売上高

利益

資産

キャッシュフロー

配当(単独)

ROE

EPS BPS




E30865 Japan GAAP


2【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 文中の将来に関する事項は、当四半期会計期間の末日現在において判断したものであります。

 

(1)財政状態及び経営成績の状況

① 経営成績の状況

 当社は、抗体に継ぐ次世代新薬として期待されているアプタマー(核酸医薬の一種)に特化して医薬品の研究開発を行うバイオベンチャーです。当社はアプタマー創製に関する総合的な技術や知識、経験、ノウハウ等からなる創薬プラットフォームである当社独自の「RiboARTシステム」を活用して、革新的なアプタマー医薬の研究開発(「アプタマー創薬」)を行っております。

 当社の企業理念は、「Unmet Medical Needs(未だに満足すべき治療法のない疾患領域の医療ニーズ)に応えること」であり、その実現のための最重点経営目標を、「自社での臨床Proof of Concept※1の獲得に向けた開発」として、当第3四半期累計期間においても様々な取り組みを進めてまいりました。

 その具体的な進捗を以下に要約いたします。

 

※1:臨床Proof of Concept(臨床POC):新薬の開発段階で、投与薬剤がヒトでの臨床試験において意図した薬効を有することが示されること。

 

「umedaptanib pegol」の開発について

 

(イ) 「umedaptanib pegol」(抗FGF2アプタマー、RBM-007の国際一般名)による臨床開発の狙い

 当社では、自社で創製したumedaptanib pegol(FGF2に結合し、その作用を阻害するアプタマー)を、自社での臨床開発のテーマに選び、「滲出型加齢黄斑変性(Wet Age Related Macular Degeneration、wet AMD)」と「軟骨無形成症(Achondroplasia、ACH)」の治療薬としての開発を進めております。

 

(ロ) 開発状況、及び既存治療法との比較

a)滲出型加齢黄斑変性(wet AMD)

umedaptanib pegolの複数回投与による臨床POC確認を目的とした第2相臨床試験(試験略称名:TOFU試験)を米国で実施いたしました(被験者86名)。TOFU試験は、標準治療の抗VEGF治療歴のあるwet AMD患者を対象に、①umedaptanib pegol硝子体内注射の単剤投与群、②既存の抗VEGF薬であるaflibercept(商品名アイリーア)とumedaptanib pegolの硝子体内注射による併用投与群、及び③aflibercept硝子体内注射の単剤投与群の3群間で、umedaptanib pegolの有効性及び安全性をafliberceptと比較評価する、無作為化二重盲検試験でした。

また、TOFU試験の進捗に基づき、長期投与に伴う本薬剤の有効性と安全性、及び瘢痕形成を含む網膜の構造異常に対する効果を評価する目的で、umedaptanib pegolを単剤で投与するオープン試験としてのTOFU試験の延長試験(試験略称名:RAMEN試験)を行いました。RAMEN試験では、TOFU試験を完了した22名の被験者に対して、追加のumedaptanib pegolの硝子体内投与を1ヶ月間隔で計4回行いました。

さらに、治療歴のないwet AMD患者でのumedaptanib pegol単独治療の有効性及び安全性を評価することを目的に、米国で医師主導治験(試験略称名:TEMPURA試験)を実施いたしました(被験者5名)。

これらの結果は、英国王立眼科学会誌Eyeに2報の論文として掲載されました※2,3

その要約は以下のとおりです。

 

[論文要点]

・いずれの試験においても、umedaptanib pegolによる安全性に関する問題は発生しなかった。

・治療歴のないwet AMD患者においては、umedaptanib pegolの投与により、劇的な治癒例を含め、視力や網膜厚

 の改善が確認された(TEMPURA試験)。

・抗VEGF治療歴が長いwet AMD患者に対しては、umedaptanib pegol単剤投与、及びumedaptanib pegolと

 afliberceptの併用投与において、aflibercept単剤投与を上回る臨床有効性は観察されなかったものの、病気

 の進行抑制が確認された(TOFU試験)。

・抗VEGF治療歴が短いwet AMD患者に対しては、umedaptanib pegolの効果はafliberceptに対して非劣勢であっ

 た(TOFU試験)。

・抗VEGF薬による標準治療を受けた患者を作用機序の異なるumedaptanib pegol治療に切り替えると、若干の視

 力低下が確認された(RAMEN試験)。

・すべての試験をつうじ、umedaptanib pegolはすでに形成された瘢痕(線維化)を除去する作用はなかったも

 のの、瘢痕形成を抑制する効果が確認された。

 

[今後の開発方針]

今般、umedaptanib pegolの臨床POCが確立したと同時に、umedaptanib pegolは抗VEGF薬に先立つ処方が推奨される”first-line”治療薬となる可能性が示唆されました。これらは現在標準治療となっている抗VEGF薬との差別化ポイントとして重要であるため、umedaptanib pegolを用いた未治療のwet AMD患者に対する臨床試験においては、より効果的な治療プロトコルを検証する必要があります。今後、抗VEGF薬にはない瘢痕化抑制作用の検証も含めた未治療のwet AMD患者に対する臨床試験の実施を他企業との提携等を含めて検討してまいります。

 

※2:Pereira, D.S., Akita, K., Bhisitkul, R.B., Nishihata, T., Ali, Y., Nakamura, E., Nakamura, Y.: Safety and tolerability of intravitreal umedaptanib pegol (anti-FGF2) for neovascular age-related macular degeneration (nAMD): a phase 1, open label study. Eye,published online: 01 December 2023.

    URL: https://www.nature.com/articles/s41433-023-02849-6.pdf

 

※3:Pereira, D.S., Maturi, R.K., Akita, K., Bhisitkul, R.B., Nishihata, T., Sakota, E., Ali, Y., Nakamura, E., Bezwada, P., Nakamura, Y.: Clinical proof of concept for anti-FGF2 therapy in exudative age-related macular degeneration (nAMD): phase 2 trials in treatment-naïve and anti-VEGF pretreated patients. Eye,published online: 30 November 2023.

  URL: https//www.nature.com/articles/g41433-023-02848-7.pdf

 

b)軟骨無形成症(ACH)

・臨床試験

 ACHに関するプロジェクトは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成(2015年度から合計6年間)を受け、2020年7月~2021年5月にかけて、国内の1治験施設において第1相臨床試験を実施いたしました。この結果を受け、2021年度から3年間は、AMEDの希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業として、ACHの小児患者における、身長の伸びを含む臨床的基礎データの取得と前期第2相臨床試験の被験者選定を目的とした前期第2相観察試験、及びACHの小児患者でのumedaptanib pegolの有効性と安全性を調べる前期第2相臨床試験と、これに引き続き実施する前期第2相長期投与試験の3つの治験計画を進めております。現在、東京岡山及び関西地区の8施設において前期第2相観察試験が開始され、さらにそれに続く前期第2相臨床試験も始まっております。

 また、2023年12月に8カ月間の前期第2相臨床試験を完了した第一例目の症例が、前期第2相長期投与試験に移行しております。

 

・ACHの既存治療法と課題

 ACHは四肢短縮による低身長を主な症状とする希少疾患で、厚生労働省から難病指定を受けております。umedaptanib pegolは疾患モデルマウスを利用した実験で、体長の短縮を約50%回復する効果を示しました。さらに、軟骨細胞への分化誘導が欠損していることが知られているACH患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)について、umedaptanib pegol存在下で、その分化誘導が回復することも確認しました(非臨床POC獲得)。本邦ではこれまで治療薬として成長ホルモンが使用されてきましたが、その効果は十分とは言えず、骨延長術(足の骨を切断して引き離した状態で固定し、骨の形成を促す)といった非常に厳しい治療が幼い子供に施されることもあり、効果の高い新薬が待ち望まれていました。また、2022年6月に本邦でもACH治療薬としてBIOMARIN社のボックスゾゴ製造販売が承認されましたが、ボックスゾゴは毎日の投与が必要となっております。そのため、患者への投与間隔を1,2週間と長くとれる、当社のumedaptanib pegolへの期待は引き続き高いものと考えております。

 なお、umedaptanib pegolを用いた上記モデル動物実験や、iPS細胞を用いた試験の結果については、2021年5月に、米国科学誌Science Translational Medicineに論文として掲載されました※4

 

※4:Kimura T, Bosakova M, Nonaka Y, Hruba E, Yasuda K, Futakawa S, Kubota T, Fafilek B, Gregor T, Abraham SP, Gomoklova R, Belaskova S, Pesl M, Csukasi F, Duran I, Fujiwara M, Kavkova M, Zikmund T, Kaiser J, Buchtova M, Krakow D, Nakamura Y, Ozono K, Krejci P. RNA aptamer restores defective bone growth in FGFR3-related skeletal dysplasia. Sci. Transl. Med., 13, eaba4226 (2021)

 

 自社での前期第2相臨床試験の実施により臨床POCが獲得されれば、ACHに対する新規治療剤の提供に至る第一歩になるとともに、新薬候補品としてのumedaptanib pegolの価値が高まり、ライセンス収益の拡大及び将来に向けた発展に寄与するものと考えております。同時に、wet AMDのような硝子体という局所投与のみならず、アプタマー医薬品として、全身投与による疾患治療の世界初の事例となることで、今後のアプタマー医薬品の開発に大きく弾みがつくことが期待されます。

 

c)増殖性硝子体網膜症(PVR)

 PVRの疾患内容や当社の取り組みについては、後述「umedaptanib pegol以外の臨床開発優先度の高いパイプライン」(ロ)RBM-006(抗Autotaxin(オートタキシン)アプタマー、増殖性硝子体網膜症(PVR))にて記載の通りですが、umedaptanib pegolの適応疾患拡大を目指して、日本大学とPVRの薬物療法の開発に関する共同研究も実施しております。本共同研究によってumedaptanib pegolにPVR予防治療効果が確認された場合は、速やかに第2相臨床試験を開始することが可能となるため、当社にとって重要な適応拡大になることが期待されます。

 

umedaptanib pegol以外の臨床開発優先度の高い自社パイプライン

 

 当社は、既存パイプラインを継続的、重層的に拡大し、中長期的に成長するために、特に優れた薬効が確認されているRBM-011、RBM-006、RBM-003、RBM-010及びRBM-009を、umedaptanib pegolに次ぐ臨床開発優先度の高いパイプラインと位置づけております。以下にパイプラインの優先度順に概要をまとめております。

 

(イ)RBM-011(抗IL-21(インターロイキン21)アプタマー、肺動脈性肺高血圧症)

 RBM-011が対象とする肺動脈性肺高血圧症は、難病に指定されている病気であり、肺動脈壁が肥厚して血管の狭窄が進行した結果、高血圧をきたして全身への血液や酸素の供給に障害が生じ、最終的には心不全から死に至ることのある重篤な疾患です。プロスタグランジンI2誘導体製剤などの既存治療薬が十分な効果を発揮しない患者の予後は依然として極めて悪い状態です。これらの既存治療薬は、いずれも血管を拡張させる作用を持つものであり、血管壁の肥厚を改善する作用を持つ薬はなく、その開発が強く望まれております。

 2017年度から3年間は、AMEDの難治性疾患実用化研究事業の一環として、また2020年度から3年間はAMEDの治験

準備(ステップ1)研究として助成を受け、肺動脈性肺高血圧症の国内での専門医療機関である国立研究開発法人国立循環器病研究センター(国循)との共同研究を進めています。当該共同研究において、抗IL-21アプタマーが肺動脈性肺高血圧症モデル動物において、肺動脈壁の肥厚を顕著に抑制することが明らかにされました。また、国循との共同研究と並行して、RBM-011原薬のGMP合成と毒性試験を完了して、第1相臨床試験開始の準備は整っております。

 

(ロ)RBM-006(抗Autotaxin(オートタキシン)アプタマー、増殖性硝子体網膜症(PVR))

 RBM-006が対象とする増殖性硝子体網膜症は、網膜剥離や糖尿病性網膜症の放置、網膜剥離の手術の合併症として起こる網膜疾患です。多種の細胞が網膜表面内や、網膜内、硝子体腔内で増殖膜を形成し、当該増殖膜が収縮することによって網膜に皺壁(しゅうへき)形成や牽引性網膜剥離が生じ、重篤な視力障害や失明に至ります。硝子体手術などの治療によっても重篤な視力障害や失明に至る事が多く、また現在のところ有効な薬物療法は存在しません。

 当社は、日本大学医学部視覚科学分野・長岡泰司教授(現 旭川医科大学教授)との間で進めてきたPVR医薬品の開発研究において、RBM-006に優れたPVRの予防効果があることが明らかになり、その成果が学術誌International Journal of Molecular SciencesにONLINE掲載されております※5

 Autotaxinは脂質メディエーターであるLPA(リゾホスファチジン酸)の合成酵素であり、特発性肺線維症を始めとする複数の疾患においてLPAやAutotaxinの亢進が見られ、新規治療薬の標的として注目されております。

 本研究成果がPVRに対して新たな薬物治療の道を切り開くことを期待しております。

 

※5:Hanazaki, H., Yokota, H., Yamagami, S., Nakamura, Y., Nagaoka, T.: Effect of Anti-Autotaxin Aptamer on the Development of Proliferative Vitreoretinopathy. Int. J. Mol. Sci. 24, 15926 (2023).

 

(ハ)RBM-003(抗キマーゼアプタマー、心不全等)

 心筋梗塞直後に、Chymase(キマーゼ)は肥満細胞と心筋細胞等の組織損傷部位から分泌され、アンジオテンシンⅡ等の活性化をとおして、心筋に悪影響を及ぼすことが知られております。ハムスターを用いた冠動脈結紮による心筋梗塞急性期モデルにおいて、抗キマーゼアプタマーであるRBM-003の投与は、梗塞後のキマーゼ陽性肥満細胞の集積及びキマーゼ活性を抑制し、顕著な心機能改善効果を示しました※6。さらに、RBM-003は、冠動脈結紮の前投与のみならず、後投与においても顕著な心機能改善効果を示し、冠動脈結紮を行った実験動物(ハムスター)の生存率を著しく改善いたしました。現在、急性心不全に対する医薬品は存在せず、Unmet Medical Needsのある疾患となっております。RBM-003は他のキマーゼ阻害剤と比べて非常に強い酵素阻害活性を持つことが確認されており、急性心不全に対する即効性の注射薬の開発を目指しております。

 

※6:Jin D, Takai S, Nonaka Y, Yamazaki S, Fujiwara M, Nakamura Y. A chymase inhibitory RNA aptamer improves cardiac function and survival after myocardial infarction. Mol. Ther. Nucl. Acids, 14, 41-51 (2019)

 

(ニ)RBM-010(抗ADAMTS5アプタマー、変形性関節症等)

RBM-010は、当社と大正製薬株式会社との共同研究で創製されたアプタマー製品で、変形性関節症の増悪因子の一つであるADAMTS5(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 5)の働きを抑制する作用があります。変形性関節症は、種々の原因により、膝や足の付け根、肘、肩等の関節に痛みや腫れ等の症状が生じ、その後関節の変形をきたす病気です。現在、治療法としては痛みや腫れを和らげる薬の服用や関節置換術などの手術しかなく、寛解させる薬はありません。本邦には、変形性関節症を有している人が、2,500万人以上、また、世界では、変形性関節症の患者が約2億4,000万人以上と推定されており、今後高齢化に伴いさらに増加が予測されております。

 RBM-010は、関節での軟骨成分の分解を促進しているADAMTS5を抑制することにより、変形性関節症の症状進行を遅らせることが期待でき、現在、局所投与による徐放性製剤の開発に取り組んでおります。

 

(ホ)RBM-009(抗ST2 (IL-33 receptor) アプタマー、重症喘息)

 RBM-009が対象とする重症喘息は、頻繁な息切れや呼吸困難によって日常生活や睡眠が妨害され、生活の質の低下を余儀なくされる疾患です。喘息の治療には、吸入ステロイドや気管支拡張薬に加え、抗体医薬品(抗IgE抗体、抗IL-5/5R抗体、抗IL-4/13R抗体)や経口ステロイド薬が使用されますが、重症喘息患者の中にはこれらの薬剤でもコントロールできない患者が一定数存在しております。

 ST2の刺激分子であるIL-33は炎症カスケードの上流因子であり,様々な免疫細胞に発現するST2を刺激して炎症を惹起します。最近では免疫細胞の一つであるILC2が、コントロール不良の一つの要因であるステロイド抵抗性に寄与しており、その抵抗性メカニズムにST2が関与することが示唆されております。当社ではST2をブロックすることにより複数の機序により惹起される炎症を抑え、既存薬が良好な反応を示さない喘息も治療できる可能性があると考えており開発に取り組んでおります。

 

 

その他のプロジェクト

 

(イ)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬アプタマーの開発

 COVID-19の克服のためには、既に使用されているワクチンに加えて、治療薬の開発が不可欠です。そのため、当社はCOVID-19に対するアプタマー創薬研究を継続しております。

 具体的には、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2のスパイクタンパク質(Sタンパク質)と、ヒトの細胞表面にある受容体(ACE2タンパク質)との結合を阻害し、細胞への侵入を阻止するアプタマーの創製を試みております。

 現在までに、多数の候補配列情報を取得、表面プラズモン共鳴法を用いたスクリーニングによって、抗Sタンパク質アプタマーの候補(Sタンパク質に対する結合並びに宿主受容体ACE2への結合阻害活性を持つアプタマー)を複数特定することに成功しておりますが(ヒット化合物の取得)、動物モデルを用いた感染阻害試験において、SARS-CoV-2ウイルスの感染を阻害するのに十分な効果をもったアプタマーは未だ得られておりません。近年世界的に進展したSARS-Cov-2研究によれば、ヒト細胞表面へのウイルスの結合には複数の作用機序があることが明らかになっているため、Sタンパク質とACE2たんぱく質との相互作用の遮断だけでは感染抑制には不十分であることが推察されます(これまでの研究成果を取りまとめた論文が学術誌で審査中です)。

 

(ロ)共同研究

 ビタミンC60バイオリサーチ株式会社との共同研究開発契約に基づき、化粧品原料候補の創製・開発に関する共同研究を実施し、現在までに有望なアプタマーの創製に成功しており、実用化へ一歩進んでおります。

 

(ハ)継続中の自社創薬プロジェクト

 ・AIアプタマープロジェクト:

 アプタマー医薬品の汎用性をさらに活かすため、国立研究開発法人科学技術振興機構から委託されているコンピューター科学を応用した技術開発(以下、「JST委託事業」)等を継続して進めております。2018年度から開始されたJST委託事業において、当社は早稲田大学と共同し、バイオインフォマティクスを駆使したアプタマー探索技術(RaptRanker)を開発いたしました※7。RaptRankerを用いることにより、当社のアプタマー創薬プロセスを効率化し、創薬期間の短縮及び成功率の向上が期待されます。さらに、2021年4月から3年間の事業として、「AIアプタマー創薬プロジェクト」がJSTに採択され、当社は早稲田大学と共同で、RNAアプタマーの創薬のプロセスを、深層学習などの人工知能技術を活用することで自動化し、創薬期間の短縮及び創薬成功確率の向上を実現させることを目指し、研究をすすめております。この研究におきまして、変分オートエンコーダを応用した革新的な配列生成技術であるRaptGenを新たに開発いたしました。SELEXで得られた特定の標的に対する多数の標的結合アプタマーの配列を、RaptGenを用いて解析することにより、もともとのSELEXデータに含まれていない、前記標的に強く結合する新規のアプタマー配列の生成も可能となりました。RaptGenについては、2022年6月3日にNature Computational Scienceに掲載されております※8

 

※7:Ishida R, Adachi T, Yokota A, Yoshihara H, Aoki K, Nakamura Y, Hamada M. RaptRanker: in silico RNA aptamer selection from HT-SE

LEX experiment based on local sequence and structure information. Nucl. Acids. Res., 48, e82 (2020)

 

※8:Iwano N, Adachi T, Aoki K, Nakamura Y, Hamada M. : Generative aptamer discovery using RaptGen. Nat. Comput. Sci., 2, 378–386 (2022)

 

 ・DDSアプタマープロジェクト:

当社では、RaptRanker及びRaptGenを含むRiboARTシステムをさらに発展させると共に、今後は、RiboARTシステムを用いて、ドラッグデリバリーシステム(DDS)用のアプタマー開発に取り組んでおります。DDSとは、体内における薬剤の分布を制御することで、薬剤の効果を最大に高める一方で、薬剤の投与回数及び副作用を軽減するための、薬剤の体内動態を制御する技術です。近年の医薬品開発を取り巻く環境は著しい変化を遂げており、ブロックバスター創出のための疾患発症の標的分子の枯渇や、Unmet Medical Needsの高まりなどを理由に、多数のモダリティ(治療手段)が生まれてきております。特に核酸医薬を中心として、さまざまな生体内バリアを突破させ、標的部位(臓器、組織、細胞等)へと効率的に送り込むにはDDSが必要不可欠となります。

 アプタマーは化学合成品であり、抗体、低分子化合物、及びASO、siRNA、mRNAなどの核酸医薬等に化学的に結合させることが可能です。DDSとして利用可能なアプタマーを取得するための期間は1年から2年単位と短いため、アプタマー取得後は、迅速に特許出願を行うと共に、大手製薬企業を含む様々な企業に提供することで、基礎段階より早期に収益をあげていきたいと考えております。

 

 DDSアプタマープロジェクトの一環として、当社の所有するアプタマーの光免疫療法への応用可能性を検討するために学校法人慈恵大学との共同研究契約を2023年9月に締結いたしました。光免疫療法は、標的特異的な薬剤送達と腫瘍に限局した光照射を組み合わせることで、正常組織へのダメージを最小限に抑えた、患者負担の少ない治療法として、がん領域を中心に注目を集めております。共同研究先である学校法人慈恵大学 光永眞人講師らのグループは光免疫療法に関する高い研究実績があり、細胞試験系、動物実験系のノウハウを保有しております。

 当社では、膜タンパク質を認識する複数のアプタマーを開発しており、本共同研究においてこれらアプタマーの光免疫療法への応用可能性を検討しております。

 

 ・新規技術開発(製剤化技術開発)

 次世代型アプタマー医薬品に関する技術開発を目的として、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」)の代替技術を研究開発しております。PEGは粘性が高く、過酸化物を生成する等、化学的性質に課題があることがわかっており、この課題を解決するため、味の素株式会社との共同研究契約を2023年10月に締結いたしました。

 本共同研究では、当社独自の核酸アプタマー化合物作製及び測定技術と味の素株式会社が有する抗体-薬物複合体製造技術AJICAPを組み合わせ、アプタマーの体内動態制御技術の確立を目指します。

 

 ・自己免疫疾患に対する治療薬の創製

 多くの自己免疫疾患において自己抗体の関与が示唆されており、当社は自己抗体の産生に重要な役割を果たす生体シグナル分子を阻害するアプタマーを非臨床開発ステージのパイプラインに所有しております。

 これらを活用することにより自己抗体が原因となる自己免疫疾患に対する効果的な治療薬を創製することが出来ると考えており、国立大学法人北海道大学大学院保健科学研究院とANCA関連血管炎に対する薬理作用を検討するための共同研究契約を締結いたしました。

 本共同研究において、自己抗体産生やそれに伴う炎症反応を抑制することを示すことができれば、ANCA関連血管炎のアンメットニーズを満たす薬剤の開発につながるとともに、他の自己免疫疾患に対する適応拡大も期待されます。

 

世界におけるアプタマー医薬品の臨床開発動向

 

Macugenは世界初のwet AMD治療薬として承認されましたが、その後VEGFを標的とする抗体や可溶性のデコイ(おとり)受容体を利用した、さらに有効な医薬(Lucentis、Eylea、Avastin等)が開発され、現在、Macugenはほとんど使用されなくなりました。2004年のMacugenの成功は、アプタマー医薬の開発を鼓舞する意味も大きく、その後、複数のアプタマー医薬候補品が臨床試験に進みました。その中でも注目された二つのアプタマー(REG1、Fovista)の治験が最終の第3相試験で成功せず、アプタマー創薬に関してネガティブな印象を残し、その後、アプタマー医薬品の開発は世界的に停滞しているようにもみえました。しかし、ようやく最近、補体C5に対するアプタマー(ARC1905: IZERVAYTM)が萎縮型加齢黄斑変性(dry AMD)に有効であることが、第3相試験で証明され、2023年8月米国FDAは製造を承認しました。IZERVAYTMを開発したIVERIC Bio社は、アステラス製薬に総額約8,000億円で買収されております。

現在、当社のumedaptanib pegolを含めて9種類のアプタマーが臨床試験の過程にあり、アプタマー医薬品開発の機運が再び盛り上がっております。これらの動向において、MacugenやIZERVAYTM、そしてumedaptanib pegolがいずれも網膜疾患に対して奏功したことから、アプタマーは網膜疾患にフィットするモダリティ(治療手段)であることが強く示唆されました。今後も、世界におけるアプタマー医薬品の臨床開発動向を注視してまいります※9

 

※9: 中村義一.アプタマー:加齢黄斑変性への適応. Clinical Neuroscience Vo.41(No.5) 630-634 (2023)

 

 これらの結果、事業収益については当第3四半期累計期間において計上はありません。当第3四半期累計期間において、事業費用として研究開発費を562百万円、販売費及び一般管理費を267百万円計上し、営業損失は829百万円(前年同期の営業損失は1,512百万円)となりました。

 また、営業外収益として、コンピューター科学を応用した技術開発を目的としたJST委託事業等による助成金収入25百万円を計上したこと等により、経常損失は801百万円(前年同期の経常損失は1,476百万円)となりました。これにより四半期純損失は802百万円(前年同期の四半期純損失は1,476百万円)となりました。

 また、当社は創薬事業及びこれに付随する事業を行う単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

② 財政状態の状況

(イ)資産の部

 当第3四半期会計期間末における総資産は、前事業年度末に比べて800百万円減少し、3,782百万円となりました。これは、現金及び預金が760百万円、umedaptanib pegolの原薬合成に関する委託費を含む前渡金が26百万円それぞれ減少したこと等によるものです。なお、当第3四半期会計期間末において保有している有価証券は、第16回新株予約権等により調達した資金の一部について、研究開発への充当時期まで、一定以上の格付けが付された金融商品で元本が毀損するリスクを抑えて運用することを目的としたものです。

 

 

(ロ)負債の部

 当第3四半期会計期間末における負債は、前事業年度末に比べて1百万円増加し、201百万円となりました。これは、その他が84百万円増加した一方で、ACHの臨床試験実施費用等を含む未払金が57百万円、未払法人税等が31百万円それぞれ減少したこと等によるものです。

 

(ハ)純資産の部

 当第3四半期会計期間末における純資産は、前事業年度末に比べて802百万円減少し、3,581百万円となりました。これは、四半期純損失802百万円を計上したことにより、利益剰余金が同額減少したこと等によるものです。

 なお、2023年6月27日開催の第20回定時株主総会の決議に基づき、2023年8月1日付で資本金672百万円、資本準備金980百万円をそれぞれその他資本剰余金へ振り替え、当該その他資本剰余金1,653百万円を繰越利益剰余金に振り替え欠損補填を行いましたが、これによる純資産合計に変動はありません。

 

(2)会計上の見積り及び見積りに用いた仮定

 前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。

 

(3)事業上及び財務上の対処すべき課題

 当第3四半期累計期間において、当社が対処すべき課題に重要な変更はありません。

 

(4)研究開発活動

当第3四半期累計期間の研究開発費の総額は562百万円であります。

 なお、当第3四半期累計期間において、2023年6月28日に提出の有価証券報告書に記載した研究開発活動(研究開発に関する活動の状況(戦略、成果、特徴、並びに体制)について、新薬候補化合物の主な開発状況)に関し重要な変更はありません。