売上高

利益

資産

キャッシュフロー

配当(単独)

ROE

EPS BPS




E26096 Japan GAAP


2【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 本書において使用される専門用語につきましては、(*)印を付けて「第2 事業の状況  2 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の末尾に用語解説を設け説明しております。

 また、文中の将来に関する事項は、当第3四半期会計期間の末日現在において判断したものであります。

(1)経営成績の状況

 当第3四半期累計期間における国内外の経済環境は、ウクライナ情勢の長期化、資源価格や原材料価格の高騰、円安の進行など、依然として先行き不透明な状況が継続しております。こうした外部環境の中、当第3四半期累計期間における当社業績につきましては、売上高524,023千円(前年同四半期比90,328千円増加)、研究開発費803,247千円(前年同四半期比113,169千円減少)、営業損失905,313千円(前年同四半期は1,039,329千円の営業損失)、経常損失916,239千円(前年同四半期は1,029,779千円の経常損失)、四半期純損失918,465千円(前年同四半期は1,027,559千円の四半期純損失)となりました。売上高につきましては、創薬支援事業において国内製薬企業との新たな包括契約の締結をはじめ、新たな顧客との取引を開始したこと、既存顧客における取引が堅調に推移したこと等により前年同四半期に比べ当第3四半期累計期間は増収となりました。また損益につきましては、研究開発費で主にCBA-1535に係るCMC費用の計上額が前年同四半期よりも減少したこと等により、営業損失、経常損失、四半期純損失ともに前年同四半期比で赤字幅の縮小となりました。

 当第3四半期累計期間における当社の事業活動の概況は次のとおりです。

 

 創薬事業においては、自社開発中のがん治療用抗体CBA-1205およびCBA-1535の臨床第1相試験を進めております。CBA-1205においては、現在、肝細胞がん患者さんを対象として本剤の安全性と初期の有効性を確認する後半パートが進行しております。さらに、肝細胞がん以外の適応症への展開に向けた海外研究機関との共同研究の推進や、DLK-1を標的とした更なる創薬探求の検討を進めるなど、導出(*)価値向上を企図する活動を積極的に推進しております。2つ目の臨床開発品目である多重特異性抗体CBA-1535においては、前半パートにおいて固形がん患者さんを対象に、段階的に治験薬の投与量を増やしながら安全性の確認を進めております。また創薬パイプライン(*)のPCDC(*)については、契約獲得に向けて導出候補先となりうる複数の海外製薬企業と秘密保持契約下(一部サンプル評価契約下)での科学面を中心とした協議を進めております。当社では今後のCBA-1205・CBA-1535・PCDCの導出契約締結に伴う一時金収入により、単年度黒字化の達成に向けた事業展開を進めております。

 PCDCに続く創薬パイプラインとして当社が重点プロジェクトとして育成をしてきた中枢神経系領域の治療用抗体のPFKR(*)については、前期末までに特許出願を完了しており、国内外の主要なBDカンファレンスでの導出活動を開始いたしました。また、これまでに特許出願が完了しているがん領域の創薬プロジェクトの1つにおいては、昨年参加した国際学会での発表後、興味を持った海外製薬企業との間で今後の研究方針等について協議を進めるなど、創薬事業の成果創出にむけた取り組みを推進しております。その他、新規ターゲットに対するリード抗体(*)の創出及び知財化に向けた研究開発についても継続しており、今後の開発パイプラインの質・量の拡充に向けた取り組みを進めております。

 

・創薬パイプライン(導出品)

 スイスのADC Therapeutics社にPBDとの抗体薬物複合体(ADC)(*)用途に限定して導出したLIV-1205は、ADCT-701として神経内分泌がんを対象に米国国立がん研究所(NCI)での臨床試験(*)が予定されており、これまでに臨床第1相試験の実施にむけたIND(Investigational New Drug)申請が完了しております。なお、本臨床試験はNCIを中心に進められる予定です。

 

・創薬パイプライン(自社研究開発・導出候補品)

 CBA-1205については、日本国内において臨床第1相試験を実施しております。本治験の主目的は、前半パートでは固形がん患者さん、後半パートでは肝細胞がんの患者さんにおける安全性と忍容性の評価です。前半パートの患者登録は終了しており、本抗体の高い安全性が示唆されております。また、前半パートの最終結果はすべての解析の終了を待つ必要がありますが、客観的な腫瘍評価法であるRECIST v1.1(*)による評価ではメラノーマ(悪性度の高い皮膚がんの一種)の患者さんで腫瘍縮小を伴うSD(安定)評価が長期間継続し、CBA-1205の投与期間は27ヶ月を超えて現在も投与が継続しております。一般的に固形がんを対象とした第1相試験には、標準的な治療法に不応・不耐であり、切除不能な進行・再発の固形がん患者さんが参加されます。本治験の前半パートに参加された患者さんも既に複数の標準的治療法を受けておられることから、腫瘍縮小を伴うSD評価の継続は意義のある状況と考えております。上記症例における投与期間の継続は当初の当社想定を上回るものであることから、当社では追加の治験薬製造を行い本年末には供給開始が可能となるなど、臨床第1相試験の着実な遂行体制を整えております。また、肝細胞がんの患者さんで安全性・初期の有効性を評価する後半パートでは、既に本剤を投与された患者さん1例においてPR(部分奏功:30%以上の腫瘍縮小)を確認できたことにより、後半パートの治験登録患者さんの適格性基準の厳格化及び治験期間の延長を行うことを決定しております。なお導出スケジュールに変更はなく、導出候補先企業へは治験の進捗状況を適宜提供しながら、導出交渉を進めてまいります。

 CBA-1535については、2022年6月末に前半パートにおける第一例目の固形がん患者さんへの投与を開始し、現在まで順調に国内での治験が進行しております。後半パートの開始時期については、本剤の導出可能性も踏まえて自社での臨床開発投資を合理的にコントールできるよう、前半パートでの薬効シグナルを確認後に開始(2024年を予定)する計画へと変更いたしました。本試験は、がん細胞と免疫細胞(T細胞)(*)の双方に結合し、T細胞を活性化してがん細胞を叩くというTribody™(*)フォーマットのT cell engager(*)としての作用機作を検証するための世界初の臨床試験であり、CBA-1535でこのコンセプトが確認されれば他のがん抗原に対するTribody™の適用の可能性が広がることになります。

 PCDCはヒト化抗CDCP1抗体の薬物複合体として、ADC用途を中心として導出活動に取り組んでおります。本抗体においては導出先企業のADC技術と当社抗体の組み合わせによる開発ニーズが高い状況を受けて、ADC技術を保有する企業への抗体の導出活動を進めておりますが、現在導出に向けて複数の製薬企業と秘密保持契約下(一部、サンプル評価契約下)で科学面を中心とした協議を進めております。

 PTRY(*)は、CBA-1535のT cell engagerとしての機能に免疫チェックポイント阻害機能を加えることを期待したTribody™抗体であり、初期の動物モデルを用いた評価では強い抗腫瘍効果を示しております。現在、当社創薬パイプラインの一つとして研究開発を重点的に進めております。

 BMAA(*)については、これまでに取得した抗セマフォリン3A抗体のデータを用い、アカデミア等との共同研究を推進しておりましたが、新たに取得した薬効データを付加し、導出活動を進めていく予定です。

 LIV-2008/2008bについては、他の創薬パイプラインの導出活動と合わせて、新たな導出先の開拓を進めております。

 PFKRはGPCRの1種であるCX3CR1を治療標的としており、当社が国立精神・神経医療研究センターと共同研究を進める自己免疫性中枢神経領域の新しい導出候補品です。

 その他、探索段階にある創薬プロジェクトについては、導出計画や開発計画を検討しながら事業化に資する研究活動を推進しております。当社では継続的な創薬シーズの創出と知財化を行うことにより、新たなパイプラインの拡充と導出機会の探索等を行ってまいります。また、国内のアカデミアと協働で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成事業に係る感染症領域やADLib®システム(*)の技術改良に関する基礎研究も実施しており、今後当社の新たな創薬技術としての実装を目指し技術開発に取り組んでおります。

 以上の結果、創薬事業における当第3四半期累計期間の業績は、臨床開発の進展により803,247千円(前年同四半期比113,169千円減少)の研究開発費を計上、セグメント損失は803,247千円(前年同四半期は916,417千円のセグメント損失)となりました。

 

 創薬支援事業は、当社の安定的な収益確保に資する事業であり、当社の独自の抗体作製手法であるADLib®システムを中心とした、抗体作製技術プラットフォームを活かした抗体作製業務や抗体の親和性向上業務、タンパク質調製業務を受託し、国内の主要製薬企業を中心にバイオ医薬の研究支援を展開しております。国内の製薬企業を中心に当社の技術サービス力をご評価いただき、着実に取引件数や案件数が広がっており、当第3四半期累計期間において新たに国内大手製薬企業との委受託包括契約を締結したほか、国内診断薬企業との新たな委受託業務を開始いたしました。収益基盤の強化のための新規顧客の開拓は継続して進めており、今後も本事業の伸長に向けて取り組んでまいります。

 創薬支援事業における当第3四半期累計期間の業績は、国内製薬企業を中心に既存顧客との安定的な取引が継続したことにより、売上高524,023千円(前年同四半期比90,328千円増加)となり、セグメント利益は307,091千円(前年同四半期比72,100千円増加)、セグメント利益率は58.6%(目標50%)となりました。

 

(2)財政状態の分析

(資産)

 当第3四半期会計期間末における総資産は、現預金の減少などにより、前事業年度末に比べ462,268千円減少の1,753,201千円となりました。

(負債)

 当第3四半期会計期間末における負債の残高は542,179千円となり、前事業年度末と比較して117,454千円増加いたしました。これは主に短期借入金が132,300千円増加したことによるものであります。

(純資産)

 当第3四半期会計期間末における純資産の残高は1,211,022千円となり、前事業年度末に比べ579,723千円減少いたしました。これは主に、新株予約権の行使により資本金及び資本準備金が増加したものの、四半期純損失の計上による利益剰余金の減少があったことによるものであります。

 

(3)経営方針・経営戦略等

 当第3四半期累計期間において、当社の経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。

 

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当第3四半期累計期間において、当社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。

 

<用語解説>(50音、アルファベット順)

用語

意味・内容

導出(ライセンスアウト)

特許権やノウハウ等の他者への売却や、実施許諾することをいいます。

パイプライン

新薬として開発している医薬品候補化合物等のことを「パイプライン」といいます。創薬研究から臨床開発を経て関係当局の承認を受けるまでの活動を「創薬」と呼び、「創薬パイプライン」とは創薬のいずれかの段階にあるパイプラインのことをいいます。また、創薬パイプラインのうち開発段階に入ったパイプラインのことを、特に「開発パイプライン」ということがあります。

リード抗体

ADLib®システム、ハイブリドーマ法、B cell cloning法などの様々な手法で作製した抗体の中から、親和性、特異性、生物活性、安定性などのスクリーニングによって見出された医薬品になる可能性を有する抗体群をリード候補抗体と呼び、これらのリード候補抗体群のうち、医薬品としてその後の最適化などのステップに進めるための抗体をリード抗体と呼びます。

臨床試験

臨床試験には、次の3段階があります。

第1相試験(フェーズ1):少数の治験参加者を対象に、治験薬の安全性と治験薬が体内に入ってどのような動きをするのかを確認する試験

第2相試験(フェーズ2):第1相試験で安全性が確認された用量の範囲で、比較的少数の患者さんを対象に、治験薬の有効性(効果)、安全性、用法(投与の仕方:投与回数、投与期間、投与間隔など)・用量(最も効果的な投与量)を確認する試験

第3相試験(フェーズ3):第2相試験で確認された用法・用量で、多数の患者さんに治験薬を対象に、有効性と安全性を検証する試験

初期臨床試験は主に第1相試験及び初期の第2相試験のことを指し、治験薬の安全性を主に、有効性の兆しを観察します。

ADC

抗体薬物複合体(Antibody drug conjugate)のことを指します。例えば、悪性腫瘍の細胞表面だけに存在するタンパク質(抗原)に特異的に結合する抗体に毒性の高い薬剤を結合させると、そのADCは悪性腫瘍だけを死滅させることができます。このため、比較的副作用が少なく効き目の強い薬剤となる可能性があります。

ADLib®(アドリブ)システム

ADLib®システムは、多種多様な抗体を産生する細胞集団であるライブラリから、特定の抗原を固定した磁気ビーズを用いて目的の抗原に結合する抗体産生細胞を取り出す仕組みです。ADLib®システムで用いるライブラリは、ニワトリのBリンパ細胞由来のDT40細胞の持つ抗体遺伝子の自律的な相同組換えを活性化することによって(当社特許技術)、抗体タンパク質の多様性が増大しております。既存の方法に比べ、迅速性に優れていること及び従来困難であった抗体取得が可能になる場合があること等の点に特徴があると考えております。

BMAA(抗セマフォリン3A抗体)

セマフォリン3Aは神経の先端の伸長を制御する因子として発見されました。これまでの研究により、セマフォリン3Aを阻害することにより神経再生が起こること、また炎症・免疫反応やがん、骨の形成、アルツハイマー病、糖尿病合併症等とも関連していることが報告されております。抗セマフォリン3A抗体は、この因子の働きを抑えることによりアンメットニーズの高い各種疾患の治療薬開発に結びつくことが期待される抗体です。本抗体は、当社独自の抗体作製技術であるADLib®システムで取得されました。

PCDC(抗CDCP1抗体の社内コード)

標準治療耐性のがん種を含む幅広い固形がんで発現(肺、結腸直腸、膵臓、乳、卵巣がんなど)するファースト・イン・クラスとなる標的分子CDCP1に対するヒト化抗体です。細胞内に入り込むインターナリゼーション能が高いことから、薬物との複合体であるADCとしての効果が期待されます。

PFKR(社内コード)

CX3CR1/Fractalkine receptorの機能阻害抗体であり、自己免疫性神経疾患の病態進行を抑制する治療用抗体です。

PTRY(社内コード)

53L10 型 Tribody™(PTRY) は、3つの抗原結合部位の標的をそれぞれ、固形がんに発現が認められる 5T4、免疫細胞である T 細胞上の CD3、残る 1 つを免疫チェックポイント阻害に関与する PD-L1 とした、がん治療用抗体です。Tb535H (開発コード:CBA-1535、標的分子:5T4×CD3×5T4)よりも強力な抗腫瘍活性を示し、特に 53L10 型の組み合わせにおいて最も強い腫瘍増殖抑制効果を発揮することが示されています。

RECIST v1.1

固形がんの治療効果判定のための 新ガイドライン (RECIST ガイドライン)  改訂版 version 1.1のこと。成人および小児のがんの臨床試験において使用する、固形がんの測定の標準的な方法と、腫瘍のサイズの変化の客観的評価の定義について記述したものです。

T細胞

リンパ球の一種で、免疫反応の司令塔として重要な役割を果たす細胞。T細胞はその機能によって、免疫応答を促進するヘルパーT細胞、逆に免疫反応を抑制するサプレッサーT細胞、病原体に感染した細胞や癌細胞を直接殺すキラーT細胞などに分類されます。

T cell engager

T細胞エンゲージャー(T Cell Engager、TCE)は、疾患の原因となっている細胞(例えばがん細胞)や病原体に、キラーT細胞のような異物を駆除する役割を持つ免疫細胞を近づけ、疾患の原因を取り除いて治療することを狙った医薬品・化合物のことです。がん治療薬としての研究開発が進んでいます。

Tribody™

多重特異性抗体を作製する自社の技術であるTrisoma®で作製された抗体の商標です。バイスペシフィック抗体は2種類の標的(抗原)に結合することができますが、Tribody™は抗原結合部位が3ヶ所あるので最大3種類の抗原に結合することができ、より特異性の高い抗体を作製することができます。