売上高

利益

資産

キャッシュフロー

配当(単独)

ROE

EPS BPS




E31335 IFRS


2【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。

 

(1)経営成績の状況

年明け2月以降全国ではしかの感染が確認されるなど、感染症は引き続き社会生活に影響を及ぼす原因の一つとなっています。製薬業界においては、市販製品の有害事象が大きな社会問題となりました。

再生医療分野では、先駆け審査指定制度の対象品目に指定された細胞医薬品の承認が進まない事例など、新たな技術を世に出すための厳しい状況が改めて認識されました。

このような状況のもと、当社グループは体性幹細胞再生医薬品分野及びiPSC再生医薬品分野において研究開発を推進いたしました。

体性幹細胞再生医薬品分野においては、脳梗塞急性期及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療薬MultiStem®の承認取得に向け、それぞれの治験結果に基づき、準備を進めています。

脳梗塞急性期については、2023年10月に米国・欧州で実施している治験(治験名称:MASTERS-2試験)について、中間段階でのデータ解析を行いましたが、独立した統計専門家によるさらなるデータ解析を行い、その結果を待って今後の対応を検討する予定です。

ARDSについては、2024年1月に、本疾患を対象とした臨床試験に関する治験計画届を提出し、治験を開始しました。

上記体性幹細胞再生医薬品MultiStem®の開発パイプラインであるHLCM051に関するライセンスパートナーである米国Athersys, Inc.(以下、「アサシス社」と言います。)は、2024年1月に米国連邦破産法第11条に基づく破産手続きを申請しました。これを受けて当社は、アサシス社のほぼ全ての資産を取得するために、米国連邦破産法第363条に基づく取引に関する契約をアサシス社と締結しました。2024年4月に資産取得が完了し、当社が同社に支払予定であった将来マイルストンやロイヤルティ支払義務が無くなり、同社が持つ400件以上のグローバルな特許を含む特許ポートフォリオ等を獲得しました。今後の当社の経済的負担の解消ならびに、さらなる適応症のためのグローバル権利及び提携の機会がもたらされることが期待されます。

iPSC再生医薬品分野においては、遺伝子編集技術により特定機能を強化した他家iPS細胞由来のナチュラルキラー細胞(以下、「eNK®細胞」と言います。)を用いた次世代がん免疫に関する研究を進めています。また、遺伝子編集技術を用いた免疫拒絶のリスクの少ない次世代iPS細胞、ユニバーサルドナーセル(Universal Donor Cell:以下、「UDC」と言います。)を用いた新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対する治療法の研究を進めており、海外企業とのライセンス契約の締結をはじめ、国内外の企業・研究機関にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を進めています。眼科領域において住友ファーマ株式会社(以下、「住友ファーマ」と言います。)と共同で進めている、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞を用いた治療法開発において網膜色素上皮裂孔の患者を対象とする第Ⅰ/Ⅱ相試験を実施しています。

また、新領域への展開として、再生医療等製品の生産に伴い今後大量に産出される培養上清の活用に向けた取り組みを開始しました。第一弾として2024年4月に一般社団法人AND medical group(以下、「AND medical社」と言います。)との間で、同社が行う新たな治療法に関して当社が再生医療等製品の技術及び原材料(培養上清)を提供する共同研究契約を締結しました。共同研究の目的が達成された後、原材料を当社からAND medical社に供給するための供給契約を締結する予定です。

なお、今後の研究活動の継続に向けた事業体制の適正化に向け、経営資源の再配分、固定費削減を中心とした合理化施策の実施、財務基盤の強化を目指した資金調達等に継続的に取り組んでいます。

以上の結果、当第1四半期連結累計期間の経営成績は、売上収益は10百万円(前年同期比46.6%増)、営業損失は1,049百万円(前年同期は888百万円の営業損失)、税引前四半期損失は2,511百万円(前年同期は735百万円の税引前四半期損失)、親会社の所有者に帰属する四半期損失は2,424百万円(前年同期は732百万円の親会社の所有者に帰属する四半期損失)となりました。

 

(2)財政状態の状況

① 資産、負債及び資本の状況

(資産)

当第1四半期連結会計期間末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ1,330百万円増加し、16,484百万円となりました。流動資産は1,447百万円増加し、9,130百万円となりました。主な要因は、現金及び現金同等物の増加1,325百万円であります。非流動資産は117百万円減少し、7,354百万円となりました。主な要因は、有形固定資産の減少34百万円、その他の金融資産の減少47百万円であります。

(負債)

当第1四半期連結会計期間末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ1,481百万円増加し、12,768百万円となりました。流動負債は1,634百万円増加し、6,803百万円となりました。主な要因は、その他の金融負債の増加1,452百万円であります。非流動負債は153百万円減少し、5,965百万円となりました。主な要因は、繰延税金負債の減少92百万円であります。

(資本)

当第1四半期連結会計期間末の資本合計は、前連結会計年度末に比べて151百万円減少し、3,716百万円となりました。主な要因は、新株の発行による2,181百万円の増加及び四半期損失2,421百万円の計上であります。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当第1四半期連結会計期間末における現金及び現金同等物(以下、資金と言います。)は、前連結会計年度末と比べて1,325百万円増加し、8,048百万円となりました。当第1四半期連結累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動により使用した資金は615百万円(前年同期は678百万円の資金の使用)となりました。これは主に、税引前四半期損失2,511百万円及び金融費用1,765百万円の計上等によるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動により使用した資金は368百万円(前年同期は483百万円の資金の使用)となりました。これは主に、短期貸付けによる支出337百万円等によるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動により獲得した資金は2,211百万円(前年同期は1,060百万円の資金の獲得)となりました。これは主に、新株の発行による収入2,233百万円等によるものであります。

 

(3)会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。

 

(4)経営方針・経営戦略等

当第1四半期連結累計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。

 

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当第1四半期連結累計期間において当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。

 

(6)研究開発活動

当第1四半期連結累計期間においては、体性幹細胞再生医薬品、iPSC再生医薬品の各分野において、以下のとおり研究開発を推進いたしました。

当第1四半期連結累計期間における研究開発費の総額は、683百万円(前年同期は544百万円)であります。

 

① 体性幹細胞再生医薬品分野

当第1四半期連結累計期間において、体性幹細胞再生医薬品MultiStem®を用いて、日本国内における脳梗塞急性期及びARDSに対する治療薬(開発コード:HLCM051)の開発を進めました。

<炎症>

脳梗塞急性期に対する治療薬の開発においては、有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第Ⅱ/Ⅲ相試験(治験名称:TREASURE試験)を実施しました。2022年3月末にすべての治験登録患者の投与後365日後データの収集が完了し、同年5月に試験データの一部を解析し速報値を公表しました。その結果、主要評価項目は未達となりました。一方で、脳梗塞患者の日常生活における臨床的な改善を示す複数の指標を通じて、全般的に1年後の患者の日常生活自立の向上が示唆されました。2023年10月には米国・欧州で実施している治験(治験名称:MASTERS-2試験)の中間段階でのデータ解析を行い、統計学的有意性を満たすためには組み入れ患者数の追加が必要との結論になりました。2024年1月にTREASURE試験の結果に関する学術論文がJAMA Neurologyに掲載され、学術的に一定の評価を得ました。

ARDSに対する治療薬の開発においては、肺炎を原因疾患としたARDS患者を対象に、有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施しました。2021年8月と11月に、ONE-BRIDGE試験におけるHLCM051投与後90日と180日の評価項目のデータの一部を発表し、有効性並びに安全性について良好な結果が示されましたが、2022年3月末にPMDAと実施した再生医療等製品申請前相談の中で、本製品の有効性及び安全性に関する一定の合意は得られたものの、承認申請にあたってはデータ補強が必要との助言を受けました。2023年7月にはデータ補強に必要な臨床試験開始に向けPMDAより、本試験に使用する治験製品に関し、大量生産が可能となる三次元培養法によって製造された治験製品を用いることの合意が得られました。2024年1月に本疾患を対象とした臨床試験に関する治験計画届を提出し、治験を開始しました。

 

② iPSC再生医薬品分野

当連結会計年度において、がん免疫療法(開発コード:HLCN061)、細胞置換療法に関する研究開発を進めました。

<がん免疫>

eNK®細胞を用いて、固形がんを対象にしたがん免疫療法の研究を進めています。これまで当社グループが培ってきたiPS細胞を取り扱う技術と遺伝子編集技術を用いることで、殺傷能力を高めたeNK®細胞の作製に成功しており、更に大量かつ安定的に作製する製造工程を開発するなど、次世代がん免疫療法を創出すべく自社研究を進めています。神戸医療イノベーションセンター内に、2022年7月、当社の自社管理による細胞加工製造用施設が本稼働し、eNK®細胞の治験製品の製造に向けた試作製造に着手しております。

現在までの研究の成果としては、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、複数種類のがん腫に由来するPDX(Patient-Derived Xenograft:患者腫瘍組織移植片)サンプルにより、eNK®細胞が認識する特定の分子候補の発現をRNAシーケンシングと免疫染色で確認しています。次のステップとして、PDXを用いてeNK®細胞の抗腫瘍効果などの評価を実施しています。更に、国立大学法人広島大学大学院とeNK®細胞を用いた肝細胞がんに対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を、兵庫医科大学とeNK®細胞を用いた中皮腫に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を進めています。また、自社研究において、eNK®細胞が肺がん同所生着モデルマウス、肝がん皮下移植モデルマウス、胃がん腹膜播種モデルマウス、及び中皮腫皮下移植モデルマウスに対して抗腫瘍効果を有すること、生体におけるがんと同様の環境を有している肺がん患者由来のがんオルガノイド*1においても、同様に抗腫瘍効果があることを確認しております。現在、eNK®細胞を用いた治験の開始を目指し、PMDAや米国FDAとの相談を進めています。なお、当社は、2024年3月に開催されました第23回日本再生医療学会総会において、eNK®細胞の中皮腫及び肝細胞がんに対する研究成果についてポスター発表を致しました。また、2024年4月に開催された米国癌学会年次総会 (AACR Annual Meeting 2024)において、eNK®細胞の中皮腫に対する研究成果についてポスター発表を致しました。

*1 生体内の組織・器官に極めて似た特徴を有している3次元的な構造をもつ組織・細胞

<細胞置換>

iPSCプラットフォームとして、遺伝子編集技術を用いた、HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクを低減する次世代iPS細胞、UDCに関する研究を進めております。患者の免疫細胞に認識されにくいiPS細胞を作製することで拒絶反応を抑制し、有効性と安全性を高めた再生医療等製品を開発するための次世代技術プラットフォームの確立を目指しております。現在、UDCの臨床株及びマスターセルバンクが完成し、様々な細胞に分化できる能力を有することの確認など具体的な臨床応用に向けた研究を進めております。細胞治療への応用としては、国立研究開発法人国立国際医療研究センターと、血糖値に応じてインスリンを生産・分泌し血液中の糖の調整を担う膵臓β細胞に関し、UDCからの作製に成功しています。また、米国ノースウェスタン大学の研究チームが、UDCから分化させた聴神経前駆細胞が、遺伝子編集前の親株細胞から分化させた聴神経前駆細胞に比べて、蝸牛への移植後生着率向上を示すことを確認しました。

眼科領域において、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞(開発コード:HLCR011)を用いた治療法開発を住友ファーマと共同で進めており、2023年6月に網膜色素上皮裂孔の患者を対象とする第Ⅰ/Ⅱ試験を開始しています。

肝疾患領域において、機能的なヒト臓器をつくり出す3次元臓器(開発コード:HLCL041)を用いた治療法開発に向けた研究を進め、2022年4月より、国立大学法人東京大学医科学研究所再生医学分野と、肝疾患に対する肝臓原基*2を用いた治療法の実用化に向け、UDCを用いた肝臓原基の製造法確立を目的とした共同研究を進めてまいりました。2023年2月には、開発のさらなる加速のため、当社からカーブアウトした上でベンチャーキャピタル等の外部パートナーと共同で研究開発を推進する方針を決定し、準備を進めています。

新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対するさらなる治療法の研究を目的に、国内外の企業・研究機関10社以上にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を実施しています。

*2 肝臓の基となる立体的な肝臓の原基。肝細胞に分化する前の肝前駆細胞を、細胞同士をつなぐ働きを持つ間葉系細胞と、血管をつくり出す血管内皮細胞に混合して培養することで形成されます。

 

なお、当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

 以下の表は、本四半期報告書提出日現在の当社グループの開発品並びにその適応症、市場、開発段階及び進捗状況を示しております。

 

<体性幹細胞再生医薬品分野>

※画像省略しています。

(*1)米国FDAよりFast Track及びRMAT(重篤または生命を脅かす疾病や治療法のない疾病に対する新薬の開発に向け、一定の条件を満たした医薬品(RMATは細胞加工製品)に対し迅速承認を可能とする制度)指定を受けています。

 

<iPSC再生医薬品分野>

※画像省略しています。

(*2)Retinal Pigment Epithelium:網膜色素上皮細胞

※画像省略しています。

カーブアウト予定のパイプラインは表記より除いています。