ステラファーマ株式会社

上場日 (2021-04-22)  医薬品医薬品グロース

売上高

利益

資産

キャッシュフロー

配当

ROE 自己資本利益率

EPS BPS

バランスシート

損益計算書

労働生産性

ROA 総資産利益率

総資本回転率

棚卸資産回転率

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最終更新:

E35496 Japan GAAP

売上高

2.69億 円

前期

2.29億 円

前期比

117.6%

時価総額

135.9億 円

株価

430 (07/12)

発行済株式数

31,603,500

EPS(実績)

-24.17 円

PER(実績)

--- 倍

平均給与

665.3万 円

前期

693.0万 円

前期比

96.0%

平均年齢(勤続年数)

45.5歳(6.6年)

従業員数

44人

株価

by 株価チャート「ストチャ」

3【事業の内容】

 当社は、企業理念として『ひとりのかけがえのない命のために、ステラファーマは世界の医療に新たな光を照らします。』を掲げ、「ひとりのかけがえのない命のために」それぞれの使命を実行することを行動指針の基盤とし、「世界の医療に新しい光を照らす」ことを経営目標の策定方針としております。

 当社は、この企業理念に基づき、がん患者に対する新たな治療の選択肢としてBNCTを実用化するため、創業以来、BNCT用ホウ素薬剤の研究及び開発に取り組んでまいりました。

 

(1)事業の特徴

① BNCT※1の医療技術

 BNCTは、ホウ素の安定同位体であるB-10(天然ホウ素に約20%含まれる)とエネルギーの小さな熱中性子の核分裂反応を利用して、がん細胞を選択的に破壊する放射線治療の一手法であります。

 ホウ素の安定同位体であるB-10の原子核はエネルギーの低い低速の中性子(熱中性子)をよく吸収し、直ちにヘリウム原子核(He核(α粒子))とリチウム原子核(Li核)に分裂します。これら原子核は細胞を破壊する能力が非常に大きい一方で、影響を及ぼす範囲が4~9ミクロン(μm)と極めて短く、また、熱中性子自体の細胞破壊能力は小さいため、B-10を含む物質が、がん細胞に選択的に集積し、そこに熱中性子が照射されると、そのがん細胞は選択的に破壊されます。この原理に基づいて考案された医療技術がBNCTであります。

 

[BNCTの治療イメージ]

※画像省略しています。

 

 BNCTは、その特徴として、『がん細胞を選択的に破壊』することができる治療法であることから、がん細胞と入り組む正常組織への影響が少なく、術後のQOL(Quality Of Life/生活の質)も従来の治療に比べて良好であることが期待されます。

 

② ビジネスモデルについて

 当社が、2020年3月に、切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌※2を効能・効果として、ステボロニン®の医薬品製造販売承認を取得したことに伴い、既に加速器を設置しております総合南東北病院、大阪医科薬科大学病院の2つの医療施設においてBNCTによる治療が開始されております。当社は国内において治療が開始されたことに伴い、医薬品卸売業者を介した自販モデルによる収益化を実現しております。

 今後も加速器メーカーとの共同でステボロニン®の適応拡大に向けた研究開発及び臨床試験を継続していくと同時に、当社の製品は加速器メーカーとのコンビネーションプロダクトをベースとしていることから、BNCTの認知度向上と加速器の普及に向けた事業展開も並行的に進めることで、収益拡大を実現していくビジネスモデルであります。

 

(2)開発品の特徴

① 開発品の概要について

当社が、開発、製造及び販売するステボロニン®(開発品名:SPM-011)は、厚生労働省の実施する先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、2020年3月にBNCT用ホウ素薬剤として世界初となる薬事承認を取得しております。

BNCTは、その性質上、中性子の発生装置となる医療機器と医薬品を組み合わせた治療法であり、患部に高い選択性で集積し、かつ効果的な反応が得られるホウ素薬剤が必要となります。

 

[ステボロニン®点滴静注バッグ 9000 mg/300 mL]

※画像省略しています。

② 開発品の作用機序について

 天然ホウ素には、中性子数の異なるホウ素10(B-10)とホウ素11(B-11)の2種類が存在し、B-10は約20%の割合で存在しています。BNCTにおいて核分裂反応を起こすホウ素はB-10のみであるため、効果的なホウ素薬剤とするためには、B-10を高純度に濃縮し、より多く含有する製剤を作る必要があります。

 当社の開発品であるステボロニン®は、この高純度(99%以上)B-10を含む「ボロファラン(10B)※3」を原薬として製造しております。ボロファラン(10B)は、必須アミノ酸であるフェニルアラニン※4又はチロシン※5と構造が似ているため、がん細胞特有のアミノ酸トランスポーターであるLAT-1※6を介してアミノ酸要求性の高いがん細胞に取り込まれます。これにより、がん細胞に選択的にB-10が集積し、かつ中性子線を照射した際により大きな効果を得ることが可能となります。

 

[ボロファラン(10B)の構造式とがん細胞への取込みの作用機序]

  ※画像省略しています。

 

③ 開発品の競争優位性について

 B-10を高純度(99%以上)に濃縮する技術は、ステラケミファ株式会社が国内で唯一(世界でも2社のみ)保有しているものと認識しております。

 当社は、高純度(99%以上)まで濃縮されたB-10を原料として、原薬「ボロファラン(10B)」を製造し、さらにステボロニン®に製剤加工しております。原料についてはステラケミファ株式会社との間で独占期間を定めた取引基本契約を締結し、安定的に原料供給を受ける調達体制をとっております。また製剤処方にかかる特許権を複数取得しており、今後も周辺特許の申請を積極的に行っていく方針であります。ステボロニン®は臨床研究において従来使用されていたフルクトース製剤に比べ安定性に優れ、さらに36ヶ月という長期の品質有効期間を保ち、治療毎に製剤を調製する必要もなく、また「医薬品の製造管理及び品質管理の基準(GMPgrade)」に適合した製剤でもあります。

 この特徴に加え、当社における長年の研究開発期間と相当程度の投資は後発事業者にとっては大きな参入障壁になると考えております。また当社の開発品であるBNCT用ホウ素薬剤「SPM-011」は、厚生労働省の実施する先駆け審査指定制度※7の対象品目に指定されておりましたが、2020年3月にステボロニン®として医薬品製造販売承認を取得したことは後発事業者にとっては、先駆け審査指定制度の対象品目に指定されるための要件の一つとして治療薬の画期性が求められることから、参入障壁となると考えられ、当社の競争優位性は一定程度維持できると認識しております。

 この競争優位性を維持しながら、ステボロニン®を「世界初、日本発」の医薬品として、医療現場へ提供することを目標として事業を推進してまいります。

 

[ステボロニン®の製造フロー]

※画像省略しています。

 

(3)開発パイプライン

 当社は、BNCT用ホウ素薬剤の適応疾患の拡大を開発テーマとして、適応疾患別に開発パイプラインを構成しております。当事業年度末現在までの開発パイプラインの対象疾患並びにそのスケジュールについては次のとおりです。

※画像省略しています。

① SPM-011[対象疾患:再発悪性神経膠腫※8

 再発悪性神経膠腫については、日本国内において、2015年12月に第Ⅱ相臨床試験の治験届を提出し、2017年4月には厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定され、2020年7月に治験終了届を提出いたしました。

 当該治験の主要評価項目は、BNCT施術後1年後における生存割合とし、安全性及び有効性について評価しております。その結果、再発膠芽腫24例の1年生存率が79.2%となり、試験開始前の設定期待値60%を超える結果となりました。当該試験結果をもって、先駆け審査指定制度の枠組みにおいて独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)と一部変更申請に向けた協議を行っておりましたが、当該試験の主要評価項目である生存率は、年齢やがんの組織型(グレード)、術前の全身状態等の患者背景因子が影響することから、同機構からは、当該因子の相違を排除した上で有効性を示す追加的な臨床データの必要性について指摘されました。

 これらを踏まえ、今後の方向性については初発悪性神経膠腫への適応拡大も視野に入れ、再検討することとしております。

 また、国立大学法人筑波大学が開始している医師主導治験※9への協力を通じて、初発膠芽腫への適応拡大を視野に入れています。

 

② SPM-011[対象疾患:再発高悪性度髄膜腫※10

 大阪医科薬科大学病院において、医師主導治験として第Ⅱ相臨床試験を実施しており、2021年9月には当該試験の被験者登録が終了し、2024年2月には全例の主要評価に関する観察が終了いたしました。今後、評価、データ解析等が実施される予定です。試験結果について慎重に評価を行った上で、PMDAと申請に向けた協議を開始いたします。

 なお、当該試験で使用された治験薬は当社が提供しております。

 

③ SPM-011[対象疾患:悪性黒色腫※11及び血管肉腫※12

 2022年11月に血管肉腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験を開始いたしました。なお、血管肉腫に関しては、希少疾病医薬品※13の指定に向けて、厚生労働省と協議を進めた結果、2023年12月に「切除不能な皮膚血管肉腫」を対象として同指定を受けることができました。引き続き血管肉腫を優先的に開発することとしながら、悪性黒色腫の開発は第Ⅰ相臨床試験で対象とした疾患から適応を広げることも含めて検討していく予定です。

 なお、本試験は株式会社CICSが開発した加速器中性子捕捉療法装置「CICS-1」を用い、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院において実施しております。

 

④ SPM-011[対象疾患:初発膠芽腫※14]

 国立大学法人筑波大学において、医師主導治験として初発膠芽腫を対象とした国内第Ⅰ相試験が2024年1月に開始されました。本試験の主目的は、初発膠芽腫を対象にしたBNCTの安全性及び忍容性を評価することで、最大18症例を目標に非盲検、非対照試験で行われます。

 対象は、WHO2016分類におけるIDH-wild type膠芽腫で、組織学的診断がつき、術後になお画像評価病変を有する初発膠芽腫の患者様です。これまでSPM-011を用いたBNCTの臨床試験は、放射線治療歴のある患者様が中心でしたが、本試験では、初めて全ての患者様で放射線治療歴がない患者様を対象とした試験となります。さらに本試験では、BNCT施行後に膠芽腫の標準治療であるⅩ線とテモゾロミドを組み合わせた治療を受ける試験デザインとなり、SPM-011を用いたBNCTの臨床試験では、初めて他治療との組み合わせを前提とした試験デザインとなります。

 なお、本試験は筑波大学が開発した加速器中性子捕捉療法装置「iBNCT」を用いて、実施しております。

 

⑤ SPM-011[対象疾患:胸部悪性腫瘍※15

 SPM-011の胸部悪性腫瘍への適応拡大のため、新たな治験計画を立案しています。本試験では、標準的な放射線治療や薬物療法が実施困難かつ切除不能と判断された再発乳癌・再発非小細胞性肺癌・再発食道癌・再発悪性胸膜中皮腫などを対象とした試験で、癌腫を固定せず胸部に存在する癌を対象にするバスケット型治験※16として2023年度にPMDAとの相談を行い、本試験実施に向けた準備を進めております。

 なお本試験では、ボロファラン(10B)を可視化できる18FBPAを合成する装置を治験機器として使用し、18FBPAとBNCTの効果相関についても探索的に検討する予定です。

 

 開発パイプラインは、治験実績及び臨床研究データを吟味した上で、BNCTの効果が高いと想定される疾患を慎重に選定し、ステボロニン®の更なる適応拡大を図ります。

 

(4)事業戦略

 当社は、BNCTの医療技術を軸に加速器メーカーと共同でステボロニン®の適応拡大に向けた研究開発及び臨床試験を実施し、開発パイプラインの拡充を進めてまいります。またステボロニン®の医薬品製造販売承認を取得したことに伴い、国内ではBNCTによる医療技術や治療実績の認知度向上と加速器の普及を目指し事業を展開してまいります。 認知度の向上には医療施設や大学等の研究機関への訪問活動を通じてステボロニン®の有効性や安全性に係る医療情報の提供を充実させていくとともに、学会や講演会を通じて、より効果的な事業活動を展開してまいります。

 海外では日本で承認を得た疾患を対象に、米国、欧州及びアジアを中心に承認取得を目指すとともに、各国のレギュレーションに通じた製薬企業等との連携によるアライアンスモデルを計画しており、パートナー企業の選定に取り組んでまいります。そして特に成長が見込まれる海外のオンコロジー領域におけるステボロニン®の適応拡大は当社における重要な成長戦略と位置づけ、経営資源の重点配分を行ってまいります。

 

 当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであり、事業の系統図は下記のとおりです。

※画像省略しています。

(5)開発戦略

 当社では、研究開発拠点であるさかい創薬研究センターでステボロニン®の適応拡大等に向けた研究開発に取り組んでおります。またBNCTの拡張戦略として、18F-FBPA-PET※17に使用するPET薬剤の開発についても加速器メーカーと共同で取り組んでおります。

 18F-FBPA-PETは、核医学検査の一つで、BNCTの有効成分であるボロファラン(10B)をPET核種である18Fで標識化することで、腫瘍の位置や範囲を画像として得ることができるだけでなく、ホウ素薬剤が腫瘍にどの程度取り込まれているか、BNCTの有効性をあらかじめ確認することが期待できます。

 今後、BNCTの適応疾患の拡大を図る上で、18F-FBPA-PETの開発は重要な役割を担っております。

 

 

<語句説明>

※1「BNCT」

 BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)とは、放射線治療の一種であり、新しいがんの治療法です。ホウ素の安定同位体であるB-10(天然ホウ素に約20%含まれる)の原子核はエネルギーの低い低速の中性子(熱中性子)をよく吸収し、直ちにヘリウム原子核(4He核(α粒子))とリチウム原子核(7Li核)に分裂します。これら原子核は細胞を破壊する能力が非常に大きい一方で、影響を及ぼす範囲が4~9ミクロン(μm)と極めて短いことが特徴です。また、熱中性子自体の細胞破壊能力は小さいため、B-10を含む物質ががん細胞に選択的に集積し、そこに熱中性子が照射されると、そのがん細胞は選択的に破壊されます。この原理に基づいて考案された医療技術がBNCTです。

 

※2「頭頸部癌」

 頭頸部とは、脳の下側の顔面から鎖骨までの部分を示します。頭頸部癌とは、この範囲に含まれる、鼻、口、のど、上あご、下あご、耳等にできるがんのことです。頭頸部癌は、全てのがんの約5%程度と考えられており、がんが発生する部位の種類が多く、発生原因、治療法、予後が異なることが特徴とされています。頭頸部には人間が生きる上で必要な器官が集中しており、その機能を温存できる治療法の確立が求められています。

 

※3「ボロファラン(10B)」

 「4-ボロノ-L-フェニルアラニン(L-BPA)」と呼ばれるホウ素化合物であり、分子内にホウ素原子を一つ持っています。

 

※4「フェニルアラニン」

 タンパク質を構成するアミノ酸で、食品中のタンパク質に多く含まれている必須アミノ酸の一つです。

 

※5「チロシン」

 タンパク質を構成するアミノ酸で、動物の体内ではフェニルアラニンから合成されます。

 

※6「LAT-1」

 L-type amino acid transporter-1(L型アミノ酸トランスポーター1)の略称です。

 細胞の増殖等に必要なアミノ酸の輸送に関わるタンパク質をアミノ酸トランスポーターと呼びます。アミノ酸トランスポーターは正常細胞にも存在しますが、LAT-1は多くのがん細胞に選択的かつ高発現するアミノ酸トランスポーターであり、フェニルアラニンやチロシンを輸送します。

 

※7「先駆け審査指定制度」

 一定の要件を満たす新薬等について、厚生労働省が、開発の比較的早期の段階から薬事承認に係る相談・審査等において優先的な取扱いを行う制度です。具体的には、「①治療薬の画期性、②対象疾患の重篤性、③対象疾患にかかる極めて高い有効性、④世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思」の4つの要件を満たす画期的な新薬等を開発段階で対象品目に指定し、新たに整備された相談の枠組みを優先的に適用し、かつ優先審査を適用することにより、審査期間を6ヶ月(通常は12ヶ月)まで短縮することを目指すものとされています。

 なお、先駆け審査指定制度においては、対象品目の指定時に予定される効能又は効果も指定されることから、製造販売承認取得後に適応疾患を拡大する際には同制度の対象外となります。当社は、再発悪性神経膠腫と切除不能な局所再発頭頸部癌並びに局所進行頭頸部癌(非扁平上皮癌)について、対象品目の指定を受けています。

 

※8「悪性神経膠腫」

 神経膠腫とは、脳に発生する悪性腫瘍で原発性脳腫瘍の約30%を占めます。神経膠腫は、その悪性度によって4段階(グレードⅠ~Ⅳ)に分類され、中でもグレードⅢ~Ⅳに分類される悪性度が高い神経膠腫を悪性神経膠腫と呼びます。

 

※9「医師主導治験」

 医師主導治験とは、製薬企業等と同様に医師自ら治験を企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験を指します。

 

※10「高悪性度髄膜腫」

 髄膜とは、脳と脊髄を保護している薄い組織層で、髄膜腫とはその内側の層の一つにできるがんのことです。髄膜腫は良性であることが多く、高悪性度髄膜腫は希少疾患である一方で、再発や転移を起こしやすい、治りにくい腫瘍の一つです。

 

※11「悪性黒色腫」

 悪性黒色腫は皮膚がんの一つで、単に黒色腫又はメラノーマと呼ばれることもあります。皮膚の色と関係するメラニン色素を産生する皮膚の細胞で、表皮の基底層に分布しているメラノサイト又は母斑細胞が悪性化した腫瘍と考えられています。

 

※12「血管肉腫」

 血管肉腫とは、血管の内皮細胞から発生するがんのことです。体のいたるところにできる可能性があり、皮膚に生じることが多いがんです。

 

※13「希少疾病医薬品」

 厚生労働大臣から指定を受け、優先的に審査される医薬品です。指定には、当該医薬品の用途に係る対象者数が本邦において5万人未満であること、重篤な疾病を対象とするとともに、代替する適切な医薬品または治療法がない、または既存の医薬品と比較して著しく高い有効性または安全性が期待されるなど、医療上の必要性が高いこと、対象疾病に対して当該医薬品を使用する理論的根拠があること、その開発に係る計画が妥当であると認められることが必要とされています。

 

※14「膠芽腫」

 神経膠腫のうち、悪性度が高い神経膠腫を悪性神経膠腫と呼び、特にグレードⅣの神経膠腫を膠芽腫と呼びます。膠芽腫を含む悪性神経膠腫は、現在なお治療が困難な疾患とされています。

 

※15「胸部悪性腫瘍」

 甲状腺より下、横隔膜より上に存在する悪性腫瘍であり、乳癌・非小細胞性肺癌・食道癌・悪性胸膜中皮腫などを対象としています。

 

※16「バスケット型治験」

 単一の治療法を用いた複数の疾患を対象とした試験であり、通常特定の遺伝子異常等を有するがんの患者集団で複数のがん腫横断的に薬剤の臨床評価を実施する試験です。現在計画しているバスケット型治験では、SPM-011の取り込みの期待ができる複数の癌腫を横断的に評価する計画です。

 

※17「18F-FBPA-PET」

 がんの画面診断技術であるPET診断において、現在使用されている18F-FDGに代わる新たなPET薬剤として18F-FBPAの開発を行っています。18F-FBPAはBNCTの施術において、ステボロニン®の分布状況を可視化し、治療前にBNCTの効果を予測することも可能と考えられており、BNCTの発展に貢献するものと期待されています。

 

24/06/28

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態の状況

(資産)

当事業年度末における流動資産は3,629,291千円となり、前事業年度末に比べ163,443千円減少いたしました。これは、有価証券が300,943千円、仕掛品が163,123千円、売掛金が16,939千円増加した一方で、現金及び預金が657,597千円減少したことが主な要因であります。

固定資産は191,330千円となり、前事業年度末に比べ344,987千円減少いたしました。これは、有形固定資産が21,347千円、投資その他の資産が314,521千円減少したことが主な要因であります。

この結果、総資産は、3,820,622千円となり、前事業年度末に比べ508,431千円減少いたしました。

 

(負債)

当事業年度末における流動負債は455,599千円となり、前事業年度末に比べ34,014千円増加いたしました。これは、買掛金が26,620千円、未払金が6,281千円増加した一方で、預り金が1,235千円減少したことが主な要因であります。

固定負債は988,010千円となり、前事業年度末に比べ166,954千円減少いたしました。これは、退職給付引当金が5,825千円増加した一方で、長期借入金が160,008千円、長期未払金が12,771千円減少したことが要因であります。

この結果、負債合計は、1,443,610千円となり、前事業年度末に比べ132,940千円減少いたしました。

 

(純資産)

当事業年度末における純資産は2,377,012千円となり、前事業年度末に比べ375,490千円減少いたしました。これは、減資による欠損填補として繰越利益剰余金が778,824千円、新株予約権の行使による新株の発行により資本金と資本準備金がそれぞれ195,722千円増加した一方で、減資による欠損填補として資本金が558,029千円、資本準備金が220,794千円減少し、当期純損失763,749千円を計上したことが主な要因であります。

この結果、自己資本比率は62.0%(前事業年度末は63.3%)となりました。

 

 

② 経営成績の状況

 当事業年度における国内の医薬品業界は、新薬創出の難易度が高まる中、医療費を含む社会保障費の適正化政策の方針継続や薬価制度の改正の影響等により、厳しい事業環境の中で推移いたしました。

 このような事業環境のもと、当社は、将来のBNCTの業容拡大を見据え、国立大学法人筑波大学が計画している初発膠芽腫を対象とした第Ⅰ相医師主導治験に関する契約を締結したほか、当社と三菱ケミカル株式会社及び国立大学法人東京大学との間で、ポリビニルアルコール※1とボロノフェニルアラニン※2から構成されるBNCT用製剤の実用化に向けた共同研究契約を締結いたしました。また、2024年2月には、BNCTの安全性と再発頭頸部癌に対する有効性に関する論文がCancersの電子版(論文題目「Safety of Boron Neutron Capture Therapy with Borofalan(10B) and Its Efficacy on Recurrent Head and Neck Cancer: Real-World Outcomes from Nationwide Post-Marketing Surveillance」)に掲載されました。BNCTの有効性について解析対象となった頭頸部癌患者155例のうち、頭頸部扁平上皮癌137例の最良奏効率は72.3%で、うち63例(46.0%)で完全奏効(CR)が認められました。また頭頸部非扁平上皮癌17例の最良奏効率は64.7%で、うち8例(47.1%)で完全奏効(CR)となりました。本論文掲載は頭頸部癌診療ガイドラインへの掲載に向けた大きな前進と考えております。

 また、当社の開発パイプラインに関しては、2023年12月に「切除不能な皮膚血管肉腫」を対象として、希少疾病医薬品の指定を受けることができました。同指定を受けることにより、製造販売承認に向けた手続きにおける優先的な審査や国からの研究費の助成を受けることができるなどの優遇措置が付与されることになります。また、医師主導治験として開発を進めております「再発高悪性度髄膜腫」については、2024年2月に第Ⅱ相臨床試験の主要評価に関する観察期間が完了いたしました。今後は、本試験のデータ解析等の結果について慎重に評価を行った上で、製造販売承認に向けて最善を尽くしてまいります。

 さらに、当社の海外事業に関しては、アジア市場への取り組みの一つとして、2025年から治療開始を予定している中華人民共和国における海南島医療特区への薬剤供給に向けて、現地当局や物流企業とともに輸出入手続きや当社における輸出取引開始に向けた社内組織の整備などを進めております。一方、欧米市場への取り組みに関しては、現地パートナー企業候補との協議を重ねておりますが、薬剤提供体制の構築に係る資金支出は、その投資効果が最大化される時期に調整を行い、引き続き医薬品受託製造会社やコンサルティング会社との協議を進めております。

 BNCTの認知度向上に向けた取り組みに関しては、ライフサイエンス分野の最先端情報を提供するビジネス誌であるLife Sciences Reviewにおいて、BNCTの実用化を達成したこれまでの取り組みが評価され、当社が同誌のTop 10 Therapeutics Companies in APAC 2023 に選出されるとともに、医薬品の製造・開発に関する専門誌であるPHARM TECH JAPANにおける連載企画に寄稿を行いました。また2024年3月には、国際的な総合科学雑誌Nature(2024年3月21日号 Volume627 Issue 8004)の特集「RADIOLOGY IN JAPAN」に当社の記事広告 Japan pioneers a new cancer radiation treatment が掲載されました。これは当社代表取締役社長を含む3名のインタビューをもとに作成されております。本掲載では、BNCTの原理や特徴、日本で行われているBNCTの治療実施状況の解説に加え、BNCTの適応拡大に向けた取り組み状況に言及しており、この情報発信により国内外にある影響力のある研究者や医療機関、グローバル製薬企業に対するBNCTの認知度がさらに高まることが期待されます。さらに、在日フランス大使館において、当社のBNCTに関心を示すフランスのリヨンベラールがんセンター(Centre Léon Bérard)の研究所長と面談を行い、BNCTに関する認知度の向上に向けた取り組みを推進いたしました。

 以上の結果、当事業年度の売上高は269,491千円(前年同期比17.6%増)、営業損失は760,300千円(前事業年度は営業損失806,775千円)、経常損失は760,208千円(前事業年度は経常損失775,974千円)、当期純損失は763,749千円(前事業年度は当期純損失778,824千円)となりました。

 なお、当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。

 

<語句説明>

※1「ポリビニルアルコール」

 生体適合性に優れた無色無臭の水溶性高分子であり、医用材料として既に様々な形で利用されております。

 

※2「ボロノフェニルアラニン」

 必須アミノ酸のフェニルアラニンと類似した構造を持ちながら、ホウ素原子を含有した化合物です。がん細胞に選択的かつ効率的に取り込まれることが知られており、熱中性子を当てると化合物中のホウ素原子が核反応を起こし、がん細胞を殺傷いたします。

 

③ キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、2,012,233千円(前事業年度末は

2,669,727千円)となり、前事業年度末に比べ657,493千円減少いたしました。

 当事業年度末における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度において営業活動の結果使用した資金は876,837千円(前年同期は827,669千円の支出)となりました。これは主に、税引前当期純損失760,976千円を計上するとともに、棚卸資産が175,660千円増加、売上債権が16,939千円増加した一方で、仕入債務が26,620千円増加、減価償却費を35,039千円計上したことによるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度において投資活動の結果使用した資金は9,010千円(前年同期は29,925千円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出10,978千円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度において財務活動の結果獲得した資金は228,353千円(前年同期は291,819千円の収入)となりました。これは主に、新株予約権の行使による株式の発行による収入388,258千円があった一方で、長期借入金の返済による支出160,008千円があったことによるものであります。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

事業部門の名称

当事業年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

医薬品事業

494,709

132.5

(注)金額は販売価格によっております。

 

b.受注実績

 当社は、市場動向の予測に基づく見込み生産を行っており、受注生産は行っておりません。

 

c.販売実績

当社は、医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を行っておりません。

当事業年度の販売実績は以下のとおりであります。

事業部門の名称

当事業年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

医薬品事業

269,491

117.6

 

(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合

相手先

前事業年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当事業年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

株式会社エス・ディ・コラボ

229,067

100.0

269,491

100.0

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。

 

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定につきましては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容につきましては、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。

 

③ 資本の財源及び資金の流動性

 当社の運転資金は、新株式の発行と金融機関からの借入であります。当事業年度末における現金及び現金同等物は2,012,233千円であり、充分な流動性を確保しております。当社は、研究開発投資が資金需要の大部分を占めており、今後も継続して研究開発投資を実施する方針であります。必要な資金につきましては、自己資金のほか、新株式の発行や金融機関からの借入等により、資金調達を行う方針であります。

 

④ 経営戦略の現状と見通し

 当社の経営上の目標は、BNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益の獲得及びそれに伴う事業基盤の確立であります。そこでBNCTの実施症例数の伸長に基づく月次売上高(ステボロニン®の受注数量)を上記目標の達成状況を判断するための主要な経営指標としております。

 当事業年度の月次売上高の推移は次のとおりとなっております。

(単位:千円)

売上高

4月

5月

6月

7月

8月

9月

年間累計

15,399

23,099

23,099

30,799

23,099

38,498

269,491

10月

11月

12月

1月

2月

3月

15,399

15,399

15,399

23,099

7,699

38,498

 今後もBNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益獲得が実現できるよう経営資源を重点的に配分してまいります。

 

⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について

 経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」をご参照下さい。

 

⑥ 経営者の問題意識と今後の方針

 経営者の問題意識と今後の方針につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。