売上高

利益

資産

キャッシュフロー

セグメント別売上

セグメント別利益

配当

ROE 自己資本利益率

EPS BPS

バランスシート

損益計算書

労働生産性

ROA 総資産利益率

総資本回転率

棚卸資産回転率


最終更新:

E03753 Japan GAAP

売上高

1.28兆 円

前期

8,660.9億 円

前期比

147.5%

時価総額

1.91兆 円

株価

1,215.5 (07/26)

発行済株式数

1,569,378,772

EPS(実績)

77.46 円

PER(実績)

15.69 倍

平均給与

1,299.8万 円

前期

1,223.1万 円

前期比

106.3%

平均年齢(勤続年数)

40.8歳(14.3年)

従業員数

588人(連結:14,600人)

株価

by 株価チャート「ストチャ」

3【事業の内容】

 当社及び当社の関係会社(連結子会社144社、持分法適用会社24社)の主たる事業は有価証券関連業を中核とする投資・金融サービス業であり、具体的な事業として有価証券及びデリバティブ商品の売買等及び売買等の委託の媒介、有価証券の引受け及び売出し、有価証券の募集及び売出しの取扱い、有価証券の私募の取扱いその他有価証券関連業並びに銀行業その他の金融業等を営んでおります。当社及び当社の関係会社は、日本をはじめ、欧州、アジア、米州の主要な金融市場に営業拠点を設置し、グローバルに展開するネットワークにより世界中のお客様の資金調達と運用の双方のニーズに対応した幅広いサービスを提供しております。

 なお、当社は特定上場会社等であります。特定上場会社等に該当することにより、インサイダー取引規制の重要事実の軽微基準については連結ベースの数値に基づいて判断することとなります。

※画像省略しています。

(注) ホールセール部門=グローバル・マーケッツ+グローバル・インベストメント・バンキング

24/06/24

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 本項における将来に関する事項は、別段の記載がない限り、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められた企業会計の基準に基づき作成されております。また、当社は、連結財務諸表を作成するにあたり、会計方針に基づいていくつかの重要な見積りを行っており、これらの見積りは一定の条件や仮定を前提としております。そのため、条件や仮定が変化した場合には、実際の結果が見積りと異なることがあり、結果として連結財務諸表に重要な影響を与える場合があります。重要な会計方針のうち、特に重要と考える項目は、次の4項目です。

 

① トレーディング商品の評価

当社グループでは、トレーディング商品に属する有価証券及びデリバティブ取引は、時価をもって連結貸借対照表価額とし、評価損益はトレーディング損益として連結損益計算書に計上しております。また、「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号 2019年7月4日)等を適用しており、トレーディング商品の時価は、時価の算定に用いたインプットの観察可能性及び重要性に応じて、3つのレベルに分類しております。これらの時価は「第5 経理の状況 (金融商品関係) 2. 金融商品の時価等及び時価のレベルごとの内訳等に関する事項」に記載しております。

 

 時価測定に用いた評価技法及びインプットの詳細は以下のとおりであります。これらは、市場参加者が商品を評価するときに考慮するであろう当社グループによる仮定及び見積りを含んでおります。

(ⅰ)商品有価証券等

 主に同一又は類似の商品に関する市場価格を用いております。また、特定の負債性金融商品及び資産担保証券については、デリバティブ取引に準じた評価技法もしくは、ディスカウント・キャッシュ・フロー・モデルにより時価を測定しております。

 

(ⅱ)デリバティブ

 上場デリバティブについては原則として市場価格を、店頭デリバティブについては、評価技法により理論価格を算定しております。

 デリバティブ取引の理論価格には、信用リスク及び流動性リスクを考慮した調整が含まれており、時価測定においては、市場で一般に用いられるリスク中立測度の仮定のもとでの期待キャッシュ・フローの現在価値を、主に数値積分法、有限差分法及びモンテカルロ法による価格算定モデルにより算定しております。

 価格算定モデルには、金利、為替レート、株価、ボラティリティ、相関係数などの様々なインプットがあります。また、市場で観察可能でないインプットとしては、相関係数、長期のボラティリティ、長期のクレジット・スプレッドなどがあります。

 価格算定モデルの選択及びその価格算定モデルに投入するインプットの決定、信用リスク及び流動性リスクにかかる評価調整には見積り及び前提を含んでおり、特に、市場で観察可能でないインプットを使用する場合には、その見積り及び前提は、トレーディング商品の評価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 算定に用いたインプットを含め、価格算定モデルは社内における指針に基づいて承認され、価格算定モデルの開発部署から独立した部署が、モデル内の仮定及び技法、算定に用いたインプットについて検証を行っております。また、価格算定モデルを観察可能な市場情報や代替可能なモデルとの比較分析等により、市場動向に合わせて調整する体制を構築しております。

 

 経営者は、時価測定に用いられた前提は合理的であると考えております。しかしながら、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来キャッシュ・フローや時価の下落を引き起こすような見積りの変化が、評価金額に不利に影響し、結果として、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。

 

② 有価証券の評価

 当社グループでは、投資有価証券、営業投資有価証券等のトレーディング商品に属さない有価証券を保有しております。

(ⅰ)投資有価証券

 市場価格のあるものについては、市場価格が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。具体的には、当連結会計年度末における市場価格の下落率が取得原価の50%以上の場合は、著しい下落かつ回復する見込みがないものと判断して、減損処理を行っております。市場価格の下落率が取得原価の30%以上50%未満の場合は、市場価格の推移及び発行会社の財政状態等を総合的に勘案して回復する見込みを検討し、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。市場価格のないものについては、実質価額が著しく低下し、かつ、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。

 

(ⅱ)営業投資有価証券

 営業投資有価証券は、投資部門(2024年度以降はアセットマネジメント部門)における非上場株式、国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等により構成されております。

 営業投資有価証券の評価については、その評価額に基づき実質価額を見積り、その実質価額が帳簿価額を下回り、損失発生の可能性が高い場合には投資損失引当金を計上しております。さらに、実質価額が帳簿価額に比して50%以上下落し、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。実質価額の算定の前提となる当社の財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。

 

1) 非上場株式

 株式の評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、類似取引事例との比較などにより算定しております。

 

2) 国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等

 評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、財政状態などにより算定しております。

 

 これらの評価額の測定には経営者が妥当と判断する見積り及び仮定を使用しており、これらの見積り及び仮定は、減損損失又は投資損失引当金の計上の要否の判断及び認識される損失金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 経営者は、実質価額の見積りに用いられた仮定は合理的であると判断しております。ただし、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来の予測不能な前提条件の変化などにより、これらの評価に関する見積りが変化した場合には、結果として将来において当社及び連結子会社が減損処理又は投資損失引当金の計上を行う可能性があります。

 

③ 固定資産の減損

 当社グループでは、各資産グループにおいて、収益性が著しく低下した資産については、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。なお、資産のグルーピングは、事業用資産のうち、証券店舗等の個別性の強い資産については個別物件単位で行い、その他の事業用資産については管理会計上の区分に従って行っております。

 

④ 繰延税金資産の状況

(ⅰ)繰延税金資産の算入根拠

 当社グループでは、会計基準に従い、税務上の繰越欠損金や企業会計上の資産・負債と税務上の資産・負債との差額である一時差異について税効果会計を適用し、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しております。繰延税金資産の回収可能性については、将来の合理的な見積可能期間における課税所得の見積額を限度として、当該期間における一時差異等のスケジューリングの結果に基づき判断しております。

 

(ⅱ)過去5年間の課税所得(繰越欠損金使用前の各年度の実績値)

 

 

 

(単位:百万円)

回次

第82期

第83期

第84期

第85期

第86期

決算年月

2019年3月

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

通算グループの課税所得

74,613

60,907

92,842

106,263

51,393

(注) 提出会社を通算親法人とする通算グループの所得を記載しております。また、記載した課税所得は法人税確定申告書上の繰越欠損金控除前の数値であり、その後の変動は反映されておりません。

 

 なお、当連結会計年度末に係る連結貸借対照表上の繰延税金資産68億円のうち、提出会社を通算親法人とする通算グループの計上額合計は30億円であります。

 

(ⅲ)見積りの前提とした税引前当期純利益の見込額

 提出会社を通算親法人とする通算グループの課税所得見積期間を3年とし、同期間の税引前当期純利益を3,262億円と見積もっております。

 

(ⅳ)繰延税金資産・負債の主な発生原因

 「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 税効果会計関係 1」に記載のとおりであります。

 

 なお、ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢に起因した資源価格の高騰、米国長期金利の上昇に伴う経済情勢や相場環境の悪化は、現時点においてはこれらの見積りに重大な影響を及ぼしておりませんが、今後、入手可能となる情報等によりこれらの市場、経済または地政学リスクが顕在化した場合には、会計上の見積りに用いられた前提条件に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループにおきましては、投資事業における保有資産の評価に関する見積りの変化による減損又は評価損の計上、不動産アセットマネジメント事業における資産の稼働率低下による財務内容悪化懸念などの可能性があります。

 

(2)当連結会計年度の財政状態の分析

<資産の部>

 当連結会計年度末の総資産は前年度末比5兆6,140億円(21.3%)増加の32兆272億円となりました。内訳は流動資産が同5兆5,664億円(22.4%)増加の30兆4,393億円であり、このうち現金・預金が同5,317億円(13.8%)増加の4兆3,986億円、トレーディング商品が同907億円(1.2%)減少の7兆5,349億円、営業貸付金が同7,072億円(35.1%)増加の2兆7,223億円、有価証券担保貸付金が同4兆269億円(48.3%)増加の12兆3,684億円となっております。固定資産は同475億円(3.1%)増加の1兆5,879億円となっております。

 

<負債の部・純資産の部>

 負債合計は前年度末比5兆5,008億円(22.2%)増加の30兆2,386億円となりました。内訳は流動負債が同5兆2,162億円(24.2%)増加の26兆7,975億円であり、このうちトレーディング商品が同4,212億円(7.7%)増加の5兆8,638億円、有価証券担保借入金が同3兆7,693億円(47.5%)増加の11兆6,989億円、銀行業における預金が同5,788億円(14.7%)増加の4兆5,116億円となっております。固定負債は同2,832億円(9.0%)増加の3兆4,354億円であり、このうち社債が同282億円(2.2%)減少の1兆2,763億円、長期借入金が同3,138億円(18.4%)増加の2兆208億円となっております。

 

 純資産合計は同1,131億円(6.8%)増加の1兆7,886億円となりました。資本金及び資本剰余金の合計は4,798億円となりました。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益を1,215億円計上したほか、配当金447億円の支払いを行ったこと等により、同752億円(8.5%)増加の9,614億円となっております。自己株式の控除額は同516億円(72.2%)増加の1,231億円、その他有価証券評価差額金は同282億円(114.2%)増加の529億円、為替換算調整勘定は同593億円(79.4%)増加の1,341億円、非支配株主持分は同6億円(0.3%)増加の2,595億円となっております。

 

(3)当連結会計年度の経営成績の分析

① 事業全体の状況

 当連結会計年度の営業収益は前年度比47.5%増の1兆2,774億円、純営業収益は同27.3%増の5,909億円となりました。

 受入手数料は3,585億円と、同28.1%の増収となりました。委託手数料は、株式取引が増加したことにより、同45.4%増の934億円となりました。引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料は、エクイティの引受案件等が増加し、同36.7%増の384億円となりました。

 トレーディング損益は、エクイティ収益が増加したこと等により、同39.7%増の981億円となりました。

 金融収支は、受取利息や有価証券貸借取引収益が増加したことにより、同27.6%増の817億円となりました。

 販売費・一般管理費は同9.9%増の4,372億円となりました。取引関係費は、取引量増加に伴う支払手数料や販売促進に係る広告宣伝費が増加したことにより同12.7%増の806億円、人件費は、主に業績拡大による賞与の増加により同11.4%増の2,225億円となっております。

 以上より、経常利益は同100.8%増の1,745億円となりました。

 また、固定資産売却益等により特別利益が184億円(前年度181億円)、減損損失や事業再編等関連費用等により特別損失が130億円(前年度83億円)となり、法人税等及び非支配株主に帰属する当期純利益を差し引いた結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度比90.3%増の1,215億円となりました。

② セグメント情報に記載された区分ごとの状況

 純営業収益及び経常利益をセグメント別に分析した状況は次のとおりであります。

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

 

純営業収益

経常利益又は経常損失(△)

 

 

2023年

3月期

2024年

3月期

対前年同期

増減率

構成比率

2023年

3月期

2024年

3月期

対前年同期

増減率

構成比率

リテール部門

164,336

208,380

26.8%

35.3%

25,886

58,924

127.6%

33.8%

ホールセール部門

160,891

220,479

37.0%

37.3%

2,822

44,037

 15.6倍

25.2%

 

グローバル・マーケッツ

102,850

149,394

45.3%

25.3%

△3,130

37,648

21.6%

グローバル・インベストメント・バンキング

58,041

71,084

22.5%

12.0%

4,738

4,510

△4.8%

2.6%

アセット・マネジメント部門

70,394

73,182

4.0%

12.4%

44,526

45,940

3.2%

26.3%

 

証券アセット・マネジメント

42,882

47,179

10.0%

8.0%

18,076

20,959

15.9%

12.0%

 

不動産アセット・マネジメント

27,512

26,003

△5.5%

4.4%

26,450

24,981

△5.6%

14.3%

投資部門

16,446

22,910

39.3%

3.9%

13,068

19,669

50.5%

11.3%

その他・調整等

52,157

65,956

11.1%

626

6,015

3.4%

連結 計

464,226

590,910

27.3%

100.0%

86,930

174,587

100.8%

100.0%

(注)経常利益又は経常損失(△)の構成比率は、当連結会計年度において経常利益であったセグメントの経常利益合計に占める、各セグメントの経常利益の割合としております。

 

[リテール部門]

 リテール部門の主な収益源は、国内の個人投資家及び未上場会社のお客様の資産管理・運用に関する商品・サービスの手数料であり、経営成績に重要な影響を与える要因には、お客様動向を左右する国内外の金融市場及び経済環境の状況に加え、お客様のニーズに合った商品の開発状況や引受け状況及び販売戦略が挙げられます。

 当連結会計年度においては、以下の事業計画に沿って活動を行いました。

1.資産管理型ビジネスモデルの確立

2.多様なお客様ニーズに応える商品・サービスの提供、総資産アプローチによるソリューションビジネスの拡大

3.外部チャネルとの業務提携を活用したニュービジネス展開と収益化

4.マスマーケティング及びお客様対応のデジタルシフト、サステナビリティへの取り組み

 各項目の実績は以下のとおりです。

1.お客様への資産状況やニーズなどのヒアリングを踏まえ、最適なポートフォリオの提案に注力しました。その結果、ラップ口座サービスの契約数が増加し、契約残高は過去最高になるなど、マーケット環境に左右されにくい収益基盤の構築に寄与しました。

2.多様なお客様のニーズに応える商品・サービスの提供をするため、「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」や「ブラックストーン・プライベート・エクイティ・ストラテジーズ投信」の販売を開始し、幅広いお客様に対するオルタナティブ資産への投資機会の拡充に取り組みました。お客様の声を起点とする商品・サービスの向上を目的とする「お客様満足度協議会」での検討を踏まえ、各種事務手続きの簡素化や保有商品に関するアフターケアを目的としたウェビナー開催などを行いました。それらの取組みに注力した結果、外部機関によるNPS調査(注)において、対面証券部門で第1位を獲得しました。

3.国内に強固なお客様基盤を有する株式会社ゆうちょ銀行において「ゆうちょファンドラップ」を提供しており、当社グループのお客様基盤の拡大や資産形成分野におけるサービス拡充に努めました。上記に加え、株式会社四国銀行との包括的業務提携に基づき、当社グループの幅広い商品・サービスラインナップと、総合的なコンサルティングを提供するため、2023年4月より提携業務を開始しました。

4.お客様の利便性の向上を目的として、オンライントレードにおいて米国株の取扱いを開始しました。また、お客様の多様なニーズに合わせて、WEB面談を始めとした人とデジタルを組み合わせたサービス提供に取り組みました。

 当連結会計年度においては、昨年度に引き続き資産管理型ビジネスモデルへの移行に取り組みました。好調な市場環境に加え、1月から始まった新しいNISAの影響もあり、エクイティ収益・投信募集手数料が増加しました。また、ラップ口座サービスの契約額は過去最高を更新、純増額は9年ぶりの高水準となり、契約資産残高は過去最高の4兆1,429億円となりました。その結果、ラップ関連収益である投資顧問・取引等管理料も増加し、残高ベース収益は過去最高額となりました。

 当連結会計年度のリテール部門における純営業収益は前年度比26.8%増の2,083億円、経常利益は同127.6%増の589億円となりました。

(注) NPS調査:NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が2023年11月に実施した業界別のNPS(ネットプロモータースコア:お客様のロイヤリティを数値化する指標)ベンチマーク調査。

 

[ホールセール部門]

ホールセール部門は、機関投資家等を対象に有価証券のセールス及びトレーディングを行うグローバル・マーケッツと、事業法人、金融法人等が発行する有価証券の引受けやM&Aのアドバイザリー業務を行うグローバル・インベストメント・バンキングによって構成されます。グローバル・マーケッツの主な収益源は、機関投資家に対する有価証券の売買に伴って得る顧客フロー収益及びトレーディング収益です。グローバル・インベストメント・バンキングの主な収益源は、引受業務やM&Aアドバイザリー業務によって得る引受け・売出し手数料とM&A手数料です。グローバル・マーケッツにおいては、地政学リスクや国際的な経済状況等で変化する市場の動向や、それに伴う顧客フローの変化が、経営成績に重要な影響を与える要因となります。グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、顧客企業の資金調達手段の決定やM&Aの需要を左右する国内外の経済環境等に加え、当社が企業の需要を捉え、案件を獲得できるかどうかが経営成績に重要な影響を与える要因となります。

ホールセール部門として以下の事業計画を実行しました。

1.お客様ニーズを捉えた多様なプロダクト・高度なソリューションの提供

2.リテール部門との更なる連携強化によるビジネス基盤の拡大

3.収支構造の改善に向けたグローバルビジネスの再構築

4.サステナブルファイナンスの促進による企業支援

5.デジタル人材拡充とデータ駆動型ビジネスの推進

各項目の実績は、以下のとおりです。

1.M&Aビジネスへの取組みとして、業界再編やグループ内再編などの案件獲得に努め、グローバルネットワークの拡大・強化に取り組みました。IPOビジネスへの取組みとしては、オリジネーションとシンジケーションの機能を強化することで案件の発掘や執行能力を強化し、スタートアップ企業の成長支援を推進しました。その他、大型ファイナンス案件獲得に取り組みました。

2.2023年4月にグローバル・マーケッツ戦略企画部を新設し、リテール部門との連携を通じたお客様本位のマーケティング強化に取り組みました。

3.海外ブッキング拠点の見直し等を含むコスト構造の見直しにより、効率的な業務運営体制の再構築に取り組みました。

4.市場拡大するサステナブルファイナンスの促進に関する取組みの強化に努めました。

5.デジタルIT活用力育成プログラムを通じたデジタル人材の育成とともに、データ分析の高度化に取り組みました。

グローバル・マーケッツのエクイティ収益は、活況な株式市場を背景に顧客フローが増加し、増収となりました。フィクスト・インカム収益は、国内金利の上昇を受け、主に国内においてクレジットを中心とした顧客フローが増加したことから、増収となりました。その結果、当連結会計年度の純営業収益は前年度比45.3%増の1,493億円、経常利益は376億円(前年度は31億円の経常損失)となりました。

グローバル・インベストメント・バンキングでは、楽天グループ株式会社の公募増資及び株式会社トライアルホールディングスの新規上場において、グローバル・コーディネーター(注)1を務めたほか、日本国によるGX経済移行債(注)2の発行においてアドバイザーを務め、国内の様々なSDGs債の発行において事務主幹事及びStructuring Agent(注)3を務めました。当連結会計年度の引受け・売出し手数料は、前年度比36.7%増の384億円となりました。M&Aアドバイザリー業務では、大正製薬ホールディングス株式会社の非上場化や北欧最大のプライベート・エクイティファンドであるEQTをスポンサーとした株式会社ベネッセホールディングスの非上場化、ニデック株式会社による株式会社TAKISAWAへの公開買付けなどの国内案件に加えて、様々な国・地域で多様な業種の案件に関与しました。これらの結果、グローバル・インベストメント・バンキングの当連結会計年度の純営業収益は前年度比22.5%増の710億円、経常利益は同4.8%減の45億円となりました。

 当連結会計年度のホールセール部門における純営業収益は前年度比37.0%増の2,204億円、経常利益は同15.6倍の440億円となりました。

 

(注)1 グローバル・コーディネーター:株式の公募・売出しを国内外に対して実施するときに、全体の業務を統括する主幹事証券会社。

(注)2 GX経済移行債:脱炭素成長型経済構造移行債。2050年の温暖化ガスの排出実質ゼロを実現するために発行する国債。

(注)3 Structuring Agent:SDGs債などの発行にあたって、フレームワークの策定やセカンドオピニオン取得に関する助言などを通じて、SDGs債などの発行支援を行う者。

[アセット・マネジメント部門]

 アセット・マネジメント部門の収益は、主に当社連結子会社の大和アセットマネジメントにおける投資信託の組成と運用に関する報酬と、連結子会社の大和リアル・エステート・アセット・マネジメント、大和証券オフィス投資法人及びサムティ・レジデンシャル投資法人の不動産運用収益によって構成されます。また、当社持分法適用関連会社である三井住友DSアセットマネジメントの投資信託の組成と運用及び投資顧問業務に関する報酬からの利益、並びに同じく持分法適用関連会社であるサムティ株式会社及び大和証券リビング投資法人の不動産運用収益からの利益は、それぞれ当社の持分割合に従って経常利益に計上されます(注)。経営成績に重要な影響を与える要因としては、マーケット環境によって変動するお客様の投資信託及び投資顧問サービスへの需要と、マーケット環境に対するファンドの運用パフォーマンスや、お客様の関心を捉えたテーマ性のある商品開発等による商品自体の訴求性が挙げられます。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント、大和証券オフィス投資法人、サムティ・レジデンシャル投資法人、サムティ株式会社及び大和証券リビング投資法人の経営成績は、国内の不動産市場・オフィス需要の動向の影響を受けます。

 当連結会計年度において、アセット・マネジメント部門は以下の事業計画を実行しました。

1.運用力・発掘力・商品アレンジ力強化による既存事業の拡大

2.オルタナティブ資産を投資対象とした商品の開発等、新ビジネスの研究開発・事業化

3.不動産アセット・マネジメント事業における資産運用力強化及び事業基盤の確立

4.グループ内連携による、不動産等オルタナティブ関連ビジネスの推進

 各項目の実績は以下のとおりです。

1.大和アセットマネジメントでは好調なマーケットの追い風を受けた時価要因に加え、オルタナティブなど特色ある商品ラインナップ提供と、徹底した販売会社サポートなどを進めた結果、運用資産残高は過去最高水準となりました。

2.リテール部門のお客様に向け、2023年5月には「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」を新たに設定し、良質なオルタナティブ商品のラインナップ拡充に取り組みました。

3.大和リアル・エステート・アセット・マネジメントでは大和証券オフィス投資法人、大和証券リビング投資法人、大和証券レジデンシャル・プライベート投資法人及び大和証券ロジスティクス・プライベート投資法人の運用残高拡大によって運用資産残高が増加しました。

4.大和証券リアルティでは、信託受益権スキームを活用した不動産小口化商品を組成し、リテール部門のお客様への提供を行いました。

 大和アセットマネジメントにおける公募株式投信及び公募公社債投信の運用資産残高は、資金純増と時価の上昇により、前年度末比7.4兆円増の29.0兆円となりました。大和アセットマネジメントの営業収益は前年度比9.3%増の769億円、経常利益は同12.1%増の175億円となりました。

 不動産アセット・マネジメントでは、大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及びサムティ・レジデンシャル投資法人の2社を合わせた運用資産残高が前年度末比898億円増の1兆4,590億円となりましたが、賃貸原価の上昇などにより、減収減益となりました。

 その結果、当連結会計年度のアセット・マネジメント部門の純営業収益は前年度比4.0%増の731億円、経常利益は同3.2%増の459億円となりました。

 

(注) サムティ株式会社は、2024年6月3日付で、単独株式移転の方式により設立されたサムティホールディングス株式会社を完全親会社とする持株会社体制に移行しております。かかる持株会社体制への移行後は、当社はサムティホールディングス株式会社を持分法適用関連会社としており、サムティホールディングス株式会社の各子会社の不動産運用収益等からの利益が、当社の持分割合に従って経常利益に計上されます。

 

[投資部門]

 投資部門は主に、連結子会社である大和企業投資、大和PIパートナーズ及び大和エナジー・インフラで構成されます。投資部門の主な収益源は、投資先の新規上場(IPO)・M&A等による売却益や、投資事業組合への出資を通じたキャピタルゲインのほか、契約に基づきファンドから受領する、管理運営に対する管理報酬や投資成果に応じた成功報酬、投資した株式からの配当、売電収入などのインカムゲインです。

 投資部門では以下の事業計画を実行しました。

1.優良な投資機会の発掘、投資先のバリューアップ及びモニタリング体制の強化

2.再生可能エネルギー分野でのキャピタル・リサイクリングモデルの推進

3.継続的なVCファンド運用ビジネスの確立

4.サステナビリティを意識した社会的意義のある投資対象の開拓

 

 各項目の実績は以下のとおりです。

1.大和PIパートナーズでは、金銭債権投資の営業体制の強化により、積極的な投資を実行しました。

2.大和エナジー・インフラでは、国内の太陽光発電投資案件、欧州のインフラストラクチャー投資案件の売却等を通じて、キャピタル・リサイクリングを推進しました。

3.大和企業投資では、国内外の成長企業へ着実に投資を実行したほか、投資先の上場などを通じた既存投資案件の回収を進めました。

4.大和エナジー・インフラでは、米国・豪州の太陽光発電事業、欧州の太陽光発電・風力発電・蓄電池事業等への投資を実行しました。

 大和PIパートナーズでは、国内外で金銭債権投資、不動産ローン、企業向け投融資を実行するとともに、既存案件の回収を進めました。大和エナジー・インフラでは、太陽光発電所の取得など、持続可能な開発目標(SDGs)に資するエネルギー・インフラ関連投資を拡大しながら、インカムゲイン及びキャピタルゲインを計上しました。当連結会計年度における投資部門の純営業収益は前年度比39.3%増の229億円、経常利益は同50.5%増の196億円となりました。

 

[その他]

 その他の事業には、主に大和総研によるリサーチ・コンサルティング業務及びシステム業務のほか、大和ネクスト銀行による銀行業務などが含まれます。

 当連結会計年度において大和総研グループは以下の事業計画を実行しました。

1.情報発信と情報収集・意見交換との好循環によるリサーチクオリティの向上

2.ITサービスのプラットフォーム化やAI・データサイエンスによる新たな価値の創出

3.高品質で安定的なサービスの低コストでの提供による、大和証券グループのコストダウンへ貢献

4.お客様の企業特性に応じた営業体制の更なる強化、お客様のニーズに沿ったコンサルティングからシステムまでを含むトータルソリューションの提供、データサイエンスやサイバーセキュリティなどの高度な知見を要するソリューションによるビジネス基盤の拡大

 

 各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。

1.シンクタンクとして、金融財政や少子化対策に関する政策提言活動を実施するとともに、経済・社会の時流を踏まえたテーマに関するタイムリーな情報発信を行いプレゼンス向上に寄与しました。

2.当社グループを含む金融機関を始めとするお客様に対して新NISA制度への対応やAI・データサイエンスを活用した各種サービスの提供を着実に実行しました。また、複数のクラウドサービスの特徴を活かしたマルチクラウドによるソリューション提供を開始しました。

3.設計開発部門における開発単価・開発工数の低減や、運用保守部門における当社グループ内外の業務統合等により当社グループのITコスト低減及び生産性向上に貢献しました。

4.他社サービスとの連携・活用を戦略的に推進し、お客様ニーズを的確に捉えたより付加価値の高い提案を通じた関係性の深化による顧客の獲得や取引の大口化により顧客基盤を拡大しました。また、ヘルステック推進室の新設や株式会社バリューHRとの資本業務提携などを通じてヘルステック事業の拡大に取り組みました。

 

 

当連結会計年度において大和ネクスト銀行は以下の事業計画を実行しました。

1.預金量の拡大と収益性の両立

2.グループ内連携の強化

3.国内外の金利環境に応じた運用残高の拡大や、運用対象の多様化

4.応援定期預金やESG投融資への継続的取り組み

 

 各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。

1.外貨預金について、業界トップ水準の金利を維持するとともに、外貨積立の導入やキャンペーンの実施により新規の預金を取り込みました。

2.大和証券との連携のもと、お客様ニーズを捉えたプロダクトの導入に向けた検討を行いました。

3.市況環境の変化に応じたポートフォリオの見直しと、投融資残高の拡大に向け取組みました。

4.サステナビリティKPIの一つである応援定期預金の残高拡大や、ESG投融資の残高維持に向けた取り組みを行いました。

 

 大和ネクスト銀行の当連結会計年度末の預金残高(譲渡性預金含む)は前年度末比14.9%増の4.5兆円、銀行口座数は前年度比7.5%増の178万口座となりました。当連結会計年度の業績は、運用収益が大幅な増収となった結果、増収増益となりました。

 その結果、その他・調整等に係る純営業収益は659億円(前年度521億円)、経常利益は60億円(前年度6億円)となりました。

 

③ 目標とする経営指標の達成状況等

 当社グループでは、2021年度から2023年度にかけての中期経営計画~“Passion for the Best”2023~を公表し、業績KPIとして自己資本利益率(ROE)及び経常利益、財務基盤KPIとして連結総自己資本規制比率を数値目標として掲げました。また、お客様本位のクオリティNo.1を追求する指標として、大和証券預り資産残高とともにリテール部門残高ベース収益比率(注)1、新規ビジネス領域への拡大を進めるハイブリッド戦略進捗の指標として、ハイブリッド関連経常利益・ハイブリッド関連経常利益比率(注)2をKPIとして設定しました。

 中期経営計画最終年となる当連結会計年度においては、業績KPIはROE10%以上目標に対し8.3%、連結経常利益2,000億円以上目標に対し1,745億円となりました。財務基盤KPIの連結総自己資本規制比率は21.57%(注)3と、目標の18%以上を上回って推移しています。クオリティNo.1のKPIである大和証券預り資産は、90兆円以上目標に対して91.0兆円、リテール部門残高ベース収益は50%以上目標に対して43.0%となりました。また、ハイブリッドKPIのハイブリッド関連経常利益は463億円、ハイブリッド経常利益率は26.6%となりました。

 2023年度は、株式市場では日経平均株価は史上最高値 38,915 円を 34 年ぶりに上回り、金融政策ではマイナス金利の解除と17年ぶりの利上げが実施され、日本経済が「失われた30年」と言われるデフレ・停滞期を脱する転換点を迎える年となりましたが、当社ではこうした経済環境を追い風に、中期経営計画の柱である資産管理型ビジネスモデルへの転換と、ハイブリッド戦略の拡大による付加価値の高い商品・サービスの創出や収益構造の多様化が着実に進捗した一年となりました。また、中長期的な経営指針となる「2030Vision」の根底に取り入れたサステナビリティへの取組み推進においても、サステナブルファイナンスへの社会的ニーズの一層の高まりを受けてSDGs債の引受け実績を積み上げ、着実な進捗があったと評価しています。

 

(注)1 残高ベース収益:投信代理事務手数料、投資顧問料・取引等管理料、銀行代理店報酬、投信フレックスプラン残高手数料など

(注)2 ハイブリッド関連経常利益:不動産アセットマネジメント、大和エナジー・インフラ、大和ネクスト銀行など、ハイブリッド事業から生じる利益

(注)3 連結総自己資本規制比率は有価証券報告書提出日における速報値を記載しており、確定値は算出完了次第、当社ホームページにて公表する予定です。

 

 

④ 経営成績の前提となる2023年度のマクロ経済環境

<海外の状況>

 世界経済は、2020年前半の新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みからの急回復が一服し、経済活動の正常化が進むにしたがってその改善ペースは鈍化しています。IMF(国際通貨基金)が2024年4月に公表した世界経済見通しによれば、2020年の大幅な落ち込みからの反動もあり、2021年の世界経済成長率は+6.5%と、IMFが成長率を公表する1980年以降で最も高い成長となりました。一方、2022年の世界経済成長率は+3.5%へと低下し、2023年には+3.2%へと一段と減速した模様です。歴史的に高いインフレ率や、それに対応するための当局による金融引き締めが、景気の拡大ペースを鈍化させたとみられます。また、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵攻や、中東情勢の緊迫化による地政学的緊張の高まりも世界経済におけるリスクとなっています。

 米国の2023年1-3月期の実質GDP成長率は、前期比年率+2.2%となり、2022年10-12月期以降減速基調にありました。記録的なペースでの物価上昇が続く中、2022年3月以降、FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを進めたことなどが背景にあります。こうした影響をとりわけ強く受ける住宅投資で減少が続きました。一方、高いインフレ率が引き続き家計の重荷になったものの、雇用者報酬が増加したことなどが個人消費を下支えしました。こうした状況の中、3月に銀行の連鎖破綻が発生し、米国経済の先行きの不透明感は強まりました。4-6月期の実質GDP成長率は、前期比年率+2.1%となり、1-3月期に続いて減速しました。内訳をみると、個人消費は、大幅な伸びとなった1-3月期からは減速したものの、増加を維持しています。加えて、設備投資が大幅に増加したことも米国経済をけん引しました。一方、金利上昇の影響を主因に住宅投資は減少が続きました。7-9月期の実質GDP成長率は、前期比年率+4.9%となり、4-6月期から加速しました。内訳をみると、個人消費の大幅な増加が米国経済をけん引しました。また、減少基調にあった住宅投資も増加に転じました。10-12月期の実質GDP成長率は、前期比年率+3.4%となり、前期からは減速したものの堅調さを維持しています。設備投資の伸び率が小幅に拡大したことに加え、個人消費が引き続き好調でした。2024年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.6%でした。輸入の急増を主因に外需がマイナスに寄与したものの、自律的な成長を反映する民間最終需要は前期比年率+3.1%と堅調なペースとなりました。

 金融面では、FRBは歴史的な高インフレの鎮静化に努めています。インフレ率がFRBの目標である2%を大幅に上回っていることを背景に、2022年3月のFOMC(連邦公開市場委員会)では政策金利が0.25%pt引き上げられ、2020年3月以降続いてきた実質的なゼロ金利政策が終了し、その後も、政策金利は段階的に引き上げられました。2023年3月に入ると金融システム不安が強まったことを受け、FRBはBank Term Funding Programと呼ばれる危機対応策を打ち出しましたが、インフレ抑制の姿勢を崩さず、3月と5月のFOMCではそれぞれ0.25%ptの利上げを決定しました。その後、6月のFOMCでは政策金利の誘導目標レンジが据え置かれ、7月のFOMCでは0.25%ptの利上げを決定しましたが、9月以降は5会合連続で誘導目標レンジが据え置かれました。

 欧州経済(ユーロ圏経済)は、2022年後半以降、一進一退の動きとなっています。ユーロ圏の実質GDP成長率は、2022年10-12月期にマイナス成長に転じました。その後、2023年1-3月期には小幅のプラス成長に復しました。4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.6%と、小幅ながらも2四半期連続のプラス成長となりました。しかし、7-9月期には前期比年率▲0.2%と再度マイナス成長に転じました。10-12月期には前期比年率▲0.2%と2四半期連続でマイナス成長を記録し、停滞感の強まりが見られました。2024年1-3月期には前期比年率+1.3%と3四半期ぶりのプラス成長に復しました。

 金融面では、ECB(欧州中央銀行)はインフレの抑制に努めています。2022年7月のECB理事会では、0.50%ptの利上げに踏み切り、2014年に導入された預金ファシリティ金利のマイナス状態が8年ぶりに解消されました。その後も段階的に利上げを実施し、2022年12月の理事会では、主要リファイナンス・オペ金利の誘導目標を2.50%に引き上げることを決定しました。2023年に入ると欧州の金融システムに対する不安が一時広まったものの、2月と3月の理事会においても、それぞれ0.50%ptの利上げを決定しました。その後、9月の理事会まで連続で利上げを決定したものの、2023年5月の理事会以降の引き上げ幅はいずれも0.25%ptとなっており、景気に停滞感がみられる中、利上げのペースは抑制されています。さらに、10月と12月の理事会では、政策金利の水準が据え置かれました。2024年に入っても1月と3月の理事会で政策金利の水準据え置きが決定されました。

 IMFによると、2022年の新興国の実質GDP成長率は、+4.1%の成長となりました。2023年にも+4.3%の成長率となった模様ですが、先進国において景気後退懸念が高まる中、新興国経済でも景気減速のリスクが高まりつつあります。

 新興国のうち、世界第2位の経済規模を持つ中国では、2023年1-3月期の実質GDP成長率は、前年同期比+4.5%となりました。4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.3%となり、1-3月期の伸び率を上回るペースでの成長となりました。ただし、2022年4-6月期には上海市でロックダウンが行われた影響で経済成長が停滞していたことを考慮すると、反動増は小幅にとどまったといえます。7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.9%となりました。10-12月期には前年同期比+5.2%となり、前期から成長率が高まりました。消費の持ち直しが景気の回復をけん引しているとみられます。2024年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%となりました。ただし、GDPデフレーターが前年同期比▲1.1%となったことがやや高めの実質成長率の主因です。

 中国以外の新興国は、経済活動の正常化が進展したことなどを背景に、2022年以降は総じてみれば持ち直しの動きが続きました。2022年には高インフレや米国での金利上昇に伴う資金流出抑制のため、多くの国が利上げを余儀なくされましたが、2023年以降は利上げを行う国は減少しています。

<日本の状況>

 日本経済は2023年後半以降停滞感が強まっています。2023年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.8%と2四半期連続のプラス成長となりました。経済活動の正常化が進む中、個人消費の増加が経済成長をけん引しています。4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.1%となり、高成長が続きました。物価高騰を主因に個人消費が減少しましたが、インバウンド消費の増加などが追い風となっています。さらに、半導体不足に起因する供給制約の緩和が進んだことも、経済を下支えしています。しかし、7-9月期は前期比年率▲3.6%のマイナス成長となりました。個人消費が引き続き減少したことに加え、輸入の増加が成長率を下押ししました。10-12月期には、輸出が大幅に増加したものの、個人消費の減少ペースが加速するなど内需の停滞が続いたことで、前期比年率+0.0%となりました。2024年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲2.0%となりました。依然として個人消費の減少が経済全体の重石となっています。

 需要項目ごとにみると、個人消費には停滞感がみられます。2023年1-3月期は耐久財やサービスの消費の回復が顕著でした。サービスに関しては、全国旅行支援が旅行需要を喚起しました。耐久財に関しては、自動車の供給制約の緩和により新車販売台数が増加しました。しかし、4-6月期に入ると供給制約の緩和が一段と進展し、新車販売台数は増加基調を維持した一方、家電やスマートフォンの販売が落ち込んだことで、個人消費は減少しました。7-9月期には、けん引役であった自動車販売が振るわなかったこともあり、個人消費は減少が続きました。10-12月期には非耐久財やサービス消費が減少しました。2024年1-3月期には自動車販売の落ち込みを主因に耐久財が大幅に減少しました。

 企業部門の需要である設備投資は減少が続いています。2023年1-3月期の設備投資は、供給制約の緩和により企業の自動車購入が増加したことなどもあり、前期から増加しましたが、4-6月期は減少に転じました。欧米での金融引き締めを背景とした海外経済の先行き不透明感の強まりが、輸出企業の設備投資の重しになったとみられます。7-9月期に入っても、設備投資は減少が続きました。外需の先行きに不透明感が漂う中、製造業を中心に投資意欲が減退しているとみられます。10-12月期には設備投資は増加したものの、2024年1-3月期には輸送機械への投資停滞を主因に、設備投資は再び減少しました。

 2023年1-3月期の輸出は減少したものの、4-6月期には持ち直しに向かい、7-9月期に入っても回復基調が続きました。自動車や同関連財の輸出が堅調であり、加えて、訪日外客数の増加によってインバウンド消費が急増していることがサービス輸出を押し上げています。10-12月期には、知的財産権等使用料の大幅増に加え、訪日外客数の増加が輸出全体をけん引しました。2024年1-3月期には、自動車の減産の影響もあり、輸出が減少しました。

 金融面では、2016年9月に導入されていた、短期金利に加えて長期金利(10年国債利回り)も操作対象とする日本銀行の金融緩和措置(イールドカーブ・コントロール)が撤廃されました。日本銀行による緩和的な金融政策が続くなか、米国での銀行の連鎖破綻を背景に2023年3月に入って米国長期金利が低下したことで、日本の長期金利でも低下圧力が強まりました。その後、金融不安が解消に向かったこともあり、米国の長期金利は緩やかな上昇に転じました。これにより日本の長期金利の低下圧力も緩和しましたが、2023年度に入ってからは、7月半ばまでの間、日本銀行による長期金利の誘導目標の範囲の上限であった0.50%を下回る水準で推移していました。しかし、7月の金融政策決定会合で、日本銀行はイールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化することを決定し、指値オペの買入利回りを従来の0.50%から1.00%に引き上げました。さらに、10月の金融政策決定会合で、日本銀行は長期金利の上限の目途を1.00%とし、指値オペの利回りは金利の実勢を踏まえて適宜決定する方針を示しました。そして、2024年3月の金融政策決定会合では、マイナス金利政策の解除とイールドカーブ・コントロールの撤廃を決定しました。2024年3月末時点では長期金利は0.750%となっています。

 為替市場をみると、2023年度以降、総じて円安傾向で推移しました。米国では高インフレを抑制するためにFRBが利上げを進めた結果、長期金利の上昇が続きました。一方、日本ではイールドカーブ・コントロールによって長期金利の上昇が抑制されたため、日米金利差が拡大し、対ドルレートは速いペースで円安方向に動きました。2023年初時点で130円台だった対ドルレートは、12月末には141円台を付けました。2024年に入っても円安の流れは止まらず、3月末時点では151円となっています。対ユーロでも2023年初時点の137円台から2024年3月末には162円台まで円安が進みました。

 株式市場では、2023年の株価は上昇傾向にありました。2023年1-3月期には、米国や欧州で金融システム不安が顕在化したものの、政策当局の迅速な対応によって市場が落ち着きを取り戻したことで株価は上昇しました。4-6月期に入ると、円安が進行したことや、外国人投資家による買い増しを主因に上昇テンポが加速しました。7-9月期には、6月までの急上昇の反動に加え、中国経済の先行きに不透明感が広がったことなどもあり、株価は軟調に推移しました。10-12月期に入ると、米国の長期金利が低下したことなどを背景に、株価は持ち直しました。2024年1-3月期には、デフレ脱却期待を背景に外国人投資家による買いが進んだことで、日経平均は一時4万円を超えました。

 2024年3月末の日経平均株価は40,369円44銭(2023年3月末比12,327円96銭高)、10年国債利回りは0.750%(同0.361%ptの上昇)、為替は1ドル151円34銭(同18円21銭の円安)となりました。

(4)当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析

① 営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物

 当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。

 

 

(単位:百万円)

 

2023年3月期

2024年3月期

営業活動によるキャッシュ・フロー

△183,745

705,124

投資活動によるキャッシュ・フロー

7,457

△223,986

財務活動によるキャッシュ・フロー

△565,878

△2,847

現金及び現金同等物に係る換算差額

23,349

38,101

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

△718,816

516,392

現金及び現金同等物の期首残高

4,554,375

3,835,559

現金及び現金同等物の期末残高

3,835,559

4,351,951

 

 当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローは、トレーディング商品の増減、営業貸付金の増減、有価証券担保貸付金及び有価証券担保借入金の増減、銀行業における預金の増減などにより、7,051億円(前年度は△1,837億円)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券の取得による支出などにより、△2,239億円(同74億円)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の純増減などにより、△28億円(同△5,658億円)となりました。これらに為替変動の影響等を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比5,163億円増加の4兆3,519億円となりました。

 

② 資本の財源及び流動性に係る情報

(ⅰ)流動性の管理

<財務の効率性と安定性の両立>

 当社グループは、多くの資産及び負債を用いる有価証券関連業務や、投融資業務を行っており、これらのビジネスを継続する上で十分な流動性を効率的かつ安定的に確保することを資金調達の基本方針としております。

 当社グループの資金調達手段には、社債、ミディアム・ターム・ノート、金融機関借入、コマーシャル・ペーパー、コールマネー、預金受入等の無担保調達、現先取引、レポ取引等の有担保調達があり、これらの多様な調達手段を適切に組み合わせることにより、効率的かつ安定的な資金調達の実現を図っております。

 財務の安定性という観点では、環境が大きく変動した場合においても、業務の継続に支障をきたすことのないよう、平時から安定的に資金を確保するよう努めると同時に、危機発生等により、新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、調達資金の償還期限及び調達先の分散を図っております。

 当社は、「金融商品取引法第五十七条の十七第一項の規定に基づき、最終指定親会社が当該最終指定親会社及びその子法人等の経営の健全性を判断するための基準として定める最終指定親会社及びその子法人等の経営の健全性のうち流動性に係る健全性の状況を表示する基準」(平成26年金融庁告示第61号)により連結流動性カバレッジ比率(以下、「LCR」という。)及び連結安定調達比率(以下、「NSFR」という。)を所定の比率(それぞれ100%)以上に維持することが求められており、当第4四半期日次平均のLCRは135.2%です。また、当第4四半期末のNSFRは有価証券報告書提出日における速報値で141.5%となっており、確定値は算出完了次第、当社ホームページにて公表する予定です。また、当社は、上記金融庁告示による規制上のLCR及びNSFRのほかに、独自の流動性管理指標を用いた流動性管理態勢を構築しております。即ち、一定期間内に期日が到来する無担保調達資金及び同期間にストレスが発生した場合の資金流出見込額に対し、様々なストレスシナリオを想定したうえで、それらをカバーする流動性ポートフォリオが保持されていることを日次で確認しており、1年間無担保資金調達が行えない場合でも業務の継続が可能となるように取り組んでおります。

 当第4四半期日次平均のLCRの状況は次のとおりです。

 

 

 

(単位:億円)

 

 

 

 日次平均

(自 2024年1月

  至 2024年3月)

適格流動資産

(A)

28,862

資金流出額

(B)

43,809

資金流入額

(C)

22,465

連結流動性カバレッジ比率(LCR)

 

 

 

算入可能適格流動資産の合計額

(D)

28,862

 

純資金流出額

(E)

21,344

 

連結流動性カバレッジ比率

(D)/(E)

135.2%

 

<グループ全体の資金管理>

 当社グループでは、グループ全体での適正な流動性確保という基本方針の下、当社が一元的に資金の流動性の管理・モニタリングを行っております。当社は、当社グループ固有のストレス又は市場全体のストレスの発生により新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、短期の無担保調達資金について、当社グループの流動性ポートフォリオが十分に確保されているかをモニタリングしております。また、当社は、必要に応じて当社からグループ各社に対し、機動的な資金の配分・供給を行うと共に、グループ内で資金融通を可能とする態勢を整えることで、効率性に基づく一体的な資金調達及び資金管理を行っております。

 

<コンティンジェンシー・ファンディング・プラン>

 当社グループは、流動性リスクへの対応の一環として、コンティンジェンシー・ファンディング・プランを策定しております。同プランは、信用力の低下等の内生的要因や金融市場の混乱等の外生的要因によるストレスの逼迫度に応じた報告体制や資金調達手段の確保などの方針を定めており、これにより当社グループは機動的な対応により流動性を確保する態勢を整備しております。

 当社グループのコンティンジェンシー・ファンディング・プランは、グループ全体のストレスを踏まえて策定しており、変動する金融環境に機動的に対応するため、定期的な見直しを行っております。

 また、金融市場の変動の影響が大きく、その流動性確保の重要性の高い大和証券株式会社、株式会社大和ネクスト銀行及び一部の海外証券子会社においては、更に個別のコンティンジェンシー・ファンディング・プランも策定し、同様に定期的な見直しを行っております。

 なお、当社は、子会社のコンティンジェンシー・ファンディング・プランの整備状況について定期的にモニタリングしており、必要に応じて想定すべき危機シナリオを考慮して子会社の資金調達プランやコンティンジェンシー・ファンディング・プランそのものの見直しを行い、更には流動性の積み増しを実行すると同時に資産圧縮を図るといった事前の対策を講じることとしております。

 

(ⅱ)株主資本

 当社グループが株式や債券、デリバティブ等のトレーディング取引、貸借取引、引受業務、ストラクチャード・ファイナンス、M&A、プリンシパル・インベストメント、証券担保ローン等の有価証券関連業を中心とした幅広い金融サービスを展開し、新たな価値の提供に資する投融資を行うためには、十分な資本を確保する必要があります。また、当社グループは、日本のみならず、海外においても有価証券関連業務を行っており、それぞれの地域において法規制上必要な資本を維持しなければなりません。

 当連結会計年度末の株主資本は、前連結会計年度末比259億円増加し、1兆3,182億円となりました。また、資本金及び資本剰余金の合計は4,798億円となっております。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益を1,215億円計上したほか、配当金447億円の支払いを行ったこと等により、同752億円増加し9,614億円となりました。自己株式の控除額は同516億円増加し、1,231億円となっております。

 

③ 財務戦略

 当社グループの財務戦略の基本は、成長投資、資本効率性、財務健全性及び株主還元の最適なバランスを図り、健全な利益の確保を通じた持続的成長を実現することです。

 持続的な成長の実現に際しては、規制並びに制度対応と適正な自己資本水準を維持することを重視しております。強固な財務基盤を堅持するため、財務基盤KPIとして連結総自己資本規制比率を採用しております。同比率については、今後のバーゼル規制の最終化による影響と過去の金融危機時のストレス・シナリオにも耐えうる資本のバッファーを加味し、18%を最低水準と設定しております。2019年度には規制上その他Tier1資本に係る基礎項目として取り扱われる、当社として初めての無担保永久社債(債務免除特約および劣後特約付)を2本立てで計1,500億円発行し、財務基盤の拡充を図りました。

 成長投資に関しましては、当連結会計年度も既存事業の競争力強化のための投資や事業ポートフォリオ多様化のための出資などを数多く実行いたしました。その結果、財務基盤KPIとして設定している連結総自己資本規制比率は速報ベースで18%を上回っており、今後も継続的な成長投資を行うための十分な資本余力を有しております。このため、証券ビジネスの顧客基盤拡大に向けた投資やコアビジネスと親和性のある周辺領域への投資は今後も常に検討してまいります。

 株主還元策については「第4提出会社の状況 3配当政策」に記載のとおりです。

 当社の資金調達の方法については、「② 資本の財源及び流動性に係る情報」に記載しております。