。

試験実施:Egetis社(権利導入元) 試験完了:2018年

 

試験相: 第Ⅲ相臨床試験

被験者: 592症例、米国、欧州、日本等のmFOLFOX6療法を実施する大腸がん患者

目的:  SP-04の有効性及び安全性の検討

成績:  有効性にかかる主要評価項目は未達となった。化学療法併用 SP-04 投与群は化学療法単独群(プラセボ)に対して、がん化学療法の最初の投与サイクルから 9 か月後の被験者報告に基づく中等度又は重度の末梢神経障害の発症リスクについて、統計学的に有意な低下を示さなかった。

試験実施:当社及びEgetis社(権利導入元) 試験完了:2020年

 

d SP-04の収益化戦略

導出モデルにより収益化を図ります。製薬企業等への導出契約を締結し、当該企業の販売活動を通じて収益化を図ることを計画しております。

日本市場では、マルホ株式会社と販売権導出契約を締結しており、同社の販売活動を通じて収益化を図ることを計画しております。

 

当社グループの開発パイプラインの進捗状況は下記のとおりです(2024年2月末現在)。

※画像省略しています。

 

 

24/03/22

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営業績等の状況の概要

①  経営成績の状況

当社グループは、がん領域を対象とする製品の開発事業化に特化するスペシャリティファーマであり、バイオベンチャー企業の一種です。医薬品等の研究開発は臨床試験等を実施するために多額の先行投資を要し、かつその期間は中長期に亘ることから、収益確保、投資資金回収には相当程度の期間を要するものとなります。これまでの先行投資の結果として、3つの開発品について開発に成功し、販売開始に至りました。製品の販売開始により、投資資金回収の端緒に就いたものと認識しておりますが、医薬品等の研究開発過程において最大の投資が必要とされる最終段階の開発を複数行ってきたことから、事業全般においては未だ先行投資を継続している状況にあります。

バイオベンチャー企業の成功事例を多数有する米国において、その大半の企業の単年度損益は赤字です(米国ナスダックバイオインデックス構成企業のうち、株式時価総額1,000億円超の企業は155社あり、うち営業赤字計上の企業は118社。本年2月7日現在。当社調べ)。これは、当該企業の単年度損益への評価に比して、有望な医薬品開発への先行投資を積極的に図る事業戦略への評価が金融市場においてより重要視されていることによるものと考えられます。当社グループは、現時点において同様の事業戦略によって運営されております。

当連結会計年度は、主に、以下の各開発品等の事業活動に努めてまいりました。

 

[開発完了した販売開始済製品]

■Sancuso® (効能・効果:がん化学療法に伴う悪心・嘔吐)

■エピシル®(使用目的:がん等の化学療法や放射線療法に伴う口内炎で生じる口腔内疼痛の管理及び緩和)

・中国販売を中心とするSancuso®(SP-01)及びエピシル®(SP-03)は、原価低減目的による製造所移管作業による影響、中国で施行された汚職撲滅キャンペーンによる通常営業活動への影響等により年央以降の製品出荷に制約が生じ、当初想定を大幅に下回る水準となりました。

 

■ダルビアス® (効能・効果:再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫)

・2022年に日本で承認され、販売が開始されています。

・現在、再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫に引き続く、他のがん種への適応拡大検討を行っております。また本製品の海外権利導出活動も行っております。

 

[非臨床試験段階の開発品]

■SP-04(予定する効能・効果:がん化学療法に伴う末梢神経障害)

・大腸がん患者におけるオキサリプラチンを含む多剤化学療法に起因する末梢神経障害を対象とした、日本を含む国際共同第Ⅲ相臨床試験の結果に鑑み、当該対象の開発を留保し、タキサン製剤に起因する末梢神経障害を対象とした開発の可能性を探索するため追加の動物試験を実施しております。これまでの動物試験結果で得られた情報をもとに導入元Egetis社と協力して新たな動物試験を日本で実施しております。

 

[開発を停止した開発品]

■SP-05(予定する効能・効果:フルオロウラシルの抗腫瘍効果増強)

・大腸がん患者を対象とした、日本を含む国際共同第Ⅲ相臨床試験(AGENT試験)の最終結果として、主要評価項目及び重要な副次評価項目で統計学的に有意な結果を示さなかったことが2022年に判明し、当社は開発を停止し、また、無形資産の減損処理を行いました。

・本開発品の権利導入元であるIsofol社は、SP-05の臨床開発再開を念頭に、2023年よりAGENT試験結果の詳細な解析と新たな非臨床試験を実施しており、これらの全般的な評価はSP-05(arfolitixorin)がAGENT試験で使用されたものとは異なる用量及び用法で臨床効果が認められることを示していると結論付けました。

・この結論を受け、Isofol社は2024年2月に同社取締役会において、SP-05の新たな開発プログラムを準備し、可能な限り早期に新たな臨床試験を開始することを決定いたしました。また本決定と合わせて、新用法・用量を用いたSP-05の臨床効果を標準治療と比較して証明するために、時間とコスト効率の良い方法で小規模臨床試験の実施を計画していることを発表いたしました。

・当社は、SP-05の開発を一旦停止した後も、Isofol社と定期的な情報交換を継続してまいりました。今般Isofol社がSP-05の開発再開を決定し、小規模の臨床試験実施を計画している状況を踏まえ、引き続き同社と情報交換を継続すると共に、新たな非臨床試験結果の評価並びに臨床試験計画の内容も評価して、日本における開発再開並びにIsofol社が計画中の新開発プログラム参画についての方針を決定しております。

 

[新規開発候補品・技術]

当社は、下記研究段階或いは臨床開発前の早期ステージのプロジェクトに対し、将来当社の開発品となり得る可能性を見出し、各々のパートナー企業と共に、研究開発活動に取り組んでおります。

■ 核酸医薬

・当社は、本邦バイオベンチャー企業である株式会社ジーンケア研究所(GC社)と同社の有する核酸医薬開発品RECQL1-siRNA 及びその関連技術の権利取得にかかる独占交渉権(オプション権)に関する契約を2020年に締結いたしました。現在GC社と共同で開発を行っており、また、今後の非臨床試験及び新製剤開発の進捗状況等に鑑み、オプション権行使による権利取得を検討してまいります。

・RECQL1-siRNAは、米国 Alnylam Pharmaceuticals社 (Nasdaq: ALNY) からのライセンス技術を基盤に、GC社で創成されたsiRNA(短鎖二本鎖RNA)であり核酸医薬品の一つです。がん細胞で過剰発現が認められるDNA修復酵素ヘリカーゼRECQL1に対して当該酵素のみを選択的に発現抑制することで細胞死を誘導する新しい作用機序が考えられています。既に複数の薬理試験において、様々ながん種での増殖抑制効果、また進行期の卵巣癌及び胃癌等で発現する腹膜播種モデル動物における延命効果が示されています。

・当社及びGC社は、東京大学大学院理学系研究科 程研究室との共同研究で創製された、より高い有効性と安全性が期待できるsiRNA新配列について、臨床開発段階に移行するためのさらなる薬効薬理試験及び新製剤開発の準備を開始いたしました。

*腹膜播種は、卵巣癌や胃癌など腹腔内に発生した癌の腹膜への転移であり、癌細胞が種をまいたように腹腔内に散らばる状態です。病態が進行すると癌性腹水などを伴うことがあり、予後不良の状態になるとされています。現在の全身化学療法の腹膜播種に対する奏効は十分ではなく、腹腔内直接投与など新たな局所療法も試みられています。

■ RNA編集技術を用いた創薬事業(遺伝子治療)

・当社は、九州大学発のバイオベンチャー企業であるエディットフォース株式会社と共同研究開発契約を2019年に締結し、中長期にわたる開発候補品獲得手段を確保いたしました。同社の核心的RNA編集技術を基にした新規がん領域等における遺伝子治療薬の創薬への展開を意図します。

・現在、可能性のある対象疾患及びその変異遺伝子を選択し、同社RNA編集技術に基づいて創製されたpentatricopeptide repeat(PPR)候補の効果発現を確認するための非臨床試験に関する諸条件の整備・検討を進めています。

■ 新規抗体修飾技術を用いた創薬事業

・当社は、東京工業大学発のバイオベンチャー企業である株式会社HikariQ Healthと、当社から同社への出資を中心とする資本業務提携契約を2022年4月に締結いたしました。

・同社のQ-body基盤技術は、Q-body本体である抗体内部に蛍光色素が取り込まれ消光状態になり、当該抗体が抗原と反応することで取り込まれた蛍光色素が弾き出されて本来の蛍光を放つ仕組みです。このため、Q-bodyは抗原濃度に応じて蛍光強度が変化するバイオセンサーとして機能するとされ、この仕組みを利用した免疫測定技術は、現在の免疫反応を用いた検査に比べて大幅な簡素化及び低コスト化が期待されます。また、当該技術を医薬品に応用した次世代抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate: ADC)創薬の初期検討を進めています。

・同社では、免疫検査事業に関する研究を進めており、当社は、同社と共にQ-body技術を応用した 次世代ADC創薬の初期検討にも着手しております。

■機能性蛍光プローブ技術共同事業化の検討

・当社は、2023年に、五稜化薬株式会社と、同社の技術に基づく機能性蛍光プローブを用いたがん外科手術向けナビゲーションドラッグなどの医薬品事業に係る事業開発活動及び臨床開発活動を共同で実施するための共同事業化検討契約を締結いたしました。

・最初の対象として、乳がんを対象としたナビゲーションドラッグ(GCP‐006)の開発及び事業化について検討を開始しております。

 

上記のとおり製品開発品価値向上に努め、また損益改善を念頭とした昨年の構造改革の成果が生じはじめ、中長期観点での企業価値向上を図りましたが、短期的損益面においては、製品販売が未だ初期段階にあるため、製品販売利益を超過する医薬品開発先行投資等を継続している状況にあります。このため、当連結会計年度の単年度損益業績は次のとおりとなりました。

 

売上収益は、Sancuso®(SP-01)、ダルビアス®(SP-02)及びエピシル®(SP-03)の製品販売収益等により617百万円生じ、また、売上総利益は337百万円となりました。

研究開発費は403百万円発生いたしました。これは主に製品原価削減に資する製造所変更への投資、ダルビアス®(SP-02)の適応拡大検討、SP-04動物実験、新規開発品候補への投資によるものです。販売費及び一般管理費は、前年度の中国自販体制解消を中心とする固定費削減策を継続したことにより、前連結会計年度と比べ1,176百万円減少し、1,073百万円となりました。売上総利益より研究開発費と販売費及び一般管理費を減じた営業損益は1,139百万円の損失となり、当期損益は1,112百万円の損失となりました。

無形資産については、当連結会計年度において、開発パイプラインへの投資のうち資産性を有すると認識される開発費用等はありません。当連結会計年度の開発パイプラインへの投資は、研究開発費403百万円となります。

また、Sancuso®(SP-01)及びダルビアス®(SP-02)の無形資産償却により、当連結会計年度において452百万円の償却が発生しました。これらの結果、無形資産残高は1,117百万円となりました。

 

② 財政状態およびキャッシュ・フローの状況

キャッシュ・フローについては、「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」に記載のとおりです。

 

③生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当社グループは生産活動を行っていませんので、該当事項はありません。

 

b. 受注実績

当社グループは受注生産を行っていませんので、該当事項はありません。

 

c. 販売実績

当連結会計年度の販売実績は、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年1月1日

至 2023年12月31日)

金額(百万円)

前年同期比(%)

医薬品事業(百万円)

617

△43.5%

(注)1.当社グループは、医薬品事業の単一セグメントです。

2.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。

相手先

前連結会計年度

(自 2022年1月1日

至 2022年12月31日)

当連結会計年度

(自 2023年1月1日

至 2023年12月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

Lees Pharmaceuticals Holdings Ltd.

512

46.9

498

80.8

日本化薬株式会社

274

25.1

38

6.3

Itochu Chemicals America Inc.

253

23.2

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものです。

① 重要性がある会計方針及び見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの重要性がある会計方針及び見積りにつきましては、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項3.重要性がある会計方針、注記事項4.重要性な会計上の判断、見積り及び仮定」に記載のとおりです。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の経営成績及び分析は以下のとおりです。

経営成績

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

前期比

(百万円)

売上収益

1,092

617

△475

売上総利益

662

337

△325

営業利益(△損失)

△2,470

△1,139

1,331

当期利益(△損失)

△2,548

△1,112

1,435

 

当社グループは、販売開始済3製品を含むがん領域医薬品パイプラインの拡充育成を中心に事業運営を図っており、当期は主に上記「(1)経営業績等の状況の概要①経営成績の状況」に記載の通り、事業活動に務めてまいりました。

 

上記のとおり製品開発品価値向上に努め、また損益改善を念頭とした昨年の構造改革の成果が生じはじめ、中長期観点での企業価値向上を図りましたが、短期的損益面においては、製品販売が未だ初期段階にあるため、製品販売利益を超過する医薬品開発先行投資等を継続している状況にあります。このため、当連結会計年度の単年度損益業績は次のとおりとなりました。

 

(売上収益、売上総利益)

 売上収益は、Sancuso®(SP-01)、ダルビアス®(SP-02)及びエピシル®(SP-03)の製品販売収益等により617百万円生じ、また、売上総利益は337百万円となりました。

 

研究開発費、販売費及び一般管理費の内訳

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

前期比(百万円)

研究開発費

883

403

△479

販売費及び一般管理費

2,250

1,073

△1,176

3,133

1,476

△1,656

(内訳)人件費

661

470

△191

業務委託費

1,013

410

△602

減価償却費、無形資産償却費及び減損損失

965

500

△464

その他

492

94

△398

(研究開発費、販売費及び一般管理費、営業損益、当期損益)

研究開発費は403百万円発生いたしました。これは主に製品原価削減に資する製造所変更への投資、ダルビアス®(SP-02)の適応拡大検討、SP-04動物実験、新規開発品候補への投資によるものです。販売費及び一般管理費は、前第3四半期に行った中国自販体制解消による固定費削減により、前連結会計年度と比べ1,176百万円減少し、1,073百万円となりました。売上総利益より研究開発費と販売費及び一般管理費を減じた営業損益は1,139百万円の損失となり、当期損益は1,112百万円の損失となりました。

 

(資産性費用の無形資産計上と償却)

当連結会計年度において、開発パイプラインへの投資のうち資産性を有すると認識される開発費用等はありません。当連結会計年度の開発パイプラインへの投資は、研究開発費403百万円となります。

また、Sancuso®(SP-01)及びダルビアス®(SP-02)の無形資産償却により、当連結会計年度において452百万円の償却が発生しました。これらの結果、無形資産残高は1,117百万円となりました。

 

③キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

前期比(百万円)

営業活動によるキャッシュ・フロー

△2,074

△359

1,715

投資活動によるキャッシュ・フロー

△418

△0

418

財務活動によるキャッシュ・フロー

2,571

275

△2,296

 

(資産)

当連結会計年度末の資産は、前連結会計年度末と比べ904百万円減少し、2,229百万円となりました。流動資産は976百万円であり、そのうち現金及び現金同等物は728百万円、売掛金を中心とする営業債権及びその他の債権は67百万円です。非流動資産は1,252百万円であり、そのうち開発投資にかかる資産計上額である無形資産は1,117百万円です。

 

(負債)

当連結会計年度末の負債は、前連結会計年度末と比べ117百万円減少し、354百万円となりました。流動負債は293百万円であり、そのうち営業債務及びその他の債務は213百万円です。非流動負債は61百万円であり、リース負債27百万円及び繰延税金負債22百万円が主要構成要素です。

 

(資本)

当連結会計年度末の資本は、前連結会計年度末と比べ786百万円減少し、1,875百万円となりました。主な増加要因は新株予約権行使による新株発行318百万円であり、主な減少要因は当期損失1,112百万円です。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは359百万円のマイナス(前連結会計年度は2,074百万円のマイナス)であり、税引前当期損失1,135百万円が主要因です。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは234千円のマイナス(前連結会計年度は418百万円のマイナス)です。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは275百万円のプラス(前連結会計年度は2,571百万円のプラス)であり、新株予約権行使による株式発行収入318百万円が主要因です。

 

 

④ 経営戦略と見通し

当社グループの事業は、医薬品開発パイプラインの強化と収益化を経営戦略の中心に据えて、事業展開を図っています。当社グループはベンチャー企業であり、一般の製薬企業に対し相対的に経営資源に制約があることから、開発成功確率を高めることを最重要視し、体制構築、開発品選定、臨床試験戦略の策定と実行を図っています。具体的な戦略は、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりの以下を遂行することにあります。

a. 既存開発パイプラインの進捗

b. 新規開発パイプラインの拡充

c. 強固な販売パートナーシップの構築

d. 組織の強化

e. 内部統制の強化

f. 資金調達の実施

上記諸戦略は、すべて戦略目標を中長期に亘り設定しており、当面は継続して推進する所存です。

 

(3) 経営者の問題認識と今後の方針について

経営者の問題認識と今後の方針につきましては、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。

 

(4) 経営成績に重要な影響を与える要因について

経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3.事業等のリスク」に記載のとおりです。