売上高

利益

資産

キャッシュフロー

配当

ROE 自己資本利益率

EPS BPS

バランスシート

損益計算書

労働生産性

ROA 総資産利益率

総資本回転率

棚卸資産回転率


最終更新:

E38985 

売上高

10.0億 円

前期

0.0 円

前期比

0%

時価総額

72.8億 円

株価

627 (05/02)

発行済株式数

11,604,600

EPS(実績)

22.43 円

PER(実績)

27.95 倍

平均給与

818.5万 円

平均年齢(勤続年数)

44.2歳(2.6年)

従業員数

16人(連結:15人)

株価

by 株価チャート「ストチャ」

 

3 【事業の内容】

当社は、有効な治療法が確立していない神経難病に対して、当社取締役CSO(Chief Scientific Officer)兼慶應義塾大学医学部生理学教室教授の岡野栄之、および当社取締役CTO(Chief Technology Officer)兼同大学医学部整形外科学教室教授の中村雅也を中心とした長年の基礎研究の成果を実用化し、一刻も早く臨床の現場に有効な治療法を届けるため、慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業として、2016年11月に、「医療イノベーションを実現し、医療分野での社会貢献を果たします」を経営理念として、医薬品および再生医療等製品の研究・開発・製造・販売を事業目的として設立いたしました。

当社が事業の主要な対象としております中枢神経疾患領域につきましては、筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」*1という。)など我が国においても難病に指定される疾患が多く存在し、アルツハイマー病(*2)に代表される様々な認知症症状に対しても、有効な治療薬の開発が求められております。また、脊髄損傷(*3)や脳梗塞(*4)などの損傷疾患についても、未だ有効な治療法が確立しておりません。ALSの患者数は、世界では約33万人、国内では約1万人(出典:Clarivate Analytics データベース)と推定されており、脊髄損傷につきましては、国内の亜急性期の脊髄損傷(*5)患者数は年間約5千人(出典:総合リハビリテーション「疫学調査」2008年)、慢性期の脊髄損傷(*6)患者数は約10~20万人(出典:総合リハビリテーション「疫学調査」2008年)、脳梗塞の患者数は約130万人(出典:Clarivate Analytics データベース)とされております。

これらの対象患者に対して画期的な医療イノベーションの実現により有効かつ安全な医療成果を届けるため、当社におきましては、iPS細胞(*7)を活用したiPS創薬事業と再生医療事業のハイブリッドで慶應義塾大学医学部をはじめとする大学や研究機関等と連携して研究開発を推進すると共に、バリューチェーン(*8)を構成する各企業とも連携して事業活動を推進しております。なお、当社は医薬品等の研究・開発・製造・販売の単一セグメントであります。

 

(1)当社の事業領域

当社は、中枢神経疾患領域に対して、iPS細胞を活用したiPS創薬と脊髄損傷等の神経損傷部位に移植する再生医療等製品の開発を主たる事業としております。

①はじめに

長年、中枢神経領域において、「神経は再生しない」という考え方が一般的でありましたが、当社の創業科学者兼取締役CSOである岡野栄之等の研究チームが、神経幹細胞のバイオマーカー(*9)である遺伝子「musashi」を発見し、世界で初めて、ヒト脳の中にも神経幹細胞(*10)が存在することを示したことにより、中枢神経領域の再生医療の可能性を見出し、臨床での神経再生が現実的なものとなってきました。

また、2007年に京都大学山中伸弥教授の研究グループがヒトの皮膚細胞からiPS細胞の樹立に成功したことにより、(ⅰ)iPS細胞を活用した細胞移植治療/再生医療、(ⅱ)iPS細胞による病態解明・薬効評価の可能性が示されました。そこで、慶應義塾大学において岡野栄之と中村雅也の研究チームは、脊髄損傷の治療に対してiPS細胞から分化誘導(*11)した神経細胞を活用する研究を開始し、また、岡野栄之の研究チームは、ALSの患者様由来のiPS細胞から樹立した神経細胞を活用したALS治療薬の開発に着手致しました。

 

 

※画像省略しています。

 

 

 

②当社の優位性

当社は、当社取締役CSO兼慶應義塾大学医学部生理学教室教授の岡野栄之、および当社取締役CTO兼同大学医学部整形外科学教室教授の中村雅也を中心とした長年の基礎研究をもとに事業を展開しており、特に、当社の事業の対象としている中枢神経疾患領域においては、大学や研究機関等において蓄積してきた知見を活用して、研究所において各種ノウハウや技術(iPS細胞から神経細胞に適切かつ効率的に分化誘導することができる技術、創薬に適した表現型(*12)を構築するためのノウハウや技術、再生医療として神経細胞に分化誘導し移植するためのノウハウや技術など)を活用して研究開発を推進しております。

 

③iPS創薬事業

当社は、iPS創薬の研究開発の手法として、病気の患者様由来のiPS細胞から分化誘導した神経細胞を用いた表現型スクリーニングによる化合物・薬剤候補分子の効率的なin vitro(*13)スクリーニングを実施しております。具体的には、患者様から提供を受けた細胞を用いて疾患の特異的な情報を有するiPS細胞を樹立したうえで、神経細胞に分化誘導し、既存の数多くある化合物ライブラリー(*14)の中から、当該iPS細胞から分化誘導した神経細胞に対する各表現型に関して、その量、機能的な活性、反応を定性的または定量的に測定をすることで、薬剤の候補となる可能性のあるヒット化合物(*15)を選別しております。また、併せて、疾患の特異的な情報を有するiPS細胞から分化誘導した神経細胞を用いた疾患のメカニズムの解析や薬剤のターゲットとなりうる物質や遺伝子の解析等を共同研究先である慶應義塾大学医学部と共に進めております。

iPS創薬の手法は、従来の創薬開発プロセスと異なり、前臨床の段階で動物の疾患モデルでの評価を介さず、かつ直接的にヒトの病態を反映した細胞を活用することにより、ヒトでの予見性が高い創薬手法となることから、従来の創薬開発プロセスより短期間で行うことが可能であり、当社では、アンメットメディカルニーズ領域(*16)の疾患に対して効率的かつ合理的に創薬を進めてまいります。

 

 

※画像省略しています。

 

また、さらに、当社のiPS創薬事業は、他の疾患のために開発された既存の医薬品・化合物の中から、新しい効果を発見して新しい医薬品の開発を行う方法であるドラッグリポジショニングという創薬手法を活用することにより、新たに化合物を開発することがなく、特に既に上市された医薬品を用いる場合には、既にヒトに対して一定の安全性が確認されていることから、創薬の研究開発に係る費用や時間について、これまでの新薬開発に必要な期間を3~12年、費用を50~60%程度削減できる可能性がございます(出典:株式会社三菱総合研究所 2020.6 ドラッグリポジショニングによる創薬力の復活)。

 

 

※画像省略しています。

 

当社は、中枢神経疾患領域を重点ターゲットとして、未だ有効な治療法のない患者様に一刻も早く有効な治療法を届けるため、ALSを始めとした難治性の希少疾患に対する開発パイプラインの研究開発を推進しておりますが、各神経疾患が示す病態については一部共通した作用やメカニズムがあると考えていることから、「Rare to Common戦略」(患者数が少ない難治性の疾患の創薬開発から、患者数の多い一般的な疾患の創薬開発を目指す戦略)を推進してまいります。

 

※画像省略しています。

 

 

④再生医療事業

当社は、神経損傷疾患である脊髄損傷に対して、自身の細胞から樹立するiPS細胞と比較して、汎用性や市場性が高いと考えております他家iPS細胞(*17)から分化誘導した神経前駆細胞(*18)を移植することで損傷部位の治療を行う再生医療の研究開発を推進しております。

脊髄損傷は、スポーツでの怪我や交通事故により脊髄に損傷が及ぶケース、加齢によって骨が弱くなり転倒して損傷するケース、頸椎の形状が変化し頚髄に負荷がかかり損傷するケースなどがあり、脊髄が損傷した場合、脊髄が脳からの指令や情報を脳幹を通じて体の各部に伝達する役割を果たすことができなくなり、身体の運動機能や感覚機能が完全に停止または一部停止する、麻痺の症状が発生することがあります。

当社は、まず、慶應義塾大学医学部との共同研究において、損傷による炎症が低下し、かつ、損傷部位が完全に空洞化する前の移植した神経前駆細胞が生着しやすいと考えられる亜急性期の脊髄損傷についての研究開発を優先して進めております。当事業年度末日現在、慶應義塾大学医学部において「亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療」の医師主導臨床研究が実施されており、当該臨床研究後に、当社において企業治験を行う予定であります。そのための準備として、最適なiPS細胞の選定や分化誘導法の確立、脊髄損傷モデルマウス(*19)の評価、臨床に向けた大量培養方法の検討、各種品質管理項目の検討などを進めており、実用化に向けた取り組みを推進しております。

 

※画像省略しています。

 

また、当社では損傷後一定の期間が経過し損傷部位が完全に空洞化して、その空洞化した部分が移植した神経の伸長を阻害する可能性がある慢性期の脊髄損傷についても未だ有効な治療法がないことから研究開発を進めており、将来的には亜急性期の脊髄損傷に関する研究開発と並行して、亜急性期の脊髄損傷と比較して患者数の多い慢性期の脊髄損傷についての企業治験の検討も進めてまいります。さらに、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、慢性期外傷性中枢神経損傷につきましても、共同研究を進めている独立行政法人国立病院機構大阪医療センターと連携し、前臨床の研究を進める予定にしております。

なお、2014年の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「薬機法」という。)の改正に伴い、再生医療等製品の治験プロセスについては、通常の医薬品の治験プロセスと比較して、早期承認のための制度が追加されており、早期承認の審査の中で、一定数の限られた症例による治験において、安全性の確認と有効性の推定について認められた場合、条件期限付き承認を受けることが可能となり、販売後に更なる安全性と有効性の検証を経て、最終的に承認または失効するプロセスが導入されました。

当社におきましては、再生医療事業の各開発パイプラインについて、薬機法に従い、大学や研究機関と連携して、企業治験のための研究開発を推進してまいります。

 

 

※画像省略しています。

*厚生労働省 薬事法等の一部を改正する法律の概要(平成25年法律第84号)を参考に当社作成

 

(2)当社のビジネスモデル

当社の主なビジネスモデルは、大学や研究機関等が保有する基礎研究の成果や特許等の知的財産権の独占的な実施許諾権等に基づいた開発パイプライン、または、当社自らが基礎研究を進めた成果に基づいた開発パイプラインについて、製薬会社等のパートナーと、基礎/探索研究から企業治験の各段階において、共同研究開発や将来の製造販売等の権利の一部または全部を譲渡するライセンス契約を締結して収入を受領するものであります。

まず、大学や研究機関等が保有する知的財産権等を活用して共同研究契約を締結する場合は、当社が情報や技術、研究成果等を受け取る一方で、当社から共同研究費用を支払うことになります。

次に、製薬会社等のパートナーと共同研究開発を進める場合においては、当社からは当該パートナー企業に対して、情報や技術、研究成果等を提供する一方で、当社は当該パートナー企業から共同研究開発契約を締結した段階で契約一時金を受領します。共同研究開発契約締結後は、共同研究開発契約を行った対象の開発パイプラインにおいて設定する個別の各目標の達成状況に応じて共同研究達成マイルストン収入を受領します。

そして、ライセンス契約においては、当社からは当該パートナー企業に対して、情報や技術、研究成果等を提供する一方で、当社は当該パートナー企業からライセンス契約を締結した段階で契約一時金を受領します。ライセンス契約締結後は、当社はライセンス契約を行った対象の開発パイプラインにおいて設定する個別の各目標の達成状況に応じて共同研究達成マイルストン収入を受領します。さらに、ライセンス契約の対象の開発パイプラインの上市後は、当社は販売の一部からライセンスの販売ロイヤリティ収入を受領すると共に、販売の達成金額に応じて販売達成マイルストン収入を受領します。

 

(当社の一般的な収入形態)

収入形態

内容

共同研究契約一時金収入

共同研究契約を締結した際に、提携先から受領する収入

共同研究達成マイルストン収入

共同研究の開発パイプラインにおいて設定した目標の達成に応じて受領する収入

ライセンス契約一時金収入

ライセンスの対象とする開発パイプラインの独占的な製造・販売権等の対価として、提携先から受領する収入

ライセンス達成マイルストン収入

ライセンスの開発パイプラインにおいて設定した目標の達成に応じて受領する収入

販売ロイヤリティ収入

上市した製品の販売金額の一部を一定の割合に応じて受領する収入

販売達成マイルストン収入

上市した製品の販売金額達成額に応じて受領する収入

 

 

(事業系統図)

 

※画像省略しています。

 

  (3)当社の開発パイプライン

当事業年度末日現在における開発パイプラインの進捗状況は以下のとおりとなっております。

 

※画像省略しています。

 iPS創薬事業における開発パイプラインにおきまして、まず、ALSに関する開発パイプラインであるKP2011について、慶應義塾大学により、iPS創薬の手法でALS患者様の細胞から作製したiPS細胞から分化誘導した神経細胞に対して、約1,200の化合物の中から表現型スクリーニングによって見出したパーキンソン病治療の既存薬であるロピニロール塩酸塩をALS患者様に投与する医師主導治験(*20)(ALS患者様を対象としたロピニロール塩酸塩徐放錠内服投与による第Ⅰ/Ⅱa相試験)を以下の概要で実施いたしました。

 

試験期間

2018年12月~2021年3月

治験デザイン

二重盲検(*21)期:単施設, ランダム化, 二重盲検, プラセボ(*22)対照

継続投与期:単施設, オープンラベル, 非盲検, 実薬継続投与

主な患者選択基準

・ALSの診断基準(世界神経学会El Escorial改訂)における「ALS可能性高し 検査陽性」、「ALS可能性高し」または「ALS確実」に該当し、発症後60ヶ月以内である患者

・ALSの重症度分類(厚生労働省 特定疾患研究調査2007.1.1)が1または2である患者

・同意取得時点の年齢が20歳以上、80歳以下である日本人患者

症例数

家族性あるいは孤発性(*23)ALS患者20例 (実薬13例、プラセボ7例)

用法用量

ロピニロール塩酸塩徐放錠/プラセボ錠2mgを1日1回より開始し、一週毎に目標維持量16mgまで増量。全投与期間24週間

主要評価項目

安全性(本剤の投与による有害事象の発現割合、重症度等)及び忍容性(本剤の副作用が投与された患者にとってどの程度耐えることができるかどうか)

副次評価項目

有効性(本剤の投与による治療の効果の高さ)

 

 

 

※画像省略しています。

慶應義塾大学による医師主導治験(第Ⅰ/Ⅱa相試験)では、全患者様が、最大の量(16mg)を内服することができ、かつ、有害事象のほとんどが軽度なものであり、有害事象による内服の中止がなかったことから、ALS患者様に対するロピニロール塩酸塩の安全性と忍容性が確認できました。

 

※画像省略しています。

また、有効性についても、ロピニロール塩酸塩の実薬群とプラセボ群に分けてそれぞれ投与した期間において、実薬群がプラセボ群と比較してALS患者様の総合機能評価や日常活動量の低下を抑制して、統計的に一定の有効性があることが示唆されました。

※画像省略しています。

 

さらに、死亡または一定の病気の進行までの期間を生存期間として検討した結果、生存期間の中央値は、ロピニロール塩酸塩群(実薬群)50.3週、プラセボ群22.4週で、計1年の試験期間中に、プラセボ群と比較してロピニロール塩酸塩群において、病気の進行を27.9週間(約7ヶ月)遅らせる可能性が示されました。

加えて、ロピニロール塩酸塩群では、最初の6ヶ月の間に、複数の筋肉における筋力低下や活動量の低下が有意に抑制されることがわかりました。

上記の通り、慶應義塾大学において行われましたALS患者様を対象としたロピニロール塩酸塩徐放錠内服投与による第Ⅰ/Ⅱa相試験について、ALSに対してロピニロール塩酸塩の一定の安全性、忍容性および有効性が確認されました。なお、この結果につきましては、論文(「Cell Stem Cell」(Morimoto et al., 2023, Cell Stem Cell 30, 766–780 June 1, 2023))により公表されております。

当社におきましては、慶應義塾大学による医師主導治験での成果を踏まえて、2023年3月にアルフレッサ ファーマ株式会社と日本国内における開発権・製造販売権の実施許諾の契約を締結いたしました。本契約により、アルフレッサ ファーマ株式会社が、日本国内におけるロピニロール塩酸塩を活用したALS治療薬の開発・製造販売する権利に基づき、企業治験を進めてまいります。また、当社は本契約の対価として、契約一時金、開発の進捗に応じたマイルストン収入、および販売に応じたロイヤリティ収入を受領いたします。

今後におきましては、2020年代後半での上市に向けて、主に導出先であるアルフレッサ ファーマ株式会社が独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)等の各関係機関と協議を進めながら、第Ⅲ相試験(多数の患者様に対する安全性および有効性の検証を行う試験)の実施に向けた準備を推進してまいります。

また、上記アルフレッサ ファーマ株式会社との提携と並行して、慶應義塾大学との共同研究において、ロピニロール塩酸塩が新規メカニズムに基づいてALS治療効果を示す新規薬剤であることを明確にする研究開発の取り組みを行っております。

なお、同開発パイプラインにつきましては、北米、欧州、インド、中国への海外展開も視野に入れており、製薬会社等のパートナーとのライセンス契約締結に向けた事業開発を推進してまいります。

次に、前頭側頭型認知症の開発パイプラインにおいては、化合物のスクリーニングを完了し、詳細な解析を実施しております。一定の作用メカニズムが確認できた段階で、PMDAに対する事前面談等を行い、その後の開発を実施してまいります。

さらに、ハンチントン病の開発パイプラインにおいてもスクリーニングを実施しており、より高次の評価系を用いて化合物の選定を進めており、同開発パイプラインにおきましても最終化合物を選定し、一定の作用メカニズムが確認できた段階でPMDA事前面談を行う予定であります。

その他、神経フェリチン症の開発パイプライン、那須・ハコラ病の開発パイプラインについても研究を進めており、引き続き、iPS創薬事業における各開発パイプラインの研究開発を推進してまいります。

今後におきましても、iPS創薬の各開発パイプラインについて、研究開発の進捗に応じて、一定の段階でパートナーと共同研究契約またはライセンス契約を締結すべく取り組んでまいります。

 

※画像省略しています。

 

再生医療事業における開発パイプラインにおきましては、亜急性期の脊髄損傷について、慶應義塾大学が「亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療」の臨床研究を以下の概要で実施しております。

研究の開始

2021年6月開始

研究の目的

細胞移植の安全性評価を主として、副次的に有効性についても評価

主な患者選択基準

亜急性期脊髄損傷の患者(第 3/4 頚椎~第 10 胸椎高位、受傷後 14~28 日)

目標症例数

4症例

移植概要

iPS細胞から神経のもとになる細胞である神経前駆細胞を作製して凍結保存したうえで、患者の脊髄損傷部位に対して約200万個の細胞を注射で移植する

 

 

慶應義塾大学では、2021年12月に本臨床研究において、世界で初めてiPS細胞から作製した神経前駆細胞を亜急性期の脊髄損傷の患者様に移植いたしました(慶應義塾大学 2022年1月 「亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療」の臨床研究について)。

その後、第三者機関である独立データモニタリング委員会(*24)において、2022年3月に、本第1症例目の移植後3か月目までのデータをもとに治療開始後の安全性について評価を行い、第1症例目の患者様に対しての移植について安全性に問題はないという当委員会の判定により、本臨床研究における第2症例目以降の移植が継続されております。

当社におきましては、今後の慶應義塾大学主体で実施しております本臨床研究の結果を受けて、同大学と連携して、当社主導による亜急性期の企業治験を円滑に進めるため、最適なiPS細胞の選定や分化誘導法の確立、脊髄損傷モデルマウスの評価、臨床に向けた大量培養方法の検討、臨床用iPS細胞の製品製造における委託先の選定、各種品質管理項目の検討等を推進すると共に、グローバルに再生医療等製品として販売を実施するために、製薬会社等のパートナーとの提携を進めてまいります。

また、慢性期の脊髄損傷および慢性期脳梗塞等の開発パイプラインについても研究開発の進捗に応じて、企業治験に向けた準備を進めると共に、一定の段階でパートナーと共同研究契約またはライセンス契約を締結すべく取り組んでまいります。

 

(用語解説)

番号

用語

内容

*1

筋萎縮性側索硬化症

重篤な筋肉萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患であり、筋肉そのものの病気ではなく、運動ニューロンに障害が起きる

*2

アルツハイマー病

脳内に異常な凝集体(アミロイド班)と線維のもつれ(神経原線維変化)が特徴として現れて、記憶障害、思考力障害、言語障害等の認知症症状が起きる

*3

脊髄損傷

事故やケガなどにより脊椎に圧迫が加わることで、脊椎の中にある筒状の神経の束である脊髄が損傷を受けた状態

*4

脳梗塞

脳内の血管が狭くなったり、血栓によって詰まることで、血液が流れなくなり、脳の神経細胞が壊死する状態

*5

亜急性期の脊髄損傷

脊髄が損傷を受けてから、約4週間以内にある脊髄損傷

*6

慢性期の脊髄損傷

脊髄が損傷を受けてから、一定の期間が経過した時期にある脊髄損傷

*7

iPS細胞

人の皮膚や血液等の細胞に少数の因子を加え培養することで、人工的に作製される、様々な細胞に分化することができ、かつ、増殖することができる多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)

 

 

番号

用語

内容

*8

バリューチェーン

最適化された企業価値を生み出すための、原材料の調達から製造、流通、販売等の主活動とそれを支える支援活動の一体化した繋がり

*9

バイオマーカー

特定の疾患の有無や病状の変化や治療の効果の指標となるもの

*10

神経幹細胞

増殖・継代を繰り返すことができる自己複製機能と、中枢神経系を構成する細胞を作り出すことができる多分化機能を有する未分化な細胞

*11

分化誘導

iPS細胞から様々な異なる細胞への分化を引き起こすこと

*12

表現型

薬剤の候補となる化合物を細胞等に加えることで対象とする疾患に関連して起きる現象

*13

in vitro

試験管や培養器の中で人や動物の細胞を用いて、体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の反応を検出するもの

*14

化合物ライブラリー

特定の指標やターゲットとする疾患領域に基づいてデザインされた既に開発された化合物の集まり

*15

ヒット化合物

化合物スクリーニングの結果、良好な反応が得られた化合物

*16

アンメットメディカルニーズ領域

未だ有効な治療法が確立しておらず、患者からの要望が大きい疾患領域

*17

他家iPS細胞

他人の細胞から樹立したiPS細胞

*18

神経前駆細胞

未分化な状態を保ったまま増殖することが可能な自己複製能と、中枢神経系を構成するニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの3系統の細胞へと分化することができる多分化能を併せ持つ細胞

*19

脊髄損傷モデルマウス

人為的に脊髄損傷の状況を再現したマウス

 

*20

医師主導治験

大学等で見出した薬の効果を確かめる場合に、医師が中心となり試験の計画、実施を行うこと

*21

二重盲検

試験の被験者および実施者ともに、各被験者が実薬とプラセボのどちらの群に入っているか分からない状態とする方法

*22

プラセボ

治療効果を持たない(有効成分を含まない)薬剤(でんぷんや糖など)

*23

孤発性

病気が発症する際に、散発的で遺伝以外の環境要因等複数の要因が考えられること

*24

独立データモニタリング委員会

臨床試験の評価に必要とされる専門性を有する委員から構成され、試験実施中の中間データについて中立的な評価を行う組織。研究グループからは独立した組織であり、研究グループに対し、研究参加者の安全性の確保ならびに臨床研究実施の倫理的および科学的妥当性の確保のために適切な助言・勧告を行う

 

 

24/03/28

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

① 財政状態の状況

(資産)

当事業年度末における流動資産は3,308,968千円となり、前事業年度末と比較して1,938,040千円増加いたしました。主な要因は、現金及び預金が新株発行等により1,929,560千円増加、前払費用も8,967千円増加したことによるものであります。

固定資産は4,934千円となり、前事業年度末と比較して1,296千円増加いたしました。これは保証金が1,296千円増加したことによるものであります。

この結果、総資産は3,313,902千円となり、前事業年度末と比較して1,939,336千円増加いたしました。

(負債)

当事業年度末における流動負債は178,480千円となり、前事業年度末と比較して144,796千円増加いたしました。

主な要因は、未払費用が8,569千円増加、未払金が7,271千円増加、未払法人税等が67,683千円増加およびその他が59,714千円増加したことによるものであります。

固定負債は30,654千円であり、前事業年度末と比較して26,035千円増加いたしました。これは資産除去債務が26,035千円増加したことによるものであります。

この結果、負債合計は209,134千円となり、前事業年度末と比較して170,831千円増加いたしました。

(純資産)

当事業年度末における純資産合計は3,104,768千円となり、前事業年度末と比較して1,768,504千円増加いたしました。これは、当期純利益を260,330千円計上したことにより利益剰余金が260,330千円増加、新株発行により資本金および資本剰余金がそれぞれ754,087千円増加したことによるものであります。

この結果、自己資本比率は93.7%(前事業年度末は97.2%)となりました。

 

② 経営成績の状況

当事業年度における我が国経済は、長引くロシア・ウクライナ問題に加え、中東並びに中国・台湾においても地政学リスクが顕在化すると共に、エネルギー価格の高止まり、各国の金融引き締めに伴う景気の減速見通し、不安定な為替相場および中国経済の減速懸念等が重なり、依然として先行きが不透明な状況が続いております。

このような状況の中、当社は慶應義塾大学医学部発ベンチャー企業として、iPS細胞を活用した創薬事業、iPS細胞を活用した再生医療事業の研究・開発とその収益化を推進し、2023年3月1日にアルフレッサ ファーマ株式会社との間で、日本市場を対象とした「ロピニロール塩酸塩を活用したALS治療薬の開発権・製造販売権許諾契約」を締結すると共に、ALS治療薬の海外市場やALSに関する開発パイプライン以外の開発パイプラインにおいても国内外の製薬会社等のパートナーとの提携に向けた事業開発活動を鋭意進めております。

研究開発活動につきましては、iPS創薬事業では6つの開発パイプラインの研究を行っており、その内のALSに関する開発パイプラインでは、一刻も早く患者様に治療薬を届けるために、アルフレッサ ファーマ株式会社と共に検証的治験(第Ⅲ相試験)に向けて準備を進めております。

なお、ロピニロール塩酸塩がALSの病態に有効であることをiPS細胞を用いる方法により見出されておりますが、これはiPS細胞創薬によって、既存薬以上の臨床的疾患進行抑制効果をもたらしうる薬剤の同定に世界で初めて成功した事例であり、iPS細胞等幹細胞を用いた研究に関する著明な国際科学雑誌である「Cell Stem Cell 誌(Cell Press)」に、2023年6月2日(日本時間)に掲載されております。

また、難聴に関する開発パイプラインにおいては、学校法人北里研究所との共同研究を2023年6月に開始し、前頭側頭型認知症に関する開発パイプラインにおいては、最終的に絞り込んだ1化合物について必要なデータの取得にも目途がつき、2023年11月2日に特許出願を行う等の成果が出ており、iPS創薬事業のその他の開発パイプラインにおいても、ハンチントン病に関する開発パイプラインで最終的な化合物の絞り込みを完了する等、今後の治験に向けた取り組みを進めております。

再生医療事業では5つの開発パイプラインの研究を行っておりますが、その内の亜急性期脊髄損傷に関する開発パイプラインでは、2023年2月に慶應義塾大学信濃町キャンパス内総合医科学研究棟に「ケイファーマ・慶應 脊髄再生ラボ」を開室し、2021年6月に開始した慶應義塾大学による医師主導臨床研究の解析結果が判明した後、速やかに当社による企業治験を始められるよう当事業年度PCT出願済の移植用神経前駆細胞への新たな分化誘導法に基づく大量培養法の確立やGMP対応試薬への切替、製品規格の元となるデータの取得等、治験薬製造に向けた検討を進めると共に臨床用iPS細胞の製品製造における医薬品受託製造事業会社(CDMO)の選定も並行し、臨床用iPS細胞の選定後、遅滞なく製造に移行できるよう準備を進めております。

亜急性期脊髄損傷以外の開発パイプラインに関しても、慢性期脊髄損傷に関する開発パイプラインにおいて、外部有識者とのアドバイザー契約を2023年6月に締結し、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血および慢性期外傷性脳損傷に関する開発パイプラインにおいても独立行政法人国立病院機構大阪医療センターとの共同研究を2023年8月に開始しており、再生医療の実現に向け、研究および開発を進めております。

この結果、当事業年度におきましては、売上高を1,000,000千円(前年同期は-千円)、売上総利益を910,000千円(前年同期は-千円)計上したものの、研究開発費を255,417千円(前年同期は163,971千円)計上した結果、営業利益は366,057千円(前年同期は353,772千円の営業損失)、経常利益は344,184千円(前年同期は359,233千円の経常損失)、当期純利益は260,330千円(前年同期は392,427千円の当期純損失)となりました。

なお、当社は、医薬品等の研究・開発・製造・販売の単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、営業活動による資金の増加454,425千円、投資活動による資金の減少11,099千円、財務活動による資金の増加1,486,235千円により前事業年度末と比較して、1,929,560千円増加し、3,266,408千円となりました。

当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と、それらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度における営業活動による資金の増加は、454,425千円(前事業年度は363,482千円の減少)となりました。

主な要因は、税引前当期純利益301,076千円、その他の流動負債の増加96,930千円および減損損失43,107千円の非資金費用による資金の増加要因があった為になります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度における投資活動による資金の減少は、11,099千円(前事業年度は32,737千円千円の減少)となりました。

これは有形固定資産の取得による支出9,803千円、敷金及び保証金の差入による支出1,296千円による資金の減少要因があった為になります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度における財務活動による資金の増加は、1,486,235千円(前事業年度は1,544,285千円の増加)となりました。

主な要因は、株式の発行による収入1,496,325千円による資金の増加要因があった為になります。

 

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a 生産実績

当社は生産活動を行っておりませんので、記載を省略しております。

 

b 受注実績

当社は受注生産を行っておりませんので、記載を省略しております。

 

c 販売実績

販売実績は、次のとおりであります。なお、当社は、医薬品等の研究・開発・製造・販売の単一セグメントであるため、セグメントごとの記載はしておりません。

セグメントの名称

金額(千円)

前期比

医薬品等の研究・開発・製造・販売事業

1,000,000

合計

1,000,000

 

(注)主な相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次の通りであります。

なお、前事業年度のアルフレッサ ファーマ株式会社に対する販売実績はありません。

相手先

前事業年度

(自  2022年1月1日

  至  2022年12月31日)

当事業年度

(自  2023年1月1日

  至  2023年12月31日)

販売高(千円)

割合(%)

販売高(千円)

割合(%)

アルフレッサ ファーマ株式会社

1,000,000

100.0

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末日現在において判断したものであります。

 

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を与えるような見積り、予測を必要とされております。経営者は、これらの見積を行うにあたり、過去の実績値や状況を踏まえ合理的と判断される前提に基づき、継続的に見積り、予測を行っております。しかしながら実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

 当社の財務諸表を作成するにあたって採用する重要な会計方針につきましては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等(1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。

 会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定につきましては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等(1)財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しております。

 

② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

(売上高)

 当事業年度の売上高は、1,000,000千円(前年同期は-千円)となりました。これは、開発権・製造販売権許諾契約を締結したことに伴い、契約一時金およびマイルストン収入を計上したことによるものであります。

 

(売上原価、売上総利益)

 当事業年度の売上原価は、90,000千円(前年同期は-千円)となりました。これは、契約一時金およびマイルストン収入獲得に伴う特許権に対する再実施許諾金を計上したことによるものであります。この結果、売上総利益は910,000千円(前年同期は-千円)となりました。

 

(販売費及び一般管理費、営業利益)

 当事業年度の販売費及び一般管理費は、543,942千円(前年同期は353,772千円)となりました。

 主な要因は、研究開発強化による研究開発費255,417千円(前年同期は163,971千円)、東京証券取引所グロース市場上場に関連する支払手数料65,361千円(前年同期は41,104千円)および事業開発部門・管理部門増強を目的とした人員増加等による給料及び手当52,487千円(前年同期は23,874千円)の計上によるものであります。この結果、営業利益は、366,057千円(前年同期は353,772千円の営業損失)となりました。

 

(営業外収益、営業外費用及び経常利益)

 当事業年度において、営業外収益は66千円、営業外費用は21,939千円発生しました。

 営業外費用発生の主な要因は、公募増資等による株式発行に伴う株式交付費11,849千円、東京証券取引所グロース市場上場に伴う株式公開費用10,000千円が発生したことによるものです。

 この結果、経常利益は、344,184千円(前年同期は359,233千円の経常損失)となりました。

 

(特別損失、当期純利益)

 当事業年度において、減損損失による特別損失が43,107千円発生しました。また、法人税、住民税及び事業税を40,746千円計上した結果、当期純利益は260,330千円(前年同期は392,427千円の当期純損失)となりました。

 

 なお、財政状態の分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態の状況」に、キャッシュ・フローの状況については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 

③ 資本の財源及び資金の流動性についての分析

当社の資金需要の主なものは、研究開発費および事業運営費等であり、研究開発費には、継続的な候補物質の探索や候補物質の製品化に向けた開発費用、研究人員にかかる人件費、研究設備費用、共同研究費用並びに外部委託費用等が含まれます。

当社は、これらの資金需要を手元資金で賄う方針としておりますが、必要に応じて株式市場からの資金獲得や補助金の獲得等を行うことにより、安定的な財源の確保を図ってまいります。

また、手元資金に関しましては、流動性の高い現預金で保有することとし、流動性リスクを管理しております。

 

④ 経営成績に重要な影響を与える要因について

経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。