E01575 Japan GAAP
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当第3四半期連結会計期間の末日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)財政状態及び経営成績の状況
当第3四半期連結累計期間においては、新型コロナウイルス感染症対策の緩和による各国の経済活動の正常化や資源価格の落ち着き、個人消費の増加などによって世界経済は引き続き回復傾向にありました。しかし、世界的な金利上昇やインフレーション、中国経済のスローダウンに加えて、中東情勢などの地政学的リスクの高まりも影響し、先行き不透明な状況が続いています。
このような状況のなか、当社グループの総合エンジニアリング事業の海外マーケットにおいて、エネルギーソリューションズ分野(石油精製、石油化学・化学、ガス処理、LNG等)では、エネルギー安全保障と低・脱炭素化の両立の観点から、環境負荷が比較的少ない天然ガス(液化天然ガス(LNG)を含む)の需要は引き続き高く、産油・産ガス諸国において新設のみならず既設プラントの増設・改造などの設備投資計画が進展しました。サステナブルソリューションズ分野(水素・燃料アンモニア、小型モジュール原子炉(SMR)、スペシャリティケミカル、ケミカルリサイクル、グリーンケミカル等)では、低・脱炭素化に向けた各国の政策や支援が後押しし、水素・燃料アンモニア、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage :CO2の回収・貯留)、合成メタン(e-methane)などの領域において、実現に向けた計画検討が前進するなどしました。ファシリティソリューションズ分野(半導体、蓄電池、データセンター、発電、受入基地、医薬、医療、水処理、鉄道等)では、デジタル社会の進展や米国の対中政策等に伴い需要が高まる半導体材料や、蓄電池部材、データセンターなど、デジタル産業を支えるインフラ施設や関連施設の設備投資計画が北米などを中心に着実に進展しました。
また、同事業の国内マーケットにおいて、ライフサイエンス分野の設備投資計画が堅調に進んだほか、グリーンイノベーション基金や長期脱炭素電源オークションなど日本政府の政策が追い風となり、SAFや水素、蓄電池といった低・脱炭素分野や資源循環分野における設備投資計画が進展しました。
このように国内外で様々な設備投資計画が進展する一方で、金利上昇やインフレーションにより顧客の初期投資費用は増加傾向にあることから、顧客の投資決定タイミングを注視しています。
機能材製造事業では、触媒・ファインケミカル分野において、触媒は世界経済の回復傾向を受けて顧客の製品需要は堅調に推移したものの、ファインケミカルは供給過剰や世界的なインフレーションに伴う消費者の購買意欲の減退が続き、半導体やエレクトロニクス向け製品は引き続き厳しい事業環境となりました。ファインセラミックス分野では、半導体関連市場における景気停滞が続いているものの、電気自動車向けのパワー半導体関連製品は、自動車のEV化の加速により引き続き需要が拡大しました。
以上のような経営環境のもと、当社グループの当第3四半期連結累計期間の経営成績等は、以下のとおりとなりました。
経営成績
受注高
この結果、当第3四半期連結会計期間末の受注残高は、為替換算による修正及び契約金額の修正・変更等による調整額を加え、1兆3,614億円となりました。
セグメント別状況
当社グループは、当連結会計年度においてエネルギーソリューションズ分野、サステナブルソリューションズ分野及びファシリティソリューションズ分野を合わせた海外マーケット(海外子会社含む)で6,200億円、国内マーケットで1,800億円の計8,000億円の受注目標を掲げています。引き続き受注目標の達成に向けて取り組んでおり、当連結会計年度末までに受注期待案件の入札結果が判明することを期待しています。なお、現在国内外で遂行中の一部プロジェクトにおいて、工期遅延のリスク対応費用を見込んだことにより、利益が減少しました。
当第3四半期連結累計期間における各分野での取り組みは、以下のとおりです。
海外マーケットにおけるエネルギーソリューションズ分野では、大型案件の受注に向けて、引き続き鋭意営業活動に取り組みました。
サステナブルソリューションズ分野では、住友商事株式会社の豪州現地法人向け水素製造プラント建設プロジェクトを受注したほか、低・脱炭素化に向けた設備投資計画の検討をサポートするなど、将来のEPC案件の受注に向けて鋭意営業活動に取り組みました。
ファシリティソリューションズ分野では、半導体や蓄電池などの先端技術産業分野において複数の基本設計役務やEPC役務を受注しました。加えて、海外EPC事業会社である日揮グローバル株式会社が、先端技術産業分野のリーディングコントラクターであるExyte社傘下のExyte Singapore Pte. Ltd.と、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイの4カ国における同分野の設計・調達・建設(EPC)プロジェクトの受注・遂行に関する協業契約を締結しました。本協業により、両社は同分野での営業活動からEPCプロジェクト見積・受注・遂行を共同で実施し事業拡大を目指していきます。
海外子会社では、フィリピン法人においてバイナリー地熱発電所建設プロジェクトを受注するなどしました。
国内マーケットでは、既存国内製油所や化学プラントの保全工事のほか、中外製薬工業株式会社向けバイオ原薬製造棟建設プロジェクト、タカラバイオ株式会社向けバイオ医薬品及びmRNAワクチン原薬等製造棟建設プロジェクト、出光興産株式会社などが推進する系統用蓄電池事業向け系統用蓄電池設備設置工事、株式会社FRDジャパン向け陸上養殖商業プラント建設プロジェクトなどを受注しました。加えて、国内EPC事業会社の日揮株式会社が、株式会社高田工業所と国内EPC事業に関する協業基本合意書を締結しました。本協業により、今後増加が見込まれる低・脱炭素分野や資源循環分野の案件を共同で遂行することで、国内EPC事業のさらなる拡大を図っていく予定です。
また低・脱炭素化や循環型社会の実現に向けて、当社は株式会社クボタ及び大陽日酸株式会社とともに、大規模な水素製造事業への参入を視野に、輸入したアンモニアを熱分解して水素を得る「大規模外部加熱式アンモニア分解水素製造技術の研究開発」※1を開始しました。また当社、旭化成株式会社及びマレーシア国営石油ガス会社の100%子会社であるGentari Hydrogen Sdn Bhdは、マレーシアにおけるグリーン水素製造のための大規模アルカリ水電解システムの建設プロジェクト※2において、事業化調査を完了し基本設計に移行するための覚書を締結しました。
さらに、当社が石油資源開発株式会社及び川崎汽船株式会社とともに進める日本を起点とするCCSバリューチェーン構築を目指す共同検討に、JFEスチール株式会社が新たに加わり、JFEスチール株式会社の日本国内の製鉄所で排出されるCO2の分離・回収、及びマレーシアまでの液化CO2の海上輸送と受け入れまでのCCSバリューチェーン構築について、必要な設備やコストなどを含めた検討を開始しました。加えて当社は、石油資源開発株式会社及び川崎汽船株式会社とともにマレーシア国営エネルギー会社の子会社であるPETRONAS CCS Ventures SDN BHDとマレーシアにおけるCCS事業化検討に係る基本契約を締結し、前述のCCSバリューチェーン構築の検討との連携を図りました。インドネシアにおいては、株式会社JERAとインドネシア国営電力会社とともに、同国の火力発電所を対象とするCCS導入及び事業化に向けた共同調査を開始しました。
廃食用油を原料とした国産SAF製造・供給事業※3において当社は、外食チェーン大手や給食事業などに携わる様々な企業と廃食用油の供給及び利用に関する基本合意書を締結し原料の確保に取り組みました。コスモ石油堺製油所における大規模生産実証設備についても、2024年度下期から2025年度初頭の生産開始を目指して建設工事を進めています。また当社とコスモ石油株式会社、株式会社レボインターナショナルの3社による共同提案が、東京都のSAF製造に向けた公募事業「廃食用油回収促進に係る事業提案」に採択され、東京都とともに「家庭系廃食用油の回収」、「SAF製造・利用に関する教育活動」などに取り組みました。
当社は、インドネシア国営石油会社プルタミナの子会社であるPT Perusahaan Gas Negara Tbk、大阪ガス株式会社及び株式会社INPEXとともに、インドネシアにおけるパームオイルの搾油過程で生じる廃液(POME)由来のバイオメタン活用の事業化に向けた詳細検討を開始しました。次世代太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池に関しては、日揮株式会社が苫小牧埠頭株式会社、株式会社エネコートテクノロジーズ(以下、エネコート)とともに北海道苫小牧市の物流施設にエネコートが開発した同電池を設置する共同実証実験の開始を決定したほか、神奈川県及びエネコートと「脱炭素化促進のためのペロブスカイト太陽電池の普及に関する連携協定」を締結しました。また宇宙分野では、日揮グローバル株式会社が、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の企画型競争入札事業において、「月面推薬生成プラント※4の実現に向けたパイロットプラントの概念検討」に採択されました。
さらに、将来の市場拡大が見込まれるバイオものづくりに対し、当社は株式会社バッカス・バイオイノベーションと共同で、微生物の開発・改良から培養槽のスケールアップ、生産プロセスの開発までをワンストップで手掛ける「統合型バイオファウンドリ®」事業の構築に取り組むなど、ビジネスモデルの多角化にも取り組みました。
このほか、コーポレートベンチャーキャピタルファンド「JGC MIRAI Innovation Fund」を通じて、生物分布情報の可視化プラットフォームの構築・運営を行う株式会社バイオームや、核融合領域で先進的技術を有する京都フュージョニアリング株式会社、宇宙用作業ロボットの研究開発・製造を行うGITAI Japan株式会社、空間情報記録のデジタル化を行うnat株式会社への出資を行いました。
※1 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業」に採択
※2 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発及びグリーンケミカルプラントの実証」の一部として運用
※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「バイオジェット燃料生産技術開発事業/実証を通じたサプライチェーンモデルの構築」に採択
※4 月面の砂(レゴリス)に含まれる水分を抽出し、有人月離着陸機や飛翔移動機の燃料となる液体水素及び液体酸素を生成する設備
触媒分野においては、燃料需要が回復に向かうとともに触媒の交換需要を背景に、FCC触媒及び水素化処理触媒の需要が国内外で堅調に推移したほか、受託製造ケミカル触媒や脱硝触媒用原料の販売が堅調に推移しました。
ファインケミカル分野においては、半導体やエレクトロニクス市場の在庫調整の影響を受け、ハードディスク用研磨材向けシリカゾルやフラットパネルディスプレイ及びタブレットの反射防止材向けシリカゾルなどの需要が減少しました。
一方で触媒・ファインケミカル分野の将来の事業拡大に向けて、2023年6月に新潟県阿賀野市の事業用地、2023年7月には福岡県北九州市の事業用地の売買契約を締結しました。取得した事業用地において、当社グループが掲げる長期経営ビジョンの実現を目指して、2025年から2030年にかけてカーボンニュートラル燃料(合成燃料)用触媒及びケミカルリサイクル用触媒・吸着材のほか、高速通信用材料や半導体用機能性研磨粒子などの新規ファインケミカル製品の需要拡大に向けた設備投資を実施していく計画です。
ファインセラミックス分野では、半導体関連市況の低迷に伴い半導体製造装置関連の需要が減速した一方で、電気自動車向けのパワー半導体用高熱伝導窒化ケイ素基板の需要は引き続き拡大を続けており、増産に向けた投資計画を前倒しで進めるなど、将来の事業拡大に向けて着実に取り組んでいます。
以上のような取り組みのもと、当社グループの当第3四半期連結累計期間のセグメント別の経営成績については、以下のとおりとなりました。
なお、当第3四半期連結会計期間末の連結財政状態は、総資産が7,594億45百万円となり、前連結会計年度末比で463億18百万円増加となりました。また、純資産は4,025億74百万円となり、前連結会計年度末比で45億93百万円増加となりました。
当社グループは、自らのパーパス(存在意義)を“Enhancing planetary health”と再定義し、パーパスを道標として長期経営ビジョン「2040年ビジョン」並びに中期経営計画「Building a Sustainable Planetary Infrastructure 2025(BSP2025)」を2021年5月に策定しました。2021年度から2025年度の5年間は、「2040年ビジョン」の1stフェーズ、挑戦の5年間と位置づけ、BSP2025において「EPC事業のさらなる深化」、「高機能材製造事業の拡大」、「将来の成長エンジンの確立」を重点戦略とし、戦略投資に積極的に取り組むことで収益の拡大、多様化を進めてまいります。
当第3四半期連結累計期間において、当社グループが定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
当第3四半期連結累計期間において、当社グループが対処すべき課題について重要な変更はありません。
当第3四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発費は83億41百万円です。なお、当第3四半期連結累計期間において、当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
(5)従業員数
当社の当第3四半期連結累計期間の従業員数は243名であり、前事業年度に比べ70名減少しております。これは2023年4月1日付で日揮コーポレートソリューションズ株式会社に当社のコーポレート機能を移管したことなどによるものであります。
(参考)受注高、売上高及び受注残高
(単位:百万円)
(注)1.総合エンジニアリング事業の「当第3四半期連結会計期間末受注残高」は、当第3四半期連結累計期間における為替換算による修正及び契約金額の修正・変更等による調整額101,205百万円を含んでいます。
2.機能材製造事業の「当第3四半期連結会計期間末受注残高」は、当第3四半期連結累計期間における為替換算による修正及び契約金額の修正・変更等による調整額26百万円を含んでいます。
3.その他の事業の「当第3四半期連結会計期間末受注残高」は、当第3四半期連結累計期間における為替換算による修正及び契約金額の修正・変更等による調整額202百万円を含んでいます。